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紅い花揺れて 前編

こちらは、いつもとてもお世話になっているsunny様の素敵企画「夏まつり」への参加作品となります。

夏まつり企画

夏まつり企画  http://hhp.x0.to/lme_festival/summer.html

「夏まつり」企画には、私も大好きな人気マスター様のお名前がずらり。
ドキドキしたり、キュンとしたり、とにかく素敵なイラストやお話が並んでいます
そんな素敵作品群の中に、末席にも名前を連ねるのは心苦しいばかりなのですが・・・少しでも楽しんでいただけたら何よりです。


幾重にも重なる力強い掛け声。
寄り添うように響く、細く伸びやかな笛の音と鈍い太鼓のリズム。

人々の喧騒の隙間を縫って届くその音色は、賑やかで艶やかで、それでいてどこか物憂くて。
聞く人の心をぐいと惹きつける。

そんな祭囃子が、キョーコのもとに近づいてくる。

キョーコの耳を弄ぶように、強くなったり弱くなったりしながら。
ゆっくりと、けれど着実に。

―――それは近づいてくる。


――――――――――
紅い花揺れて 前編
――――――――――


「・・・というわけで、これが荷物だ。」

急ぎの件だとローリィに呼び出されたキョーコが依頼されたのは、蓮の仕事先へ草履を届けることだった。
蓮は今日、主演した大河ドラマの舞台になった或る町で開かれる大祭のゲストに呼ばれている。
話によると、宵宮の山車行列で、町内を巡行する一番山車に乗り込む予定らしい。

「草履なんて、先方が用意していらっしゃるのでは?」

言いかけたキョーコに、ローリィは大仰に眉をしかめてみせた。
「それがあいつの足は、身長に比例してでかすぎてなあ・・・。先方が用意したものではどうも合わなかったらしい。」
言われてみれば確かに頷ける。
「わかりました。すぐ出発すればぎりぎり間に合うと思いますので。」
答えながら受け取った紙袋は、思ったよりずっと重かった。

「えっと・・・中身は草履、ですよね?」
「ああ、そうだ。あ、それから、こっちは今回の君の“ユニフォーム”だ。」
訝しげに尋ねたキョーコをあっさり笑顔でかわし、ローリィは横に置いていた布の塊を差し出した。
派手なショッキングピンクの地に大輪の花をあしらった、ずいぶん可愛らしい浴衣。
キョーコは思わず、はあ?と声を漏らした。

「え、えっと・・・これは・・・。」
戸惑うキョーコに、ローリィがにやりと笑いかける。
「本来ならいつもの姿で行ってもらうところだが、祭りの最中にあの恰好で行けば、変に注目を集めてしまい先方の迷惑になりかねない。だから、今回はそれで行ってこい。ただし、会社からその恰好で行くんだぞ。」

それだけ言うと、話は終わったとばかりにソファに深々とかけ直す。
「ああ、それと・・ ・。」
ぐいーっと大きく伸びをして、ローリィは思い出したように口にした。

「ついでだからそのまま君も祭りを楽しんでくるといい。帰りはあいつの車に乗せてもらえばいいだろう。そのほうが事務所としても経費が少なくて済むからな。」



* * *



(社長はああ言っていたけど・・・。)
事務所でのローリィとのやりとりを思い返しながら、キョーコははぁと小さくため息を漏らした。


キョーコが祭りの事務局へ到着したのは30分ほど前のこと。
蓮も社もすでにそこにはいず、ただ荷物の受け取りを頼まれた係の人だけがいた。

「1時間ほどでお戻りになりますので、どうぞこちらでお待ちください。」
そうは言われても、忙しそうに立ち働く人ばかりの事務所で素直にじっとは待ち難い。
だからちょっと考えて、
「あの、すみません。まだ電車もありますし、お祭りを拝見させていただいたら、神社にお参りしてそのまま電車で帰宅します。そうお伝え願えますか。」
丁寧に挨拶を済ませると、キョーコは早々に事務所を出てしまった。


(せっかくここまで来たんだし、社長が言っていたとおり、お祭りを楽しもうっと。)
そう思い祭りでにぎわう町中へ繰り出してはみたものの、歩けば歩くほど複雑な気持ちになる。

たしかに祭りの雰囲気は大好きだし、たくさんの屋台が並び賑わう情景は、見ているだけで気持ちが浮き立つ。
でもやっぱり、周囲の誰もが家族と、友人と、恋人と、楽しく過ごしている中を、たったひとりで巡るのは淋しすぎた。
しかも、神社までの道のりは思ったよりもずっと遠い。
そのせいだろうか。
大通りを歩く足取りが次第に重くなっていくのを自分でもひしひしと感じていた。

(やっぱり、お参りをしたらすぐ帰ろう。)

もう一度深くため息をついた、そのとき―――。
背後から悲鳴に似た歓声が聞こえた。

(え?)

はっとして足が止まる。
振り向いたキョーコの目に映ったのは、それまでに見かけたいくつかの山車よりも、ひときわ大きくひときわ立派な赤い山車だった。
たくさんの赤い提灯に囲まれ、暮れかけの蒼褪めた空がそこだけぽっかり赤色に染まって見える。
その“赤”がゆるりと1歩こちらに近づくたび、空気がうわあと波を打つのがわかった。

響く歓声。
轟くうねり。

その中にときおり混じる高い嬌声が、山車にいる人が誰かをはっきりと示している。

(間違いない。)

思っただけできゅっと胸が痛くなった。

(もうすぐ・・・来る)

気が付けばキョーコは人の流れから外れ、通りの端の閉じられたシャッターの前に立っていた。
古びた電燈の薄暗い光だけがかろうじて届く、そんな場所。
目の前は山車を見物しようとする人達で人だかりができているけれど、足元にある小さな段差に足を掛ければ、キョーコの背でもちゃんと山車を見ることができる。

(ここからなら・・・)

どれだけ見つめていても、きっと誰にも気づかれない。
どれだけ見つめていても、きっと誰も何とも思わない。

本当は、そんな場所に立たなくとも、道行く人に“京子”だと気づかれない自信はあった。
でも山車の上の人には、きっと通用しない。
この浴衣の、この色のせいで。
もしかしたら、気づかれてしまうかもしれない。

それだけは避けたかった
だって、気づかれる懸念さえなければ・・・。


ただじっと見つめていられるから。
気持ちを無理に隠すこともなく。

―――飽くまでずっと。


そうしたいと、思った。


*



ふわりとやさしく宵走りの風が頬をなでる。
夏の残照に包まれて。
先導する真っ赤な提灯の群れは、風に散らされる紅芥子花のように靡いてみえた。
その中を、ガラリゴロリと揺れながら、朱塗の山車が突き進む。

やがて周囲を照らす光が赤色を増し、辺りが一層強い熱気に包まれた。
目の前の通りを埋め尽くす提灯の赤、赤、赤・・・。

(きた。)

よいさよいさの掛け声に合わせ、ガラガラと滑車の回る音が大きく聞こえる。
提灯を掲げる先陣が波を描くようにうねりを繰り返せば、一人立つキョーコの心臓もつられるように波を打った。
ずきんずきんと高鳴る心音。
こくりと唾をのみ、“そのとき”に備える。

(ああ、敦賀さん・・・だ。)

思った通り、そこには蓮がいた。
提灯の照り返しでほんのり赤らんだ顔は柔らかい微笑みをたたえ、少し着崩した浴衣のはだけた胸元がひどく艶めかしい。
端正な横顔が右を向き左を向きつつ、手を上げ沿道の歓声に応える様子を、キョーコはただじっと見つめた。

耳に膜が張ったように、祭囃子はぼんやりと遠く。
うるさかったざわめきも歓声も、甲高い嬌声すら、耳をすり抜けて消える。

瞬きも忘れ、キョーコはただその姿を見つめた。

(こうしていると、本当に別世界の人だわ。)

不意に世界がゆらりと滲んだ。

(別・・・世界・・・か・・・)

親しく言葉を交わしたり、演技の指導をしてもらったり、そんな現実のほうが嘘に思えるほど、今の蓮は遠かった。
でも、それが本来の2人の距離なんだと、キョーコはひしひしと感じていた。

(ああ、そうだ。)

もしかしたら、とふと思う。
社長はこうやって私と敦賀さんとの立場の違いをはっきりわからせたかったのかもしれない。
そうして、この気持ちにケリをつけさせようとしているのかもしれない。

(本当は想うことすら許されない相手だもの。そんなの、よくわかってる。でも・・・。)


瞬間、蓮がこちらに顔を向けた。
やわらかな眼差しがまっすぐに自分に向かい、ドクンとひときわ大きく心臓が鳴る。

見られている。
気のせいだとわかっていても、ただそう思うだけで、好きという気持ちが一気に押し寄せてきて。
その人が、自分だけを見つめているように思えて心騒いだ。

(そう。それでも、今の私にとっては・・・)

想いが全身を埋め尽くすようだった。
その勢いに押し流されるように・・・



―――唇が、好きという形を綴った。






(続く)


タイトルをみてお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、このお話は中島みゆきさんの「まつりばやし」という曲をモチーフにしています。
sunny様の「夏まつり企画」の案内を拝見したときから、なぜかこの曲がずっと頭を駆け巡り、止まりませんでした。
とはいえこの曲の歌詞を考えると、蓮キョに当てはめるのを躊躇う気持ちも大きく・・・。
でも時間を追えば追うほど、このメロディとともに、さまざまな場面が断片的に頭に浮かんでしまい、とうとう我慢ならずに書き始めてしまいました。
あの独特の曲調が放つ切なさ、やるせなさ、恋しい気持ちが少しでも似合うお話になっていればよいのに・ ・・と願うばかりです。

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コメント

  • 2014/08/27 (Wed)
    00:28
    管理人のみ閲覧できます

    このコメントは管理人のみ閲覧できます

    # | | 編集
  • 2014/08/27 (Wed)
    01:53
    Re: 本当に

    > ちょびさん
    さっそくのコメントありがとうございました!
    すっかり忘れ去られたブログになっていると思っていたので、あまりにもコメントが早くてびっくりです。

    そして何より素敵なコメントを頂けて感激です(=´∇`=)

    > 祭りの熱気がこちらにも伝わってくるような、その喧騒がキョーコの孤独を浮き上がらせて…
    > 思うがままに蓮を見つめたい、ただそれだけの願いを持つ切なさ

    伝えたいと思っていた情景を感じ取っていただけて、何より嬉しく幸せです。
    私の筆力ではどこまで今持っている脳内イメージをお伝えできるか自信はないですが、よかったら続きもぜひ楽しんでくださいね。
    またお待ちしております^^


    ちなぞ #- | URL | 編集

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