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紅い花揺れて 中編

『夏まつり』企画参加作品の第二話です。

夏まつり企画

sunny様主催 『夏まつり』企画  http://hhp.x0.to/lme_festival/summer.html


前編はこちら


山車につけられたたくさんの提灯が、薄橙色の鈍光を散らしながらさわさわと揺れる。

艶やかに。
鮮やかに。
けれど、どこか物悲しくもあるその色。

見る間に通り過ぎていくそれを、キョーコは一瞬追いかけようとした。
けれど、行く手にはあまりにもたくさんの人がいて。
人ごみにもまれ、往生しているうちに、山車はどんどん遠ざかっていく。

立ち尽くす視界の真ん中で、紅の波は喧騒に飲み込まれるように消えていき。
もう追いかけることも忘れ、キョーコはただそれをじっと見つめるだけだった。

―――私の想いも、いつかあんな風に消えていくんだろうか。

ふとキョーコは思い・・・。

むしろ、そうあってほしいと切に願った。


―――――――――――
紅い花揺れて  中 編
―――――――――――

ようやく神社にお参りを済ませ、キョーコはわざと裏参道へ足を向けた。

大通りから境内への華やかな明るさに目がすっかり慣れていたせいもあるのだろうか。
明るい喧騒から逸れたその道は随分暗く静かに思え、そのことに何だかほっとしている自分に気付く。
駅までの道のりは、まだ遠い。

ブルブルブル ブルブルブル

突然携帯が震えた。
社長と表示された画面に、慌ててボタンを押す。

「おう、最上くん。今どこだ。」
「あ、はい。ちょうど神社でお参りを済ませたところですが・・・。」
「そうか。ちょうどよかった。ひとつ頼みたいことがあってな。」
「頼み?なんでしょうか?」
「ああ。いや実はな、君がいるその神社は恋愛の神様として有名なところらしいんだ。そこでぜひ我が透くんのためにお守りを買ってきてもらいたい。」

(透くん?)
それがローリィが今はまっている恋愛ゲームの主人公だということなど、キョーコは知る由もない。

*

結局神社に戻ってお守りを買い、再び同じ場所に戻ってきたころには、辺りはすっかり暗くなっていた。
こんなに遅くなるつもりじゃなかったのにと思いつつ、坂道を下る。
と、気になる赤色が視線の端を掠め、足を止めた。

(りんご飴?)

小さな屋台だった。
台の上にずらりと並ぶ赤い果実が、さっき見た提灯の群れに重なる。
追いかけようとして、できずに消えていった提灯に、やっと追いつけたような気がして。
「ひとつ、ください。」
気がついたら、げんこつほどの大きさのりんご飴をひとつ買っていた。

幼い頃、よく食べた紅いかたまり。
パリリと飴を噛みくだき、中のリンゴに噛りつく。
「甘っ。」
久しぶりに口にしたその味は、記憶にあるよりずっと甘くて驚いたけれど、ほのかに感じるりんごの酸味がゆっくり舌に伝わるにつれ、あの頃感じた美味しさが蘇る気がした。

(大好きなのに、せっかく買っても食べきれなくて、ずいぶん悔しい思いをしたっけ。)

思い出される幼い記憶。

(そういえば・・・あのころも私は一人でお祭りに行っていた。)

付き添いもなく、一人小銭を握りしめてお祭りに向かったあの頃。
最初こそ不安でたまらなかったけど、ずらりと並ぶ屋台や次々と現れる山車や神輿を見た途端、一人でいることなど忘れ夢中になっていた。

次の年も、また次の年も、そうやって一人で過ごすうちにいつのまにかすっかり慣れて。
小学生のころには、もう淋しいとすら思わなくなっていた。

(それが、一人でいることをこんなに淋しく感じるようになるなんて・・・)

理由はわかっていた。

今の自分は、たくさんの仲間に囲まれている。
大切な友人もたくさんいて、
大好きな親友もできた。

ひとりじゃない幸せを、楽しさを、喜びを、はっきり知ってしまった。
だから。

―――それに・・・

手にしたりんご飴をじっと見つめる。

(・・・尊敬できる先輩も。)

齧りかけのりんご飴が、じわりとほろ苦く舌に染みた。



と、そのとき。

「それ、美味しいの?」
不意に背後から声がした。

(う・・・そ・・・)

キョーコの身体がびくりと跳ねる。
くわえたりんご飴が唇の上でふるふる震えて止まらない。

(やだ。唇がべたべたになっちゃう。)

脈絡もなくそんなことを考えてしまうくらい、
驚きすぎて
信じられなくて
いっそ怖くなるほどで。

(どうしてこんなところに?)

あまりのことに、目を伏せたまま動けなくなった。
下げた視界に映るのは、草履を履いた大きな足に絣の浴衣地の裾。
それが、濃い気配とともにすぐ隣へと移動してくる。

「美味しいなら、ひとくち食べさせて?」

小さな囁きとともに、カタカタと震える指先へ大きな掌が重なりかけたのが見えて。
キョーコは弾けるように身体を飛びのかせ、ようやく顔を上げた。

(え?)

ぐしゃぐしゃとかき乱した髪に顔を半分隠すようにかぶったお面。
背筋は猫背気味に丸められ、バランス悪く前のめりに立っている。
キョーコですら一瞬見間違うほど、先ほどとはまったく雰囲気も風貌も異なる姿。

「え?あの、つる・・「しーっ」」
敦賀さんですよね?と言いかけたのを、唇の前に立てられた指先を見てやめる。
(いけない。名前なんか口にして、周りにばれたら大変じゃない。)
こくりと頷いたキョーコに、面の下の口元がほっとしたように緩んだ。

「よかった、会えて。見つけられなかったらどうしようかと思った。」
さらに腰をぐいと曲げ、前屈みにキョーコの耳元まで顔を寄せると、そう囁いてくる。
「その浴衣のおかげですぐわかったよ。まさかラブミーピンクの浴衣とはね。」
くすくすと笑う吐息が耳朶をくすぐり、キョーコはひゅうと息をのんだ。

(敦賀さんが、どうしてここに?)

疑問がぐるぐる頭を巡るけれど、そんなことよりなにより近すぎる蓮との距離に身体がかちんと固まって声もでない。
その様子を察したのか、
「さっき仕事が終わってね。今日は事務所へ戻る必要もなかったし、それなら俺も祭りを見ておきたいなって思って。」
ほんの少し身体を離して蓮は言い、山車で神社へ運ばれるだけでずいぶん楽な仕事だったよと笑う。

「君が持ってきてくれた紙袋の中にこの浴衣が入ってたんだ。それを見て、社さんがせっかくだからお前もふつうに祭りを楽しんでこいって。」
(まあ、本当は、絶対ばれないようにするからって、俺の方が社さんを無理やり説き伏せたんだけど。)
社が何度もついていた深いため息を思い出す。
もちろんそんな事実、キョーコに言えるわけがない。
その後ローリィから届いた、キョーコの居場所を知らせるメールのことも。

「お参りをしてから帰るって聞いたから、入るかなと思って試しに来てみたんだ。会えて本当によかったよ。じゃあ、行こうか。」
何気なく言われ、キョーコはようやく我に返った。

「行くってどこへですか?」
「お参りだよ。」
「お参りってまさか・・・。」
「神社に来たのにお参りしないわけにはいかないでしょ?神社に運ばれてはいったけど、俺個人としてちゃんとお参りしたわけじゃないし。」
「で、でも危険です。」
「危険?」
「だって、ばれたらどうするんですか?」
「でも、ここまで誰も気が付かなかったし。」
「た、たしかにそれだけ雰囲気も変わっていたら、気づく人は少ないかもしれないです。つ・・・あ、あなたの演技力なら隠し通せるかもしれません。でも、こんな人だかりの中を一人でふらふらしてたら、それだけで目立つじゃないですか。もしもですよ、もし万が一見つかって騒ぎになったら・・・」
「そんなに一人って目立つかな?」
「ええ。ほら、一人で歩いている人なんて、ほとんどいないでしょう?それにその長身では、目を引くこと間違いなしです。」
「でも、君も一人だよね?」
「そ、そうですけど。私は、ご覧のとおり素顔でいれば誰も気が付かない、オーラなしの地味女ですから。」
「その割には、視線を集めてるじゃないか。正直、今の俺よりずっと。」
「そ、それはこの浴衣のせいです。みなさん、この色を見てるんです。私の顔じゃ、ありません。」
「顔じゃなくて、浴衣を?」
「そうです!」
「じゃあ・・・。」
「じゃあ?」
「いいこと考えた。」

そう言うと、蓮は肩が触れるほどキョーコに近づき、いきなりその手に自分の指を絡ませた。
「一人でいるほうが注目を集めてしまうんだろう?それならお互いさまだ。だけどこうすれば、“二人”になる。それなら、誰も何とも思わない。そういうことだよね?」
「ち、ちがっ」
「それにこの人ごみなら、通りすがりに君の顔も、俺の顔もたいして見る暇もない。だから・・・」

握られた手が熱い。

「む、無理です!」
必死に声を抑えながら、キョーコは握られた手を全力で振りほどいた。
蓮はまったく動じない。

「だって、君が言ったんだよ。二人なら目立たないって。たしかにほら、君が言う通り、こんな二人なら周りにいくらでもいる。今だって誰も気にしてやしない。見るとしても・・・」
「見るとしても?」
「君のその派手な浴衣の色くらいだ。」

たしかに蓮の言う通りかもしれない。でも・・・

「で、でも・・・。」
「でも?」
「でも、これじゃまるでデートみたいです。」
「デート?」

怒涛のような会話にのまれ、つい口を滑らせたことに気づき、キョーコははっとした。
(どうしよう。勢いにまかせて、私ったらなんてことを言っちゃったんだろう。デートだなんて、なんておこがましい・・・。)

どうしたらいいかわからず、口を噤み瞬きを繰り返す。
けれど蓮は―――


「だってデートだもの。」
キョーコの戸惑いなどどこ吹く風といった調子で、あっさりと返した。

「そうみえなきゃ周りをだませないでしょ?」
おまけのように、そう付け加えて。




(続く)
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コメント

  • 2014/08/28 (Thu)
    03:09

    更新ありがとうございます^^ わたくし、すっかり油断しておりました。
    でもそのおかげで、前編、中編続けて読めて一気にお話の世界に引きずり込まれました。
    鮮やかな賑わいの中でひとりっきり。キョーコさんの寂しさがひしひしと伝わってきて切なくて切なくて。声にならない声が紡ぐ「すき」とかもうっ!すぐに中編読めて幸いでした。中編での蓮さんは余裕かましてるっぽいですが、きっときっと内心は..のはず♫
    後編を楽しみにお待ちしております。

    ねこ #aC7XKvGo | URL | 編集
  • 2014/08/29 (Fri)
    00:05
    Re: タイトルなし

    > ねこさま

    いつもありがとうございます^^
    こちらこそまた来てくださって嬉しいです♪

    久しぶりのお話だったので、拙さに拍車がかかった模様ですが楽しんでいただけたなら幸いです。

    > 中編での蓮さんは余裕かましてるっぽいですが、きっときっと内心は..のはず♫

    余裕かましてる風情の敦賀さんですが、キョコちゃん相手だと内心はいつだってテンパってますよねー。
    そんな敦賀さんが大好きです♪

    > 後編を楽しみにお待ちしております。

    ありがとうございます。
    またぜひお立ち寄りくださいませ~。

    ちなぞ #- | URL | 編集

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