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angel's ladder (2)

空を覆う厚い雲が、本格的な冬の到来を感じさせる。
日が傾くにつれ吹き始めた冷たい風は車内にまで入り込み、たいした距離でもないのにヒーターをつけるか迷うほどだった。

(もう12月か。)
1年は早いな、と考える頭の片隅で彼女を想う。
この月の終わりに生まれた彼女のことを。

*

気が付けば、車は事務所間近の交差点に差し掛かっていた。
前方の信号が黄色に変わったのを見て、ブレーキを踏みこむ。
いつもなら少しスピードを上げて一気に通り過ぎてしまうところだけれど、時計をみてやめた。
(この時間ならもしかして・・・)
僅かな期待が頭を持ち上げたからだ。
はたして辺りを見回すと覚えのある茶色い頭が目に入り、口元が緩んだ。
(ツイてるな。)
心の中で喝采を上げ、自分の勘のよさに感謝する。
はやる心を抑え、ゆっくりと車を路肩に寄せたとき、ようやく気づいた。

いったいなにがあったのか。
こちらに背を向け、ぼんやりと空を見上げている彼女。
道行く周囲の人々は、目もくれず隣を通り過ぎていくけれど。
よく見れば、細い肩のラインがまるで必死に涙をこらえているように時折小さく揺れている。

―――え?
どきりとした。

少し考え、携帯を取り上げてメールを1通投げる。
それからスモークガラスを半分下げ、努めて何でもないように声をかけた。
「最上さん。こんなところで何をしているの?今日は歩き?」

掛けた声に勢いよく振り返った顔は、驚きに満ちていた。
「つ、つ、つるっ、な、な、なんでここに・・・」
あまりに驚いて言葉にならないらしい。
サングラスを傾けよく見れば、その顔に涙を流した痕などはとくになく。
ほっとしたとたん、彼女のあまりの動揺ぶりに笑いがこみあげてきた。

「そんなに驚かなくてもいいだろう?」
「だ、だっていきなりでしたし。・・・って、そ、それよりこんなところで一体何なさってるんですか!」
「何って、事務所に戻るところだけど?」
さらりと返せば目が泳ぐ。

「そ、そうかもしれないですけど。でも、こんな目立つところに車を停めて。その上、いくら窓半分しか開けてないからって素顔を晒すなんて!」
驚いているのか、怒っているのか。
よくわからないけれど、とにかく混乱しているのは間違いないらしい。

「気づいた以上、声をかけないのもレディーに失礼かと思ってね。」
茶化すように答えたら、くりくりと大きな瞳をぱちくりさせながら口を尖らせこちらに近づいてくる。
「レディーなんて思ってもいないくせに!とにかく、そういう問題じゃありません!」
なんて怒る彼女の声のほうがよっぽど目立っていて、クスクス笑いながら聞き流し、誘いをかけた。

「あとちょっとだけど、よかったら乗ってく?かぼちゃの馬車、というわけにはいかないけれど、それなりに乗り心地はいいと思うよ。」
「え!?でも・・・・、えっと、あの、や、社さんはどうなさったんですか?」
「社さんは打ち合わせがあって、先に事務所に戻ったんだ。ね、今日は寒さが厳しいし、自転車じゃないならせっかくだから乗っていけば?」
「でも・・・。」
「どうせ目的地はいっしょだろう?」

そう言って微笑めば、先輩の誘いを断る理由はないはずだ。
案の定、しばらく迷っていたものの最後にははぁっと息をつき、彼女は申し訳なさそうに頭を下げる。
「すみません。ありがとうございます。」
そうして、辺りを気にするようにきょろきょろしながら、彼女はようやく助手席に乗り込んできた。
本当に、ようやく。


*


カタンッ
小さく音を立てて彼女が乗り込んだとたん、車内の空気が一変した。
現金なものだ。肌を刺す冷気さえ、今は不思議と心地よく思える。

「あの・・・本当によかったんでしょうか。」
「ん?あのままずっとあそこで会話していたほうがよかった?」
「そ、そんな!それはありえません!」

ふるふると首を振る彼女の視線はいつになく所在なさげで、さっきの姿と相まってそれがかなり気になるけれど。
うん。
まずは、大事な用事を片付けるとしよう。


「今日はこの後まだ仕事?」
「いえ、特に予定はないんですけど、何かお手伝いできることはないかと思って。」
「ふうん。じゃあ、せっかくだし少しだけ回り道をしようか。」
前を向いたまま、さりげなく切り出した。

「え!?は?はい???」
ガタッと音がして、彼女が腰を浮かせたのがわかる。
ある意味予想通りの反応だ。

「撮影が予定より早く終わってね。社さんとの待ち合わせまでまだ時間があるんだ。だから少しだけつきあってもらえると嬉しいなと思って。」
言いながら曲がるはずの交差点をまっすぐ突き抜け、スピードを上げた。
正直、NOという答えを受けいれる気はない。

「あ、あのちょっと、敦賀さん!!」
「どこで時間をつぶすか考えあぐねていたところだったから、助けると思って、ね?」
有無を言わさず押し切れば、彼女は戸惑いながらも腰を戻す。
それをいいことに、さらにアクセルを踏み込んだ。

「そんなに長い時間じゃないから安心して。」
横目でそっと助手席の彼女を盗み見ながら、言い訳のように付け加えた。
「・・・わかりました。」
やっと頷いた彼女に気づかれぬよう安堵の息を漏らす。
「この間、ちょっといい場所を見つけたんだ。最上さんが好きそうなところ。」

シートにおさまった彼女は背筋がピンと伸びきっていて、まだ緊張が解けそうにない。
それでもこうして隣にいてくれることについ幸せを感じてしまう。


そういえば、約束の時間が、なんてもちろん嘘なんだけど。
社さんにはちゃんと連絡したから、いいだろう。


ね?最上さん。




(つづく)
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