ツユマヂカ 前編

仕事にヒーヒー言ってるうちに気が付いたら、1か月以上サイト放置してしまいました^^;
ふと頭に浮かんだ妄想を形にする余裕がなく、書きかけのお話・・・というより散文がどんどんパソコンにたまっていってます。
6月こそはなんとか、書きかけのアレやアレを形にしたい・・・。
さて、こちらは先日の雨の日にふと思い浮かんだ短い短いお話です。
続きはまだ書いていないのですが、たぶん前後編になるかと思います・・・。

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何となく・・・そう、何となく描いただけだった。


*


梅雨入りを間近に控えた雨空は、どこまでもどんよりと暗く。
時折強く打ちつけられる雨に、ガラス窓がぬるぬると霞む。

「止みそうにないな・・・。」

昼過ぎとは思えぬ仄暗さに、ラブミー部室で作業をしていたキョーコはふと目を上げて窓辺に寄った。
薄いガラスを隔て眺める澱んだ空色は、冬の日のソレによく似ていて。
白く煙ってみえる窓に、ふと懐かしい記憶が蘇る。
そうして気が付けば、伸ばした指先を窓面にツツと滑らせていた。

曇った窓ガラスへのいたずら描きは、子どものころよくやっていた他愛ない遊び。
動物を描いてみたり、誰かの似顔絵を描いてみたり、意味のない図形を描いてみたり。
それから・・・。

目の前のガラスに、小さく傘を描き、その下で寄り添うように名前を二つ書き並べる。
あの頃はいつも、そうやって書いていたのは同じ名前だった。

キョーコ
ショーちゃん

幼いときも。
少女になっても。
それからもう少し大人びてからも。

ずっと、そうだった。

並べて書けばそれだけで何だかとてもうれしくなってきて。
でもすぐに、一筆書きで描いた傘の真ん中に線を引いてしまったことに気が付いて。
「これじゃ、別れ傘だ。」と、慌ててかき消す。

そんなことばかり繰り返していた。

最後にそれを描いたのはいったいどれくらい前だろう。
ぼんやりと古い記憶を揺り起こしながら、無意識に滑る指先。

(・・・あ。)

見れば、目の前に小さな傘が描かれていた。
外から雨を浴びているだけの窓では、はっきりと目に見える線こそ引かれていなかったけれど、ガラスが少し汚れていたせいかうっすらと絵が見える。




いつの間にか自分が小さなイニシャルまで描きいれていたことに気付いて。
――――まばたきも忘れた。

『・・・やだ。』

吐息だけの呟きが唇から漏れる。
慌てて消そうと傘の絵を覆った手のひらが、そのままふっと止まった。

(R・・・。)

わずか一文字。
けれど、それが示す名前はたった一つしかない。

思ったとたん、キリリと胸が痛んだ。

(何やってるんだろう。)

・・・・どんな形であれ、表には絶対出さないって決めたのに。


どこからか乾いた笑いがこみ上げてきた。
昔は名前を書くだけで、あんなに幸せな気持ちになれたのに。

傘の下にしっかりと名前を書いて、喜んでいた自分はもういない。
名前をはっきり記せるような恋は、もうできない。
できるはずがない。

(書いたらきっと、張り裂けてしまうもの。)

想いが?
心が?
それとも、この恋そのものが?


降りしきる雨は、いつしか窓の外に止まらない涙のような水流を作っていて。
その勢いに、今書いた文字まで溶け流されていくようにさえ思えた。
流れてしまえばいいと思った。

けれど窓の内側に記された文字が消えるはずもなく。

(おんなじ。)

―――絶対に消えない。

どうやっても。
何をされても。
消えるはずがない。
消せるはずがない。


再びきゅうと締め付けられるような痛みを感じ、キョーコはごしごしとガラス面を手でぬぐった。
いや、ぬぐおうとした。



「何してるの?最上さん。」

突然声を掛けられ、手が止まりさえしなければ。






(続く)
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