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angel's ladder (1)

キョコ誕間近ということで、ほんのりそれっぽいものを書いてみました。1話が短めです。



月明りが微笑む9月。
空高く澄み渡る10月。
北風が強さを増していく11月。
そして、やってくる12月。
終わりの月。

――――私の、生まれた月。


* * *


いつもは自転車で一気に駆け抜ける歩道橋のたもとで、ふと足を止めた。
何かに呼ばれたように、どんよりと曇った空を見上げる。
空は鈍色、凍曇。
幾重にも重なった厚い雲がこぼれ落ちる涙を必死にこらえているように見えて、なんだか目が離せない。
天気予報は曇りのち雨。
どうにかまだ耐えているけれど、きっともうすぐ雨がぽつぽつ降り出すんだろう。

(ああ、こういう空・・・)

昔は大嫌いだったっけ。
どよんとしてはっきりしない、いかにも冬らしい寒空。
見るだけで気分が滅入ってくる気がして。
私が生まれた日もこんなだったのかなって憂鬱だった。

(生まれた日、か。)

母のシルエットがぼんやりと浮かぶ。
『・・・私に子供はおりません。』
いつか聞いた否定の言葉が同時に蘇り、きゅっと胸が痛んだ。

幼いころからずっと、追いかけても追いかけても振り向いてくれなかった母。
母だけじゃない。
学校でも。
誰からも見向きもされなかった。

毎日辛くて泣きたくて。
でも、泣けなくて。
強がって、我慢して、気持ちを押し殺して。
ばかみたいに笑顔を作っていた。

本当はそんな自分がイヤでイヤでたまらなかったのに、どうすることもできなかった。
私は生まれてきちゃいけなかったのかなって、そんなことまで考えてたあの頃。

でも―――――

冷たい風が頬を撫で、視線の先を低い雲が急ぎ足で去っていく。
雲の群れは厚くなり、薄くなり。濃くなり、淡くなり。
よく見れば、吹く風で空色が徐々に変化していくのがわかる。

(もう違う。)

頭をもたげたまま、そっと首を振り下唇を噛んだ。
母の前で断言した「生まれてきてよかった」という言葉。
あれは、強がりなんかじゃない。

そのまま、流れる雲をじっと見据える。

どうしても叶えたい夢を見つけたこと。
会えてよかったと思えるたくさんの人たちに出会えたこと。
ようやく自分の居場所ができたこと。
すべてが私を変えてくれた。
今の私はあの頃とは違う。
生まれてきてよかったって心の底から思ってる。

知らず知らずのうちに、鞄をもつ右のこぶしに力がこもった。
――――右手。
今はもうすっかり消えてしまったけれど、この掌に刻まれた花丸を私は決して忘れない。
私を支えてくれる無限大の花丸。

(それでもまだ、こんな空を見ると時折心のどこかが痛むけど。)

相変わらず空はのしかかるように重く、吹く風は突き刺すように冷たい。
けれど、目をそらすことなく見つめ続けた。

(もう、大丈夫。だって・・・)

もうひとつ、今の自分を支えているものがある。
それは初めて知った、小さな、けれど強く熱い灯火。
何よりも大切な、ただ一つの想い。

――――敦賀さん。

目の前の困難から、逃げ出さない根性も。
立ち向かう勇気も。
ちゃんと私の中にあったことを気づかせてくれた人。
どんな痛みも、絶望も。
ひとことでかき消してくれる、魔法使いのような人。

冬の風がどんなに冷たく身を切ろうとも、こうしてあの人を想うだけで胸がぽっと温かくなる。

そう。
この気持ちがあれば、私はもっと強くなれる。
もっともっと、がんばれる。
何があっても、もうへこたれたりしない。

(今日こそ、会えますように。)

淡い願いと期待を胸に、再び歩き出したそのとき。
「最上さん。」
聞こえてきた声に、足が止まった。




(つづく)
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