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影身

少し書きかけて放置していたお話の続きが、ふっと降りてきました。
「影身」という言葉には、「影法師が身に添うように、いつも寄り添って離れないこと」という意味があるそうです。

※言葉足らずな箇所があったので、少し加筆しました。

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―――――――――
影身
―――――――――

「きれい・・・ですね。」


マンションへ向かう道すがら、信号待ちでストップした車内で、不意に君がそう言った。
とくに何ということもない夕暮れ時の街角。
辺りを見回しても、君が言うようなきれいなものなど俺の目には見当たらない。

「ん?何が?」

そう返した俺に、まさか聞こえていると思っていなかったのか、少し驚いた表情をしたあと、君はゆっくり微笑んだ。

「ほら、あそこ。」

目立たないようにそっと君が指差してみせたのは、歩道の端を歩いていく老夫婦の後ろ姿。
時折立ち止まり何かを囁く男性と、それを微笑みながら頷いて見上げる女性。
互いを支えあうように寄り添いながら、ゆっくりゆっくり歩んでいくその姿は、気が付きさえすれば・・・そして見る人が見れば、確かにとても美しいものだった。

「ああ・・・いいね。うん。いい。すごく、いい。」
「素敵ですよね。ああして二人、互いを慈しみ、労わりあっている姿って。それが長い時を共に重ねた同士ならなおさら・・・。」

言いながら君は、去っていく二人をじっと見つめた。
段々と遠ざかっていく少し曲がった背中。
夕陽を浴びて、その足元から長く長く伸びる二つの影は、遠のくにつれ次第に重なり溶け合っていく。

「いい・・・な。」
ひとり言のようにぽつりと聞こえてきた声。
思わず君に目を向ければ、口許こそ微笑んでいたけれど、瞳の色はどこか遠くどこか哀しげで。
言いしれぬ不安が俺を襲った。

ようやく君に想いを告げることができて。
君も同じ気持ちでいてくれたと知って。
こうして二人、いつまでも共にいられるのだと歓喜していた俺なのに。
どうしてだろう。
まだ俺を名前で呼んですらくれない君が、いつかふっと消えてしまうのではないかと。
時折不安でたまらなくなる。
そんな表情を君から見せられれば、なおさら。

だからつい、
「なれるよ。」
間髪入れず口にした。

いつか訪れるその時、隣を歩いているのは俺であってほしい。
いや、なってみせる。
そう強く願いながら。

「君もあんな風に。」
「そう・・・でしょうか。」
本当になれるんでしょうか。愛を知らずに育った私が・・・と掠れた声が呟いた。

ああ、君は心の奥にずっとそんな気持ちを抱えていたんだろうか。

だがその声に応える間もなく、信号が青に変わった。
踏み込んだ瞬間のエンジン音が大きすぎて、会話がそこで途切れてしまう。
走り出した道は中途半端に混んでいて、俺は隣を見る余裕をもてない。

こんなに気になるのに。
君が今どんな表情(かお)をしているのか、確かめることができない。
こんなに心配でたまらないのに。
君をこの手に抱き締めることすらできない。


だから思わず片手が伸びた。
柔らかな髪がさらりと指先に触れ、君が確かにそこにいると知らせてくれる。
今、間違いなく、俺の隣に。

「絶対になれる。」
前を向いたまま、俺は言った。
「あの姿をきれいだと感じることができる君なら。」
そのままぽんぽんと頭を撫でれば、掌の下でやわらかい髪がこくりと傾き揺れる。
「本当ですか?」
「ああ。」

そう、君ならきっとなれる。そして・・・。

「「そのときは隣に・・・」」
「いてくれますか?」「いさせてほしい。」
二人同時に口にした。


前方の信号が、黄色から赤へと変わる。
俺はゆっくりとブレーキを踏みこみ、徐々にスピードを落とした。
切れた町並みの隙間から、傾いた日差しがフロントガラスを抜けて流れ込み、目の前の信号の色ほどに赤く二人を染めていく。
さっきの二人のように、きっと今は俺たちの後ろにも長い長い影が差していることだろう。
やがて一つに重なり合う二つの影が。

緩やかに車が止まる。

―――約束だよ。
反射光で外から中が見えないことを祈りながら、俺はそっと身を乗り出し君の頬に口づけた。





Fin
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コメント

  • 2014/02/20 (Thu)
    09:12

    良いですね♪ゆっくりとした時間が二人に流れてる感じで。なんかしみじみしちゃいます。つくづく思うんですけど、普段どんな本をお読みになるんですか?文章の流れとか村山ゆかとか洋書っぽいなぁと感じまして。これからも楽しみにしてます(≧∇≦)

    へなへなっちです #- | URL | 編集
  • 2014/02/20 (Thu)
    13:21
    Re: タイトルなし

    > へなへなっちさん

    素敵な感想ありがとうございます♪
    両想いになっても、二人は案外互いの気持ちを探り合いながら少しずつ進んでいくのかも、などと思いながら書いた作品なので、しみじみ…と言っていただけて嬉しいです。

    >普段どんな本をお読みになるんですか?文章の流れとか村山ゆかとか洋書っぽいなぁと感じまして。

    がっつり文字を辿る気力があるときはいわゆる純文学、気力薄なときは現代~ライトノベルと、けっこう手当たやり次第なのです^^;時代物もファンタジーも好きだし。
    (今、視界に入る作家名を見たら、池波正太郎さん、京極夏彦さん、乙一さん、上橋菜穂子さん、万城目学さん…と見事にてんてんばらばらでびびりましたw)

    最近がっと読んだのは、水助さんが紹介されていらした有川浩さん、美花さんに教えていただいた谷瑞恵さんでしょうか。そうそう、例の倍返しな池井戸潤さんにも一時期はまっておりました。

    村山由佳さんですか!?村山さんの作品は全然読んだことがなかったので、びっくりしました。以前から興味はあったので、ぜひ読ませていただきたいと思います!

    本の話になると止まらなくなってしまうのでこの辺で^^;

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2014/02/21 (Fri)
    19:48
    No title

    ゆったりとした時間と、優しい雰囲気で素敵ですね!
    人様のコメント欄横やりで申し訳ないですが、やっぱり表現力豊かだと吸収する裾野が広いんですねー。←もうサッパリ活字を読まなくなったズボラ人間…

    霜月さうら #- | URL | 編集
  • 2014/02/21 (Fri)
    21:09
    Re: No title

    > さうらさん

    コメントありがとうございました(=´∇`=)
    ほんのわずかな時間を切り取ってお話にするのが好きなので(ただ長編を書けないだけともいう^^;)、素敵と言っていただけてほっとしました。

    > 吸収する裾野が広いんですねー

    全然そんなことないですよー。というか文字をなぞって楽しんでるだけで、全然“吸収”できてないです(汗
    そもそも表現力、ナニソレオイシイノ?だし。
    さうらさんはじめ、スキビ二次の方々はみなさん文章力表現力素晴らしい方ばかりなので、こうして片隅に身を置かせていただいているのが恥かしいくらいです(T_T)

    ちなぞ #- | URL | 編集

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