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紅い花揺れて 後編

『夏まつり』企画参加作品、後編です。

夏まつり企画

sunny様主催 『夏まつり』企画  http://hhp.x0.to/lme_festival/summer.html


前編はこちら
中編はこちら

後編のBGMはなぜかスピッツ。
前編とは少しお話の雰囲気が変わっているかもしれません。

―――本当は見えていた。何もかも。

連の脳裏に、道端にひっそりと立つキョーコの姿がすっと浮かぶ。
道路の右手の古ぼけた街灯の下で、まるでスポットライトが当たっているかのように光を放って見えた派手なピンク色の浴衣。

たとえ山車の上からでも、見逃すわけがなかった。
(ラブミーピンク?)
ただそれだけで、視線が吸い寄せられるように釘付けになったのだから。

落ち着きなく動く人並みは、時折その目立つピンクすら覆い隠してしまうけれど。
ほの暗い街角に見え隠れする姿は、たしかにキョーコその人だった。

一心にこちらを見つめるその瞳に、言い知れぬ高鳴りを覚える。
周囲に悟られぬように。
けれどけっして彼女の姿を見逃すまいと、蓮は必死になった。

無情なほど淡々と進む山車にいて。
視界の端に彼女を追い続ける。

一瞬。
大きく揺らいだ山車の灯りが沿道に向かい、紅光がキョーコの顔をぱっと照らした。

その瞬間―――。

垣間見えるキョーコの唇がひとつの言葉を紡ぐのが、確かに見えた。


――――――――――
紅い花揺れて 後編
――――――――――


「・・・で、それはなに?」
硬直したままのキョーコを見て、蓮がさらりと話を変えた。

「え?りんご飴ですけど。」
「美味しい?」
「美味しいというか・・・」

小首をかしげたキョーコの手に蓮の手が再びすっと伸びる。
さっき逃げ出した小さな手のひらを、今度はもう逃がさないとばかりにがしりと捕まえた。

頬をぱさりと掠める黒髪。
ふわりと立ち上る香り。

ひゃうっ
キョーコが思わず音のない悲鳴のような声を上げたのに。
躊躇いもせず、そのまま蓮は掴んだ手に口を寄せ、かじりかけのりんご飴にかぶりついた。

(!!!)

息が止まるほど身が竦む。
そんなキョーコの耳に届いたのは、

「うっ、甘い。」

あからさまに狼狽した声だった。
驚いて目を上げると、目の前の唇が奇妙に歪んでいる。
そのままもごもごと困ったように動いた口元が、いつまでも止まらない。
あまりにもわかりやすい動揺ぶりに、キョーコは思わずぷっと吹き出した。

「だから言ったじゃないですか。」
「だって、君があまりに美味しそうな顔をしていたから。」
いつもの蓮らしくもなく、子どものように口を尖らせて言い返してくる。
「・・・参ったな、ほんとに甘い。どうしたらいいんだ、これ。飲みこむしかないよな。はあ・・・」
その様子があまりにおかしくて、キョーコはついそのままくすくすと笑い出してしまった。
つられるように蓮も笑い。
そうやって笑い合ううちに思った。

(ああ、そうか。これは、“役”だ。さっき敦賀さんも言ったじゃない。“周りをだます”って。私が今与えられたのは、敦賀さんを大好きで、敦賀さんと初めてデートすることができた最上キョーコ・・・という女の子の役。ただ、それだけのこと。そういう・・・こと。)

そう思ったら、ようやく少し力が抜けた。
あとはもう何も考えまいと、心の中で、自分にひたすら言い聞かせる。
(これは役。ただの、役。)

「わかりました。じゃあ、こうすれば・・・きっと・・・デート中って感じに見えますね。」
にこりと微笑んで、できるだけさりげなくそう言うと、キョーコは自分から蓮の手をとった。
「お参りなら、下に小さな社があるので、そこに行きましょう。あっちのほうが目立たないから。」
それだけ言って目をそらし、すぐ歩き始める。

(息を吸って、それから吐いて。落ち着け、キョーコ。これは役。ただの役。だいじょうぶ。私ならできる。できる・・・)



ずんずんとわき目も振らず歩くキョーコに手を引かれながら、蓮は面の下で小さく眉をしかめた。
(参ったな。どうやら、また変なスイッチが入っちゃったみたいだ。)
くっと唇をかみしめて、“デート”とは思えぬほど固い表情で前を行くキョーコを、半歩後ろからそっと眺める。

(まあいい。今はそんな君との時間を楽しむことにしよう。でも・・・。)




「危ないっ。」
不意に前を歩いていたキョーコが大きくよろけ、蓮は思わず声をあげた。
そのまま人波にもまれ、流されそうになったキョーコの手をぐいと強く引き寄せる。

「俺から離れないで。」
つい飛び出した言葉。

(離れないで?)
はぐれないでの聞き間違いかと目をあげたキョーコの視界に、驚くほどまっすぐに自分を見つめる瞳が映った。

(さっきと同じ・・・)

車上の蓮に向けられた眼差しがふと浮かび、すぅと息をのむ。
握られた手のひらから伝わる熱が、強すぎて辛い。

「大丈夫?」
「だ、大丈夫です。」

そう言って微笑んで見せたのに、なぜかそのままぐいと引き寄せられた。
抱きすくめられるように半身が触れ、キョーコの耳に掠れた声が響く。

「駄目だよ。離れちゃ。」

どくどくと波打つ心音が、手のひらから腕を抜けこめかみへと伝う。
それが相手にも届いているのではないかと、思うだけで心臓が止まりそうになった。
でも・・・・手を振り払うことができない。

―――離れないで

残響がいつまでも止まらない。

(役よ。キョーコ。これはただの役なんだから。)

頭の中で響き続けるその声を振り払うように頭を大きく振り、ようやくキョーコは口を開いた。
「ほんとに、本当に大丈夫ですから。」
そうして再び、何でもないように微笑んだ。


(さっきのはきっと気のせい。でも・・・)
ふっと視線を反らし、キョーコは強く唇をかみしめる。

―――でも、もし本当にそう言われたのだとしたら。

(離れませんから。・・・ぜったいに。)

キョーコは強く強くそう思った。


*


つないだ手と手はそのままに、ようやく肩を並べて歩き出した二人。
ざわめきはやがて遠のき、人波は阻む力を失う。

何事もなかったかのように他愛ない話を繰り返し、時に微笑み合いながら二人は通りを進んだ。
キョーコの左手にはまだ、食べかけのりんご飴が朝露を浴びた紅い花のように、キラキラと光を照り返して揺れている。

そんな様子をときおりそっと横目で見ては、蓮はさりげなく繋がれた手に力を込めた。
そのたびに、伝わる熱と伝える熱が入り混じりひとつになるように感じられて。
それが何よりも、うれしかった。


「あ、見えてきました。たぶんあそこです。」
指さしたキョーコの頬が提灯の光を受けて、ほんのりと赤らんで見える。
穏やかに微笑み、うなずき返しながら、蓮は思う。

(さっき見えたあの口の動きを問い質すのは、もう少しあとにしよう。)

そうしてもう一度しっかりとキョーコの手を握り直した。


―――今はこうして、ただ君のぬくもりを感じていたいから。




遠いのか近いのかよくわからない。
けれど行く手には、ぼんやりと明るい光のかたまりが確かに見える。
その場所に向かい、ひとつの道を寄り添い歩む2人を、通りの両脇に吊るされた提灯の紅い灯がゆらゆらと照らしていた。


いつまでも。
どこまでも。




Fin
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コメント

  • 2014/08/30 (Sat)
    01:23
    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    # | | 編集
  • 2014/09/28 (Sun)
    23:31
    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    # | | 編集
  • 2014/10/01 (Wed)
    07:33
    Re: タイトルなし

    > ぼよぼよよんさん

    こんにちは。
    アメバばかりかこちらにまでいらしてくださり、ありがとうございます!
    基本的に更新はこちらのみなのでよかったらときどき遊びにいらしてくださいね^^

    > 夏祭りの華やかさと、きょこたんの片思い全開勘違いな淋しさの対比が
    > キュンキュン×300倍きましたわ。

    キュンキュンしていただけてよかった~♪
    夏祭りの情景を頭に描きながら頑張って書いたので、そういっていただけて何より嬉しいです(=´∇`=)
    この二人が並んでお参りしてたら・・・
    神様も「まったく、さっさとくっついちゃえよ!」とさぞや苦笑したことでしょうね~。

    ちなぞ #- | URL | 編集

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