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Birthday Eve (中編) ~キョコ誕~

*12/26 改稿*

昨夜からつけっぱなしのテレビ画面をぼんやりと眺める。
今日はクリスマスだと話すアナウンサーの後ろで輝く巨大ツリー。
その前を次々と行き交う人々の笑顔が胸に痛い。

小さく息を吐き、寝不足の体を引きずるように立ち上げた。
時計の針はまもなく正午。
昨夜からずっとテーブルの上に置かれたままのスマホは、結局まだうんともすんとも言わない。

*

最後に声を聞いたのはたしか2週間以上前。
それだって1か月ぶりぐらいの電話だった。
メールのやりとりは少なくない。でも、ただでさえ時間がないところに、気持ちを改めて文字にするのが苦手な二人ではその内容もたかがしれている。
そう。
私も忙しかったけど、彼はもっとずっと忙しかった。
そのときも話せたのはほんの数分。
それでも、声が聞けただけでもうれしくて。うれしくてほんの少し涙が出た。


「あの・・・ね、キョーコ。今年はどうする予定?」
「え?」
「その、クリスマスっていうか。」
敦賀さんには珍しく歯切れが悪かったのは、たぶん去年のことを思い出していたからなんだろう。
カードもプレゼントも届いたけれど、それまで毎年もらっていた0時ではなく、朝一番に焦った様子でかかってきた去年の電話。
でもそれも5分ほどで切らなければならなかった。
ちょうど映画の撮影が佳境に入っていたから仕方ない。
頭ではわかっていたけれど、心にぽっかりと空いた穴はどうにもできなかった。

「今年も24日はマリアちゃんのパーティに出席する予定ですよ。そのあとは・・・女子会かな。モー子さんと天宮さんが、今年は朝まで飲むわよーって張り切っていたし。」
顔は見えなくても、ちゃんと笑顔を作ってそう答える。
「・・・・ごめんね。」
謝ってほしいわけじゃない。そうじゃなくて。
「ううん。気にしないで。お仕事がんばってくださいね。」
そうじゃなくて何だろう。


敦賀さんのことを好きだと気づいたのは17歳になってすぐ。
誰にも言えない気持ちだと、絶対に知られてはいけない気持ちだと、押し込めれば押し込めるほど、その想いはどんどん大きくなっていって。
自分でもどうしようもないほどふくらんでしまったとき、好きだと言われた。
“恋人”
それがどういうものかよくわからないまま、スタートした交際。
毎日が信じられないほど幸せだった。
会えなくても、電話で声を聞くだけで。
会って二人寄り添えば、なおいっそう。
昨日より今日、今日より明日と、どんどん敦賀さんを好きになっていく。
敦賀さんが注いでくれる驚くほど大胆でまっすぐな愛情は、私の乾ききっていた心を溢れんばかりに満たしてくれた。

―――そうして私は、“愛”がどんなものか知った。


でもそんなとき、敦賀さんのハリウッド行きが決まった。
敦賀さんにとって夢だったハリウッド。
それをわかっていて、行かないでなんて言えるはずがない。

あの頃、冗談めかして何度も告げられたプロポーズ。
それが冗談でも嘘でもないことに、本当は気づいていた。
でもそれを受けることはできない。
まだまだ未熟な自分では、これから大きく羽ばたこうとしている彼の枷になることがよくわかっていたから。

だからこそ、1日も早く敦賀さんと肩を並べて一緒に歩いていける女優になりたいと。
がむしゃらにがんばって。がんばって。がんばって。
やっとここまできたのに。

『あの大監督からオファー!』『ハリウッド映画主演!』『アカデミー助演男優賞ノミネート!』
たくさんの美しく華やかな人たちに当たり前のように囲まれている敦賀さんは、まるで別世界の人だった。

いくら追っても追いつけない。
追いかければ追いかけるほど、どんどん遠いところへ行ってしまう。
私の手の届かないところへ。
記事を見るたびそんな不安に押しつぶされそうになって、敦賀さんの存在はこんなにも大きかったのだと思い知った。
笑顔で送り出したことは今もなにひとつ後悔はしていない。でも・・・。

「そんなに落ち込むくらいなら、いっそ行ってくればいいじゃない。どうせ25日はオフなんでしょ。LAなんてその気になれば1泊2日で行ける場所なんだから。」

モー子さんはあきれたようにそう言った。
でも、私が行くことで彼の気持ちを散らして仕事の邪魔をしたくない。どんな小さな枷にもなりたくない。
黙り込んだ私を見てモー子さんは、まったく意地っ張りねって笑ってたけど。
(意地っ張り、か・・・。)


ほんとはね。怖いだけ。
毎年誕生日だけは必ずオフにしてた。
誰にも会わず、どこにも行かず。いつ電話がきてもちゃんと受けられるように。
誕生日の電話だけはぜったい、何があっても出たかったから。

たとえ数分しか話しができなくても。
0時ちょうどじゃなくてもいい。
でも・・・

―――― 一番最初の「おめでとう」は敦賀さんから聞きたい

それがなくなるのが何より怖い。


今年も、待っていた。
でも待っても、待っても、待ちくたびれるほど待っても、電話は鳴らなくて。
何かが絶たれたような気がした。


「あんたってほんと、恋愛に関しては奥手というか下手というか、とにかく待ちの一手よね。ふだんのあんたとはまったく違うっていうか。」
ふとモー子さんの声が聞こえる。

「ま、恋愛なんてものに関して私はどうこう言える立場じゃないけど。でもあんた、たまにはもっと自分から行動してもいいんじゃないの。」
・・・うん。わかった。

意を決して、テーブルの上に手を伸ばす。


『Thank you for calling. I'm sorry but I can't answer your call right now. Please leave a message at he tone.』

――――電話に答えたのは、無機質な女性の声だった。




(続く)
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