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シャツ越しに 中編

週末は各地で大雪でしたが、皆様大丈夫でしたか?
我が家は、暖房の室外機が凍り付いて、冷風しか出なくなるという衝撃の事態に・・・。
今もコートを着たままポチポチしております><

そんな寒さの中書き上げたせいか、バレンタインらしからぬ両片思いなストーリーの中編です。

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―――――――――
シャツ越しに 中編
―――――――――


「こんばんは。」

開いたドアの向こうには、いつもと変わらぬ蓮がいた。
こうしてやさしく声を掛けられるだけで、冷え切った身体に温もりが満ちてくる気がする。

「突然我儘を言ってすみません。」

穏やかな空気に心のどこかで安堵しながら、キョーコはゆっくりと頭を下げた。
気づかれぬよう、ほぅと息を吐きながら。

「いや、最上さんならいつだって大歓迎だから。」

まっすぐに笑顔を向けられればそれだけで、言葉にも顔にも決して出せない想いが心の奥からチリチリと存在を主張する。

―――ああ、私はやっぱりこの人のことを好き、なんだ。

でも、その想いをぐっと押し込めて、キョーコはにっこりと微笑み返した。
今までにも何度もそうしてきたように。


*


「ごちそうさま。今日も美味しかったよ。」

食後にと淹れたコーヒーを運びながら、蓮がキョーコに声をかけた。

「よかった。たくさん召し上がってくださって嬉しいです。来て・・・よかったです。」
「言っただろう?最上さんならいつでも大歓迎だって。こんな美味しい料理を食べさせてくれる人、歓迎しないわけがない。」

ウインクをする蓮に、キョーコもくすりと微笑み返す。

(いつも通りの敦賀さんで、よかった。)

不安を抱えながら過ごした、昨日からの時間を何となく思い返した。

(そうよね。映画が中止になったのは、敦賀さんが悪かったわけじゃないもの。今回はたまたま運がなかっただけ。夢の実現が少し先に延びただけ。敦賀さんは大人だから、私なんかいなくてもちゃんと気持ちの整理ができていたんだ。)

ほんの少しだけ、淋しいような複雑な気持ちを抱えながら、キョーコはコーヒーを一口飲んだ。
蓮が淹れてくれたコーヒーは、いつも通りミルクのたっぷり入ったキョーコ好みのまろやかでほんのり甘い味だったけれど、今日はなぜかほんの少しだけ苦い気がして。
なぜだろうと目を上げたら、吐いた息で霧散する湯気の向こうで蓮がじっと自分を見つめているのに気づいた。
視線が合ったのが妙に恥かしくて、慌てて一気にカップを空ける。

「ありがとうございます。でも、私の料理がなくても前みたいに何とかメイトとか何とかゼリーばっかり食べてちゃダメですよ。栄養のあるものをちゃんと食べて、お体大切にしてくださいね。敦賀さんは芸能界になくてはならない、大事な人なんですから。」

―――そう、大事な人。誰よりも私にとって。

油断をするとすぐ顔をのぞかせる想いにぶるんと頭を振り、キョーコは慌てて立ち上がった。

「それではそろそろ失礼しますね。今日は我儘言ってすみませんでした。」
鞄を手に取り、急ぎ足で玄関へ向かう。

「まだ時間も早いですし、今日は送っていただかなくても結構ですから。」
玄関先でそう言いながら振り向いたキョーコの目に、先ほどまでとは少し違う妙に何か言いたげな眼差しを向ける蓮の姿が映った。

「敦賀さん?」
何故ともしれぬ不安が頭を過る。

「ねえ、最上さん。」
そんなキョーコに問いかけるように、蓮が一歩近づいた。
ふわり、と覚えのある蓮の香りが鼻先を掠めて消えていく。

「はい?」
「聞いたんでしょ?」
不意に投げつけられた言葉。
「え?あ、あの・・・な、何のことですか?」
突然のことに慌てるキョーコを覗き込むように蓮が腰を屈めた。

「映画の件。」
いきなり直球を投げられ、否定することもできず、かといってどう答えればよいかもわからない。
だからただ黙ってこくりと頷いたのに
「やっぱり。そうか。」
参ったな、と口にされキョーコは慌てて言葉を繕った。

「え、えっと・・・ぐ、偶然聞いてしまったんです。ごめんなさい。でも、こ、今回は仕方ないというかたまたま運がなかったというか、その敦賀さんが悪いんじゃなくて・・・」
「うん。わかってる。」
「あの、その・・・」
「俺は平気だから。」
「でも・・・」
「気にしても仕方ないものね。」

被せるように言葉を重ねられ、語る言葉を見失ったキョーコから、蓮の視線がふっと逸れた。
どこか遠くを見つめるその瞳にうっすらと浮かぶ悔しげな色。
僅かな怒りと、そしてなぜか痛々しさまで感じられるそれには、自分には直接向けられたことのない剥き出しの感情が秘められていて。
その横顔に、キョーコはハッとした。
(平気なわけ・・・なかった。)
気付けなかった自分が情けなかった。
何しに来たんだと、自分を叱りつけたかった。
(なのに私は・・・なんてバカな・・・。)

「余計な心配かけちゃったね。」
黙り込んだキョーコをどう思ったのか、申し訳なさそうに蓮が声をかけた。
そうして向き直った蓮からは、先ほど見えた微かな翳りはもうすっかり消えていた。
ほんのりと笑みさえ浮かべられたその顔。

(・・・嘘つき。)
もうだまされない、と思った。

「でも本当に、大丈夫だから。」
やさしく言われれば言われるほど突き放されているようで、たまらない気持ちがする。
そしてそれ以上に、そうやってどこまでも自分だけで何とかしようとする蓮に、怒りとも哀しみともつかぬ複雑な感情を覚えてしまう。

「余計、なんて・・・。」
気が付けば、込み上げる思いに言葉が勝手に溢れだしていた。
「余計なんてことないです。」
もう、止められない。

「お願いです!私の前でくらい、正直になってください。本当は悔しいんですよね。無念なんですよね。
だったら、そんな風に笑顔を作らないでください。そうやって気持ちを押し込めてても、いいことなんてないです。自分の中で感情が消化しきれないまま、どんどん苦く凝り固まったものになっていくだけです。
自分で自分を追い込んでいくだけ。
だから、自分を抑えつけないでください。気持ちをごまかさないでください。
演技者だからって、こんなときまで演技しちゃダメです。
お願いです。私が受け止めるから。私がちゃんと受け止めるから。
だから、せめて私の前だけでも・・・。だって、私・・・」

(だって、私?)

言葉が途切れた。

(私は今、いったい何を言おうとしたんだろう。)

敦賀さんにとって特別でいたいから?
敦賀さんが感情を曝け出せる、素の自分を向けられる、唯一の存在でいたいから?
だから・・・自分にだけは、誰にも見せない顔を見せてほしいと言いかけた?

―――バカだ。私。

見れば、蓮が驚いた顔でキョーコを食い入るように見つめていた。

「す、すみません。偉そうなことを言って。私ごときがそんな、ほんとにおこがましいことを・・・」
「いや。そんなことない。」

最後まで言わせず、ぐいと近づいてきた蓮に、キョーコは全身を膠着させた。
逃げ出したくても逃げ出せない、一方的な圧力を感じる。
そのせいだろうか。
無駄に激しくなる心音にずきずきとこめかみを揺さぶられ、キョーコは思わず目を伏せ、息を止めた。


「本当にいいの?」
問い詰めるような声色に伏せていた顔をつい上げた。
すぐに見えた蓮の顔。
その眼差しはひどく真剣で揺るぎなく、隠していた心の奥まで見透かされそうな気がして、キョーコは無意識にずずりと後ずさりした。
その距離を縮めるように、蓮が半歩前に出る。

「君が言うように、負の感情を曝け出したら、素の自分を剥き出しにしたら・・・・そこにいる俺はどうしようもないやつかもしれないよ。君が知っている“敦賀蓮”とは似ても似つかぬ・・・もしかしたら、君が裸足で逃げ出すようなヒドイ男かもしれない。」

淡々と、けれど真剣な口調で語られる蓮の言葉を聞きながら、キョーコはなぜか次第に先ほどまでの動揺が引いていくのを感じていた。
少なくとも今、蓮はキョーコが願ったように正直に自分をぶつけようとしてくれている、たしかにそう感じることができたから。

―――何を言われても、何をされてもかまわない。私は敦賀さんを真正面から受け止めてみせる。

決意を自分に刻み付けるように、拳を強く握りしめた。
食い込んだ爪先が、掌に細く筋を残すほど。

「俺は君が思うような人間じゃない。完璧でもないし、特別でもない。まして君がよく言っているような、神様に愛されている人間なんかじゃ絶対ない。」

苦しげに吐き捨てる蓮は、たしかにキョーコの知る蓮とは違っていた。

(映画のことだけじゃない。敦賀さんは・・・これまでにも何かにひどく傷ついて、自分に自信を失いかけたことがあるのかもしれない。もしかしたら、その傷は今もそのまま膿んでいて・・・積み重なったマイナスの感情に、心を押しつぶされそうになっているのかもしれない。)

そう考えれば、思い当ることはいくつもあった。
嘉月のときも。
カインのときも。

(だから・・・何?)

「それでも、敦賀さんは、敦賀さんですから。」
キョーコは静かにそう告げると、まっすぐ蓮を見つめ返した。
けれどその視線を叩き潰すように、蓮は矢継ぎ早に言葉を繰り出す。

「どんなに荒れていても?」
「どんなに荒れていても。」
「どんなに情けなくても?」
「どんなに情けなくても。」
「どんなにダメなヤツでも?」
「どんなにダメな人でも。」
「どんなに・・・」

「それでも、敦賀さんは敦賀さんです。第一、そういう敦賀さんも含めて今の敦賀さんが出来ているんじゃないんですか?あんなにすごい演技ができるのも、そういう敦賀さんがいるからこそ、なんじゃないですか?それに・・・。」

感情が昂ぶりすぎて、涙が出そうになった。

「私は敦賀さんのことを、俳優としてただ尊敬しているだけじゃない。先輩としてただ慕っているだけじゃない。それだけじゃないんです。
どんな敦賀さんだってかまわない。あなたがそこにいるかぎり、私はずっと後を追いかけていく。
いいですか?
敦賀さんは、今の私にとってそれほど大きな存在なんです。
私は・・・私は絶対に自分から敦賀さんの傍を離れたりなんかしません。そんなことできるはずない。だって・・・。」

―――それほど好きですから。

言いかけた言葉をすんでのところで飲みこんだ。



次の瞬間―――。
ふっと表情を緩ませた蓮の頭が、そのまますっとキョーコの細い肩に落ちてきた。






(続く)

微妙に内容がぶれている気がする・・・。あとから手直しするかもしれません。どうぞお許しくださいませ。
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コメント

  • 2014/02/16 (Sun)
    02:13
    No title

    凍えた手指での更新ありがとうございます
    今回の大雪、地域によっては大変なことになっているようです
    ちなぞさんも、どうぞ御安全に。

    そして、私はといえば
    いいところで「続く」のお預けをくらって悶えております^^;

    ねこ #- | URL | 編集
  • 2014/02/16 (Sun)
    02:34
    Re: No title

    >ねこさん

    手もそうですが、足先がやばいぐらい冷え切ってますw
    それにしてもソチより寒い東京・・・。慣れない雪かきはきっついです。

    お話のほうは次回でラストです。
    ほんとリハビリ作品なので、いろいろ至らぬ文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです~。
    悶えてもらえてよかった♪

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2014/02/16 (Sun)
    21:16
    うわぁ!!

    やっぱり素敵っ!!
    リハビリなんてレベルじゃないですよー!!(≧∇≦)
    この続き…めちゃくちゃ気になりますぅー!!

    風月 #- | URL | 編集
  • 2014/02/17 (Mon)
    15:03
    Re: うわぁ!!

    > 風月さん

    ううっ、勇気の出るお言葉ありがとうございます(>_<、)
    読み返すたびに引っかかりを感じて書き直していたら、どんどん話が違う方向にいってしまいあせりました。
    最初に書き上げた内容からのブレが凄まじかったです。
    やっぱり文章ってムズカシイですね。
    風月さんみたいに書けるようになりたい!!!と切望する日々ですー

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2014/02/17 (Mon)
    19:20
    うぎゃぁ

    まだ続きがあるようですが、拍手喝采を贈りたいッ!! もうッ!!もう!!もぉ~!うぎゃぁ~!

    へなへなっちです #- | URL | 編集
  • 2014/02/17 (Mon)
    23:37
    No title

    寒波…地域によっては大変ですよね…
    比較的通常運行の地域住まいなので、物流関係で買い物に行ってやっとその事態に気が付くレベルなのは鈍いのか幸せなのか…。
    お体ご自愛くささいませー!

    決壊しそうでギリギリで留まってしまうキョコさんの最後の爆弾にドキドキドキドキ…!
    ああもう、早くうっかりペロッと言っちゃえばいいのに!と悶えつつ後編を待ちます!

    これでブレてるって嘘ですよね??
    書いているうちに明後日の方向に向かっていくことは多数経験してますが、読んでる分にはまったくわかりませんよー!?

    霜月さうら #- | URL | 編集
  • 2014/02/18 (Tue)
    04:10
    Re: うぎゃぁ

    > へなへなっちさん

    わ~お!拍手ありがとうございます!(=´∇`=)
    悶えていただけたみたいでうれしいです~~♪
    続きがお気に召すか心配だけど、最後まで楽しんでくださいね!

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2014/02/18 (Tue)
    04:22
    Re: No title

    > さうらさん

    いやあ、今回の雪にはやられました。・・築ん十年の我が家(ボロ家が)^^;
    物流のほうはとくに困ったりしなかったんですけどね。
    凍結やら雨漏りやらで家の中はもうてんてこまい。大雪恐るべし、です。

    キョコちゃんがどんなに爆弾を落としても、敦賀さんははっきり言われない限り気が付かないと思うのですw
    (そういうとこ、キョコちゃん以上に“斜め↑”“曲解思考”な気がします。あのへたれw)
    なので、キョコちゃんにはぜひうっかりペロってほしいですねー。原作でも。

    > 読んでる分にはまったくわかりませんよー!?
    必死に書き繕ったので、そう言っていただけてほっとしましたー。ありがとうございます^^
    よかったら後編も楽しんでいただけたら嬉しいです♪

    ちなぞ #- | URL | 編集

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