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angel's ladder (6)

思いもよらなかった。
私がずっと願ってきた同じ思いを、誰かが私に対して抱くなんて。

『そばにいてもいい?』

言われた声が破片となって耳を抜け、心に食い込む。
そして頭の中をぐるぐると駆け巡っていった。
いくつもの大切な人たちの面影とともに。
「まったくあんたって子は!」言いながらもちゃんと私に付き合ってくれるモー子さん、
「やあ、キョーコちゃん」優しい笑顔でいつも私を気遣ってくれる社さん、
「お姉さま、大好き!」飛びついて笑顔を向けてくれるマリアちゃん、
ぶっきらぼうだけど本当はやさしいだるまやの大将、
いつも親身になって接してくれるおかみさん、
それに天宮さんや百瀬さん、社長、椹さん・・・

大好きで、本当に大好きで、大切にしている人たち。
でも一方で、いつか昔みたいに嫌われるんじゃないかとそんな恐怖も抱えていた。
だから心のどこかで不安が抜けなくて。
・・・でも、それはひとりよがりな思い込みだった。
自分の気持ちしか見てなくて、みんなが私に寄せてくれる気持ちをちゃんと見ようとしていなかった。

―――信じてなかった

どうして気づかなかったんだろう。
ここが私の居場所だと、そう思えるようになったのは、私がみんなを好きだからというだけじゃない。
みんなが私を好きでいてくれるから。
大切に思ってくれているから。
私といっしょにいたいと、そう思ってくれているから。
だからここが私の居場所になったんだ・・・。


そっと目を開けると、光芒はすでに雲影に溶け込み、その姿を消していた。
ふうと吐いた息が薄暮に白くにじむ。
気が付けば、レインボーブリッジに光が灯っていた。
(きれい・・・)
目の前の広い肩越しに、橋が虹色に輝いているのが見える。
その光が人工のものでも、燦然と輝き人の心を引き付ける美しさに嘘はない。

―――嘘はない。

信じよう。
今の私は・・・衒しなんかじゃない。
祝福された子供ではないかもしれないけれど、それでもきっとどこかで気まぐれな天使が私のために微笑んでくれている。


ふわり
頭のてっぺんに何かがふれる気配に気づき、顔を上げた。
泣きたくなるほどのやさしさを湛えた、けれど真剣な眼差し。
視線が重なり、その瞳の奥に無様に泣きはらした自分を見る。
でもその顔は、晴れ晴れと何かを振り切った顔をしていた。
そして長い睫毛が幾度か瞬き、その瞳の持ち主自身が放つ冴え冴えとした光が私を射抜く。

(敦賀さん・・・。)
この人は本当にたったひと言で私を救ってくれる。
私に、力をもたらしてくれる。
たった一人の人。
(好き・・・です。)

そんな私の心の内を知るはずもなく、
「そろそろ車に戻ろうか。君が風邪を引いたら、俺だけじゃなくみんなが心配するよ。」
そう言って敦賀さんは頭をポンポンとたたいた。

「体調管理も大事な仕事のうちだし、ね。」
身体が離れ、敦賀さんが立ちあがる。
同じ高さにあった瞳がひどく遠くなり、つい今しがたまであった温もりが、瞬く間に霧散していくのを感じた。
かけられた言葉の温もりはまだたしかに身体の芯に残っているのに。
守られる腕の感触もたしかに覚えているのに。
温もりだけが消えていく。
それが淋しくて。
恋しくて。
ぶるりと震える。

「あ、あの!」
ありがとうと言いたかった。言うつもりだった。それなのに―――。

私こそ、そばにいてほしいです。
誰よりもずっと近くに
いつまでも

そんな言葉を口走りそうになり、慌てた瞬間違う言葉が口に出た。

「好きです!」
「・・・え?」
背を向けかけていた身体が大きく揺れ、固まり、そしてゆっくりと向き直る。

「え、っと。あの、その・・じょ、冗談です。き、気にしないでください。」
な、何を言ってるんだろう。私。
今、とんでもないことを口走ってしまった。
混乱して、頭の中がわやわやになる。

「いや、気にする。」
けれどサングラスの奥の目をびっくりするほど見開いて、敦賀さんは私の顔を見つめた。

どうしよう。
どうしたらいいかわからない。

「いや、あの・・・その・・・言葉の綾というか、言い間違いというか・・・。」
困って退く私の腕を、敦賀さんがぐっと掴んだ。

「言い間違い?本当に?」


*


違う、間違いだと、懸命に訴える彼女の瞳を覗き込む。
すぐに困ったように目をそらされた。
けれど涙の痕がまだ垣間見えるその頬は驚くほど赤く染まり、吐きだす息がより白く際立って見える。
そのことに気づいた瞬間、先ほどまで抱えていた不安がどこかへと消え失せた。

「本当に?」
先ほど口にしたセリフをもう一度呟いた。
(本当に?本当に俺を好きなの?)
言葉が意味する気持ちはまったく違うけれど。

「ほ、本当です!だ、だから・・・だから忘れてください!」
キョロキョロと落ち着きなく視線を揺らし、その合間にも頬を染める朱の度合いはますます増して。

「それは、無理だな。」
いつしか顔全体を真っ赤に染めた彼女を見つめながら、俺はゆっくりとそう言った。

「え!?でも・・・」
「だって、今日の君は嘘つきだから。」
掴んだ腕をそっと引き寄せる。
ガタガタと震えていた彼女は、思いのほかあっさりと俺の胸に落ちてきた。

「なんでもない、なんて嘘だったろう?だから今のも信じない。いや、ちがうな。」
俺は再び彼女の背に腕を回した。

「冗談だなんて思いたくない。」
俺の言葉に何度も何度も瞬きを繰り返し、それでももう目をそらすことなく、彼女は俺を見つめていた。



嘘つきの君に俺はどんな罰を与えよう。
それはこれからゆっくり考えることにする。
大丈夫。時間はたっぷりあるからね。

「ねえ。最上さん、俺は・・・。」


ああ、そうだ。
忘れずにメールを1通送らないと。

――――社さん、申し訳ないけれど今日は事務所に戻れそうにありません。

そうそうそれに、25日のスケジュールもなんとか空けてもらわないといけないな。
いや、まず君に何て言おう。
何て言ったら君は素直に信じてくれるだろう。

俺も好きだ?
愛してる?

それとも・・・


戦慄く薄紅色の唇に、俺はそっと顔を寄せた。
目の前の大きな瞳にじんわりと水滴が浮かび、ぽろりとひと粒こぼれ落ちてきて。
塩辛いはずなのに妙に甘く感じるその粒を、俺はそっと吸い取った。





Fin
スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。



キョコ誕!と思って勢いで書いてみましたが、キョコ誕・・・の前に終わってしまい反省中。
ちなみにレインボーブリッジの虹色イルミネーションは年末年始の約1か月のみ行われているみたいです。
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コメント

  • 2015/12/22 (Tue)
    18:44
    きゃぁぁぁ!

    ちなぞさんマジック!!!!
    もう悶えました!!素敵です!大好きです!
    素敵な2人の思い出の一ページを見せてもらった気分です(大興奮)!!
    ほんわかしてほのぼのして、でもどこかちょっと切なくて…の見事なバランス!!
    ありがとうございました〜♪( *´艸`)

    風月 #- | URL | 編集
  • 2015/12/23 (Wed)
    13:30
    Re: きゃぁぁぁ!

    コメントありがとうございます~。嬉しいです♪
    久しぶりにガーっと書いたので、文章も内容もいろいろ微妙な部分が多々あって
    お恥ずかしい限りです^^;
    でも、喜んでいただけてほんとよかった!
    風月さんの新作も楽しみにしてますねー!

    ちなぞ #- | URL | 編集

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