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卒業の日 前編

このお話、実を言うと元々は昨年3月の“メロキュン卒業記念企画”のために書きはじめたものでした。それが上手く先が続かずお蔵入りして気が付けば1年・・・ようやく日の目がみれそうです^^;
ちなみに当初書いていてまるっと削除したワンシーンがあったりします。自分では結構気に入っているそのシーン。できれば別のお話で再活用したいと思っているのですが・・・。完成がまた1年後になってしまったらどうしよう><


3月。
突き抜けるような冬晴れの午後。
どこからともなく舞い落ちる季節外れの風花が、全力で自転車を走らせるキョーコの頬を掠めては消えていく。
立ち止まっていれば、ひんやりと冷たく思えるはずのそれも、全力疾走する今は冷気の欠片も感じさせはしない。

(早く!早く!急がなきゃ!)

急く心のままにスピードを上げれば、散り飛ぶ雪の結晶が、額に、瞳に、遠慮なく飛び込み、視界をけぶらせる。
そのたびにスピードを少し緩めては軽く目を瞬かせ、キョーコは軽快にペダルを踏み続けた。
冷たい風を一身に受ける胸元には、紫色の胸花が頼りなげに揺れている。

ふらつき知らずのハンドルにかけられた鞄から、ひょこんと飛び出した丸筒。
その中には先ほど受け取ったばかりの卒業証書が入っていた。

―――高校卒業。

ついに今日、キョーコはその日を迎えたのだ。


*


「おめでとう、最上君。よくがんばったな。」

学校からまっすぐ事務所に向かい、これまでのお礼とともに卒業の報告をしたキョーコにローリィはやさしく微笑みかけた。
「仕事との両立はなかなか大変だったと思うが、君はよくやった。そういえば、答辞は上手く読めたのか。」
「はいっ!なんとかがんばりました。」
直立不動で、キョーコは答える。

「ひとりで淋しくなかったか?」
「は?い、いえ全然。」
「そうか。・・・本当か?」
「本当です。」

澱みないキョーコの答えに、ローリィはあからさまにがっかりした顔で、はあ・・・と大きくため息をついた。
「まったく君は遠慮深すぎる。一世一代の晴れ舞台をサンバ隊とともに盛大に盛り上げてやろうと楽しみにしていたのに・・・。」
「と、とんでもないです!私事で社長にそんなお時間もお手間もとらせるわけにはいきません。」
「何を言うか。イベントなんていうものは、盛り上がってこそ!楽しんでこそ!なんだぞ。それを君が固辞するから・・・」
「いえ、本当にお気持ちだけで充分嬉しかったです。ありがとうございました。」
(ふう・・・危ないところだったわ・・・。)
ローリィの言葉を聞き、キョーコは何事もなく式を終えられたことを心の内で神様に感謝した。

「まあ、終わってしまったものは仕方ない。・・・で、アイツにはもう報告したのか?」
いきなりの変化球に目を見開く。
「アイツ?・・・もしかして・・・敦賀さん、ですか?」
「ほかに誰がいる。」
「誰がって・・・。」
一瞬口ごもったあと、キョーコは思い直したように口を開いた。
「とんでもありません。まず事務所と社長さんに報告するのが一番に決まっています。」
「ふうん。で、このあと報告に行くわけか?」
「え?いえ、あの・・・」
こくりと明らかにキョーコの喉が上下した。
「そ、そもそも敦賀さんは事務所の大先輩、というだけの方です。親しくはさせていただいていますが、本来は手の届かないくらい雲の上にいらっしゃる方。私の卒業如き、本来敦賀さんにとってはごく些末なことですし、私事で多忙なお仕事の邪魔をするわけにはいきません。ご報告はいずれ日を改めて・・・」
話しながら、キョーコが微妙に視線をそらしていることに気づかぬわけはない。
けれどそれには触れることなく、ローリィは話を続けた。

「だが、今日が卒業式だってことも、答辞をするってことも話したんだろう?」
「は、はい。それは・・・」
「そのときあいつはどんな反応をしてたんだ?」
「え、あ、そのう・・・。」


* * *


「実は、答辞を読ませていただくことになったんです。」
キョーコの報告に、蓮と社は我が事のように喜んだ。

「すごいよ。キョーコちゃん。答辞を読むってことは、学校でトップの成績ってことでしょ?ほんとに頑張り屋さんだよなあ。」
手放しに褒められ恥ずかしそうに俯くキョーコを、蓮が目を細くして見つめる。
「最上さんはいつでもどんなことにも全力だから。」
何気なく呟いた蓮に、キョーコがくいっと顔を上げた。

「あのとき・・・受験勉強をしていたあのとき、“全教科100点でも取らなきゃいけないみたいだ”っておっしゃったのを覚えていらっしゃいますか?」
言われて蓮は小首をかしげた。
「私・・・、敦賀さんのあの一言に救われたんです。」
瞬きひとつせず、大きな瞳がまっすぐ蓮を見つめてくる。
「それまでの私は、全力の意味をはき違えていました。とにかくどんなことにも満点を取らなきゃだめだってしゃかりきになっていて。そのために、余分な力をこれでもかっていうくらい抱えこんで、逆に自分を疲れさせていたんです。」
キョーコは少し遠い目をして、話しはじめた。

「でも敦賀さんの言葉を聞いた瞬間、私、それまでの自分が嘘のように肩の力が抜けたんです。ああ、そうか。別に100点じゃなくてもいいんだ、って。全力を尽くすってそういうことじゃないんだって。何かストンと胸に落ちたというか。そうしたら、まるで重い鎖が解けたみたいに気持ちが軽くなって・・・。
1年遅れの高校生活だったけど、こんなに悔いなく、何よりも楽しく過ごせたのは、きっとあのときの敦賀さんの言葉のおかげです。ありがとうございました。」

深々と頭を下げられ、蓮も思わず頭を下げかえす。
「俺の方こそありがとう。俺のたったひと言を大事にしてくれて・・・嬉しいよ。」
それから何か思いついたようにぱっと顔を上げた。

「そうだ。今度の卒業式。せっかくだから君の晴れ姿を、ぜひ見に行かせ・・・」
「と、と、と、とんでもないです!敦賀さんがいらしたら、学校中が大混乱になります。冗談でもやめてください!」
言いかけた蓮の顔が、冗談とはとても思えない真面目な表情をしていたから、キョーコは慌てて否定の言葉を叫んだ。
「冗談、のつもりはなかったんだけど?」
「だったら、なおさらですー!」
「でも・・・。」

「蓮、さすがにそれは無理だから。」
それまで黙って聞いていた二人の会話をぱきんと折ったのは、社のひと言。
いつになくきっぱりとしたその声に、蓮もさすがに口を閉じる。
「その日は終日撮影の予定だからね。そもそも無理だから。」
話はおしまいと言わんばかりに言い切ると、社は蓮だけに向き直り、
「ま、お前の頑張り次第であがりは早まるかもしれないけどな。」
キョーコに見えないよう、にやりと口許を上げた。

「じゃあ・・・。」
社のことは軽くスルーし、蓮は少し腰を屈めると改めてキョーコに視線を向けた。
「当日が無理なら、どこか都合のいいときでかまわないから、お祝いさせてもらえるかな。」
「そ、そんな気を使っていただかなくても・・・。」
慌てて言いかけたキョーコだったけれど、
「いいよね?」
この世の誰一人として断るなんてできないような微笑みを向けられ、思わずこくりと頷いてしまった。


* * *


「えっと、その、すごく喜んでくださって、お祝いをしてくださるともおっしゃってましたけど・・・。でもきっとそれは社交儀礼みたいなもので、その・・・私がいつも先輩先輩って追いかけてばかりいるから、たぶん気を使って・・・。」
もう約束させられてしまっていたことを思い出し、急に語尾が濁る。
見る間に赤らんでいく頬を眺めながら、ローリィはさりげなく口元を隠し顎を撫でた。

「ほう。その割にあいつときたら、君の答辞のことを『お前は最上君の父親か』とつっこみたくなるくらい本気で心配していたがなあ。」
「父親って・・・いくらなんでもそれは社長さん、失礼すぎます。」
「たしかに、父親じゃ・・・あいつも納得しないだろうな。」
身内になりたいとは思っているだろうが・・・とぼそりと呟く。

「え?今、なにかおっしゃいました?」
「いや、何でもない。とにかくバカみたいに心配してたからな。急いで報告して、あいつを安心させてやってくれ。じゃないと仕事に支障がでかねない。・・・そうそう、そういえば今日は終日○○スタジオにいるらしいぞ。あそこならここから近いし、君の脚力なら15分ほどで着くだろう。」
「で、でも・・・。」
「心配する先輩にきちんと報告するのも、後輩としての義務じゃないのか?」
「そう・・・でしょうか?」

「そう、だ。」
ローリィは悪戯っぽい眸でウインクしながら頷いた。





(続く)
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