スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

The crystal wedding (後編)

―――2月。

蓮は再び東京にいた。
東京でも指折りの5つ星ホテルの一室。
先日クランクアップした映画のインタビューが、後ほど同じホテルの別室で行われる予定になっている。

「疲れていないか?」
社が心配するのも無理はない。
プロモーションを済ませたらLAへとんぼ返りし、すぐ次の撮影にとりかかる。
そんな弾丸スケジュールはなかなかにハードなものだった。
今や俳優部門の長となった社だが、分単位で動く蓮の日本でのマネージメントだけは相変わらず彼が手掛けている。
仕事というより、もはや長年の友人として。

「これくらい、大丈夫ですよ。」
にっこりと微笑んだ蓮のスマホが、胸ポケットで震えた。
取り出して画面をみれば、以前登録していたスケジュールの通知アラーム。
『キョーコ あけぼのテレビ』
(ああ、今日か。)

仕事の話をめったにしないキョーコが、さりげなく蓮に話を振ったのはちょうど出発寸前のこと。
「そういえばこの間のインタビュー。久しぶりだったから緊張しちゃった。でも楽しくてついいろいろ話しちゃったの。」
わざわざ言うなんて珍しい、と気になっていた。
どんな話をしたのかいくら聞いても恥ずかしがって答えようとしないから、絶対見てやると放送日をメモしておいた。
念のため録画の手配もしているけれど、今から放送されるならちょうど都合がいい。

「じゃあ俺、インタビューの打ち合わせに行ってくるわ。1時間後に呼びに来る。」
立ち去る社を目で送り、蓮は部屋のテレビを点けた。


それは、昨年キョーコがヒロインであるキュレーターを演じたハリウッド映画がらみのインタビュー。
映画のこと、監督のこと、撮影秘話・・・話はごくごく普通に進む。
(ん?べつに変な内容じゃないじゃないか。)
首をかしげつつ、それにしてもやっぱりキョーコはきれいだな、と身振り手振りを交えながら表情豊かに映画を語る姿を目で追いかける。

「今回京子さんはキュレーター役ということですが、美術はもともとお好きで?」
「ええ、そうですね。絵や彫刻・・・それに教会や宮殿の天井を飾るフレスコ画も。以前ヴェルサイユに行ったときは、こんな素晴らしい作品に囲まれて毎日を過ごすなんて自分だったら・・・ってお姫様になった自分を想像して、ついうっとりしちゃいました。」

恥ずかしそうにへへっと笑うキョーコの殺人的な可愛らしさ。
(録画しておいてよかった。)
蓮は心底そう思う。
本当に彼女は、いくつになっても変わらない。
17歳のあのころのまま。
(いや、初めて会った少女のときから変わらない、か。)
変わったのは、蓮の彼女へ対する想い。
年を追うごとにますます愛しい気持ちが強く濃くなっていく。

「では、ご主人と美術館に行ったりも?」
「なかなかそういった時間は取れないんですが、行けたらいいなあとは思いますね。」
「お二人ともお忙しいですものね。ではご主人・・・敦賀蓮さんも美術がお好きで?」

(ん?)
自分の名前が呼ばれてハッと画面に気持ちが戻る。
「そうですね。ただ、私が夢中になって好きな絵や彫刻の話ばかりしすぎると聞き流されることもあるんですよ。」

(それは君が俺以外のモノに夢中になっているのをみると腹立たしいから拗ねてるだけじゃないか。)
第一絵や彫刻だけの話じゃない、と蓮は思う。
キョーコがつい夢中になるものすべてが気に入らないのだから。
(君がそのキラキラとした瞳で俺以外を見つめるのは、それがたとえ絵だろうと彫刻だろうとイヤなんだよ。)

「そうなんですね。じゃあ、ご主人の興味はまた別のものに?」
「んーーーー。」
小首をかしげて少し迷った後、キョーコはにっこり笑って口を開いた。
「彼の趣味は役者の仕事、あとは古い映画を見ること、でしょうか。その二つに通じるものもありますけど、2点集中主義の人生がいいみたいですね。そんな姿をみていると、ある意味この人は本当に”役者バカ”なんだなあって思ったりもします。」
「それでは最後に。もし一つだけなにか願いが叶うとしたら、京子さんはいったい何を願いますか?」
「願い事・・・。」
少し考えるように瞼を閉じ、再び目を上げる。
長い睫毛に縁どられた大きな瞳を、強い意志を匂わせた。
「好きな人と同じ瞬間に死なせてください。」
そう告げるキョーコの表情があまりにも眩しくて。
思わず言葉を失ったインタビュアーが、気を取り直すように首を振った。
「好きな人というのはもちろん?」
僅かに挙げた左手のリングに一瞬目をやり、キョーコはもう一度やわらかく微笑んだ。


社が呼びに来るまで、蓮は呆然と画面を見つめていた。
番組はとっくに終わっているというのに。

「おい、蓮。どうしたんだ?時間だぞ。」
「あ、はい。すみません。今、用意します。」
言いながらスマホを開く。
『インタビュー、見た。』
それだけ送って、急ぎ社の後を追った。


*


成田へ向かう車の中で、蓮はキョーコからの返信を受け取った。
開いたメールに書かれていたのはたった一言。

『お正月の逆襲です』

え、お正月?と思い、すぐピンとくる。
(まさか社長、あの収録をキョーコに送ったんじゃ・・・いや、送ったんだな。間違いない。)
DVDを片手に「愛とはすばらしい」などと宣いながら高らかに笑うローリィの姿が瞼に浮かぶ。
(挨拶に行ったときやけに上機嫌でニヤニヤしてると思ったら・・・そういうことだったのか。)
キョーコに知られて困ることではないし、いつか伝わったらと思っていたのも確かだが、それにしてもまさか社長がそこまでするとは・・・。
♪♪~♪~~
考える蓮の手の中で、着信音が再び鳴る。

『ぜんぶ本当のことだけど。』

急ぎ開けばまたたった一言。
「やられたな。」
メール画面をコツンと額にあて、蓮はそれはそれは嬉しそうに呟いた。


(うわっ、久しぶりにみるとこりゃまた刺激が強すぎるな。)
そっと隣りを盗み見た社が思う。
見た瞬間、今すぐドロドロの液体状に溶けてしまいそうなほど蕩けた微笑み。
砂を嚙むどころか、砂に埋もれて瞬時に窒息させられそうなその顔。
(キョーコちゃんと結婚して以来、こうした表情は何度も見てきたけれど、それにしても今日はまた・・・)
だいぶ慣れたつもりだったのにまいったなと目をそらす
そんな社を尻目に、蓮は再びスマホを手に取った。

『言っておくけど、俺の趣味は役者とキョーコだから。』



窓の外を高速道路のライトが次々と流れていく。
成田空港まであとわずか。
そこからLAの自宅までいったいどれだけかかることか。
家で待つキョーコを想い、蓮は大きくため息をついたのだった。




Fin
スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。
関連記事

コメント

  • 2016/01/04 (Mon)
    00:14
    一言で言うなら。

    「甘〜〜〜〜〜〜〜〜い!」

    デスネ!

    しかし、キョコさんの反撃は凄いです!

    一撃必殺!?

    蓮さんが嬉し過ぎて、砂を嚙むどころか、砂に埋もれて瞬時に窒息させられそうな顔をしちゃうのも頷けます。

    あ、ご挨拶が遅くなりましたが、ギリギリ三が日内ですね。

    明けましておめでとうございます。
    本年もどうぞよろしくお願いいたします。

    ──────
    コメント送信中にエラーになりました。
    2回送っていたらごめんなさい。

    まじーん #NkOZRVVI | URL | 編集
  • 2016/01/05 (Tue)
    12:45
    Re: 一言で言うなら。

    こちらこそ新年あけましておめでとうございます。
    本年もどうぞよろしくお願いいたします。

    やっぱり新年最初は甘くないと~というわけで甘さ全開になるよう頑張りました!
    とはいえ、このお話って最初にも書いた通り、唐沢寿明さん&山口智子さんご夫妻が実際にインタビューで語っていらしたことがベースになっているんです。
    そう思うと、あのお二方が今後お互いについてどんな発言をされるのか気になって気になって・・・(勝手に蓮キョ変換♪)

    ちなぞ #- | URL | 編集

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。