箚青淋漓 3

こちらは刺青師蓮さんと武家の娘キョコちゃんのパラレル黒桃です。読まれる際は、くれぐれもご注意ください。
タイトルは、泉鏡花の小説『義血侠血』内の一文、「渠(かれ)が雪の如き膚(はだ)には、箚青淋漓として(彼女の雪のように白い肌には、刺青が瑞々しく描かれ)」よりとっています。



男は臆面もなく、じろじろと舐めるようにキョーコを見回した。
嘲笑とも揶揄ともとれる卑しい笑いを口許に浮かべながら。

「ほう・・・、なかなかいいタマじゃねえか。お前さんがキョーコとかいうここの娘かい?」

―――視線を逸らせば、負けになる。

武家の娘として僅かに残された矜持で、キョーコはぐいと見返した。

「左様でございますが。」
「へへっ。いい顔だ。気位の高そうなところがいかにも武家のお姫(ひい)さんって感じで、何ともそそるねえ。」

汚い指先が顎に触れそうになり、思わず顔を背ける。

(これが、女衒・・・。)

それが、若い女を買い付け遊郭へと売り払う周旋人であることは、キョーコもよく分かっている。
自分を買い取りにきたのだ、ということも。
それでもまだ、これが現実だとは受け止めきれずにいた。

「あははっ、俺みたいな男にはちょいと触られるのも嫌ってかい?まあ、そんなこと言ってられんのも今のうちだからな。せいぜい突っ張っているがいい。」

手をおろし、代わりに男は一歩キョーコに近づいた。
わざと腰を屈め、息がかかるほどの距離に顔を近づける。
「な、お姫(ひい)さんよ。」
胸の奥がカッと熱くなり、キョーコは強く唇を噛みしめた。


それからの手筈はあっという間だった。
風呂敷包みひとつだけをもたされ、キョーコは住み慣れた屋敷を追われた。
振り返る余裕すらないほどの忙しさ。

もちろん見送りひとつ、なかった。


*


籠に乗せられ、何処ともしれぬ道を行き、半時ばかり。
キョーコが連れてこられたのは一軒の置屋だった。

「ずいぶん随分薹が立った娘だねぇ。」

女は、開口一番そう告げた。
キョーコの立つ土間より一段高い座敷の奥で、手にした煙管をコンコンと打ちつける。
そうして火鉢に当たりながら、ぷかりと紫煙を吐き出す姿はいかにも様になっていて、若い頃はそれは小股の切れ上がったいい女だったろうと思わせる。
それが、ここの女将だった。

「お前さん、勘定奉行をしていた最上のとこの娘だってのは本当かい。」
「は、はい。あの・・・」
「ふうん・・・。」
値踏むように浴びせてくる遠慮のない視線。
着物を通して裸の自分を見つめてくるようで、キョーコは身の置き所のない恥ずかしさを感じた。
「まあ、器量はずいぶん整っているようだけど。」
こっちへこいとばかりに手招きされ、キョーコはおずおずと歩み寄った。
とたんに顎を掴まれ、右へ左へ強引に顔を傾けられる。
「あんた、間違いなく生娘かい?」
下世話な疑問を投げつけられ、キョーコは思わず目を伏せた。

「年の割には、ずいぶんおぼこだねえ。」
品のない高笑いとともにそう言い捨て、女将は土間に立つ女衒に向かい声をかけた。
「座敷に出せる芸を仕込んでる暇はなさそうだが、見た目はなかなか上玉だ。そのうえ、生娘でお武家さんのお嬢さんとくりゃ、水揚げ先も見つかるだろう。いいさ。この子はうちで預かるよ。」

「ありがとうごぜえやす。」
ほっとしたように頭を下げたあと、女衒は俯いたままにやりとひと笑いした。


パンパンと手を叩く音が大きく場に響き渡る。
「さあさあ、話はこれでおしまいだ。お前、何と言ったかい?」
「キョーコ・・・です。」
「ああ、そうそう。お前はこれからここに住みこむことになるからね。わかったかい。荷物はそれだけかい?」
手元の包みを顎で指す女将。
自分のこの先が今決せられたことに戦慄きつつ、キョーコは黙って頷いた。


・・・と、その時。

「おうっ、邪魔するぞ。ずいぶん人が集まってるようだが、何事でぇ。」
玄関口に集まっていた人波がさっと左右に割れる。
「こりゃあ、宝田の親分。いいところにお出ましで。」


震えるキョーコの目前に現われたのは、やけに派手な身なりをした年嵩の男だった。





(続く)
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コメント

  • 2014/02/26 (Wed)
    23:28
    きゃー

    待ってましたっ!
    いい子で待てしてた甲斐あったー!続きをありがとうございますぅ!←続きをひたすら悶々と妄想してたお馬鹿がここに一人w
    不安に揺れるキョコさんの前に現れたのはローリィ!!どこで蓮さんに繋がっていくかドキドキですー!

    霜月さうら #- | URL | 編集
  • 2014/02/28 (Fri)
    23:25
    Re: きゃー

    > さうらさん

    さっそくコメントありがとうございます^^
    時代物なので、いろいろ調べるのが大変で続きに時間がかかってごめんなさい。
    桃といいながらそこにたどりつくのはいつになることやら。。。デス、はい。

    ちなぞ #- | URL | 編集

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