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相見ては幾日も経ぬを・・・

久しぶりのコトノハです。
このシリーズは切ないお話が多いのですが、今回はどちらかというとほんわり?(自分的には)したオチになっているような気がするのですがいかがでしょうか。

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ふとした瞬間に、君の声を想い。
ふとした瞬間に、君の笑顔を浮かべ。
ふとした瞬間に、君の温もりを求める。


君のすべてが恋しくてならなくて

気が付けばいつも。
ただ、ひたすらに君のことばかり夢見ている


そう―――。
今、この瞬間も。


見ては幾日も経ぬをここだくも 狂ひに狂ひ思ほゆるかも
(万葉集 大伴宿禰家持)



佳境を越えた、撮影半ばの休憩時間。
数日前、わずかな隙を縫ってようやく君と過ごせたときのことを思い、ぼんやりと気を抜いていた。

「敦賀さん。」

と、耳元で俺の名を呼ぶ残響が掠り、まさか君かと慌てて振り向く。
当たり前のように浮かぶ満面の笑みとともに。


「え、あ。その・・・。敦賀さん?」

視線の先で真っ赤に染まるソレは、思い描いていたものとは似ても似つかぬ表情(かお)。
「しまった」と思ったものの、まさかあからさまにがっかりした顔になるわけにもいかず、浮かべた笑顔をただゆるゆると薄めていった。


ここに君がいるはずもないのに。
分かっていても、すべてをつい君に変換してしまう。


「あの・・・もしよかったら、ランチご一緒にいかがですか。」


失敗したな、と思った。

彼女と間違えて、向けてしまった微笑み。
どうやらすっかり勘違いさせてしまったらしい。
そんなつもりは毛頭なかったのだけれど。

「申し訳ないですが、昼食をとりながら蓮と確認したい仕事の話があるので。」

すかさず社さんが口を挟む。
相変わらず、よく気の回るマネージャーに感謝の気持ちしか浮かばない。

「で、でも、ランチくらい・・・「おっと、時間だ。蓮、行くぞ。」」

「ごめんね。機会があったらまた。」

対外用の笑みを浮かべながら、すぐその場から立ち上がり背を向けた。
それでもまだ追いすがってくる女性の声。

「それじゃ明日は・・・」

正直、面倒くさいとまで思ってしまったことを知ったら、君はどう思うだろうか。
聞こえないふりをして淡々と立ち去る俺を見たら、君は何と言うだろうか。

ひどい、と憤慨する?
失礼だ、と窘める?
それともあるいは・・・
ほんのわずかでも、君が俺にとって特別な存在であることに思い当たってくれる?

もし君が、ここにいたら・・・。
もし・・・。
もし、ここに君が・・・。


他愛ない希望的観測に、また心を奪われそうになる俺をあざ笑うかのように。

頬を、指先を、唇を、乾いた風が擦り抜けた。
心の奥にぽっかり空いた隙間にまで、ひんやりと空虚な感触を残して。


*


ようやく家に戻った俺がまずしたことといえば、冷凍庫の扉を開けることだった。
中に収められているのは、最後にここで会ったとき、君が作り置きしてくれた手作りの惣菜。
わかりやすくパックに小分けにされ、きれいに積み重ねられている。

その一つを手に取った。


そろそろ食べなくちゃいけないのは分かっているけれど。
もったいなくて、食べられずにいる。

君の香りも。
君の気配も。
あっという間にこの部屋から消えていってしまうから。

せめてこうして濃密に君を感じさせるモノだけは、いつまでも手元に置いておきたいと、つい思ってしまうんだ。


気が付けば、開けたままの扉から流れる冷気に全身が包まれていて。
慌てて、扉を閉めた。


教えられたとおり、レンジでチンすれば、立ち上る湯気とともに食卓に現れる薄ぼんやりした君の気配。
それでも一口食べるごとに、君がここにいた記憶がまざまざと蘇る。

真剣な顔で包丁を握り、驚くほど鮮やかな手つきで次々と料理を仕上げていた。
ふざけて、火に掛かったそれを少しだけつまもうとした俺を、口を尖らせながら本気で叱りつけていたね。

そう、君は確かににここにいて。
そして、笑顔を俺に向けていた。

「ああ・・・やっぱり、美味しいな。」

1日経っても、2日経っても。
君の味はこんなにもやさしく、俺の身体に溶けていく。

『いかがですか?』

少し不安げな色を浮かべ、いつものように上目遣いに尋ねてくる瞳が頭を過る。


ああ。
美味しいよ。

本当に美味しい。


―――胸が詰まるほど。



* * *



「敦賀さん。」


スタジオの喧騒に紛れ、細く俺の名を呼ぶ声が聞こえる。

またか、と思った。
今度はミスをしないように、顔を引き締めながら無難な笑顔で振り返る。


「はい・・・え!?あ・・・、ええ!?」

驚きに言葉を呑んだのは、今日は相手ではなく俺の方だった。

「も、最上さん?えっと・・・さ、撮影は?」

たしかしばらく地方で映画の撮影があると聞いていた。
だから食事を作りに来ることもできないと。
それどころか、会うことも当分無理だろうと。

そう聞いてから、まだ数日しか経っていない。

(まさか、いよいよ幻まで見るようになった・・・なんてことはないよな?)

驚きに言葉も出なかった。


「実は、いろいろトラブルがあったみたいで・・・。映画の撮影が急遽延期、というか中止になっちゃったんです。」

動揺する俺の心中など知る由もなく、眉をハの字に下げ、困ったように君は言う。

(本物・・・だ。)

じわじわとこみ上げる歓びに、全身が震えた。
でも、それをこの場で気づかれるわけにはいかない。

さりげなく。
何気なく。
いつもどおりに。

必死にそう、自分に言い聞かせた。


「それで今日は・・・?」

「突然お休みになったので手持無沙汰だったというか、つい朝からいろいろ作っちゃったんです。社さんにご連絡したら、差し入れ大歓迎っておっしゃっていただいたので・・・。」

それで図々しくもお弁当持参でお邪魔しちゃったんですが、ご迷惑だったでしょうか?と小首を傾げ不安げに話す君。

「とんでもない。大歓迎だよ。すごく嬉しい。それにしても、撮影中止とは災難だったね。」

笑顔が消えかけたように感じ、焦って言葉を続けた。

「ええ、そうなんです。突然の連絡だったので、本当にびっくりしました。けっこういい役をいただいたから張り切っていたのに・・・。何か・・・ツイてないですよね。私。」

カクンとうなだれる君を目にした途端、思わず手が伸びていた。
柔らかな髪の感触に、瞬時に心が囚われる。


―――ああ、確かに、君はここにいる。俺の手が届く、この場所に。


「俺はツイてるけどね。」

気が付いたらそう口走っていた。


触れた指先からさらさらと毛先が滑り落ち、ついさっきまでささくれ立っていた俺の心が優しく諌められていく。

だから・・・。

「え?今、なんて?」

驚いたように目を見開いた君にも、
「ううん。何でもないよ。」
内心の動揺を押し隠し、穏やかに返せた。

「ちょうどおなかが空いてきたところだったんだ。」


―――おかえり。


「よかったです。たくさん、召し上がってくださいね。」

「ああ、もちろん。本当に、ありがとう。」


―――待ってたよ。


帰ってきた君の笑顔。
伝わる温もり。


ひたすらに待ちわびていたそれを、ただただ愛おしく噛みしめた。


*


「敦賀さん、あのう・・・。こういってはナンですが、なんだか手の動きがまるで猫とか犬を撫でているようなんですけど・・・。」

不意に手のひらの下から、君が問いかけてきた。

「あっ!もしかして、また小動物扱いですか!?」

むんっと尖る可愛らしい唇。

「私、人間ですよっ。」

そんな様子についクスクスと笑ってしまうけれど、それでも俺は君を撫でるのをやめない。
ときどきチチッと子猫の気を引くように、ふざけて舌を鳴らしてみせたりもして。

「大丈夫。ちゃんと人間の女の子に見えてるよ。」

応えながら、でもこの手は君から離さない。

「第一、子猫はそんな風に口を尖らせたりしないからね。」

「うぅ~、ひどいですぅっ!」

そう―――。
そうやって、君はまっすぐ俺だけを見て。

怒っていても。
ふてくされていてもかまわないから。


「あはは。かわいい、かわいい。」

「また、そうやってからかう・・・。」


きっと君は、俺のこの手が、どういうつもりで君に触れているのかなんて知るはずもないけれど。
それでも君は、疑いようもなく―――。


「からかってなんかないよ。」

「だって、顔が笑ってるじゃないですか!」



俺にとってかけがえのないたったひとりの人なんだ。





相見ては幾日も経ぬをここだくも狂ひに狂ひ思ほゆるかも 
(逢ってから まだ何日も経っていないのに どうしてこんなにも 苦しくてたまらないほど あなたが恋しいんだろう。)

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