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I MISS YOU

こちらは、EMIRI様主催企画への参加作品です。

◆参加企画について

   企画名     :  『ただいま(おかえり)企画』
   企画主催者様 : ROSE IN THE SKY    EMIRI様


※こちらの企画作品は、続き妄想ではありませんが内容的にact.203くらいまでのネタバレを含みます。くれぐれもご注意ください。

お話のイメージの元となったEMIRI様の超ド級素敵イラストはぜひ、↑のEMIRI様サイトでご覧くださいね。
ご訪問の際は、ネチケ・マナーを守って、ご迷惑をおかけしないようご注意ください。






『 I MISS YOU 』




―――独りの夜は長い。




灯りを落とした室内に、ゆらゆらと立ち上る一筋の紫煙。
青みを帯びたその煙は上昇するにつれ白さを増し、やがて力を失ったように霧散して消えていく。

だらしなくソファに身を沈め、蓮は口元から流れ出るその煙をぼんやりと目で追っていた。
何を思う気力もなく。




揺蕩う煙に重なるように、暗がりにふと幻が浮かぶ。

(兄さん、ダメでしょ。そんなにタバコを吸って。もうっ、ちょっと目を離すとこれだから。)

幻だとわかっていても、思わず手が伸びた。

(セツ・・・。)

(ほんとにダメな兄さん。)

叱りつけるように言いながら、ソレは差し伸べる両腕に素直に抱かれ、身を寄せてくる。
覚えのある温もりが、香りが、吐息が、蓮の耳元を熱く擦り抜けた。


・・・ただの幻なのに。

それでもこんなにも愛しい。



(敦賀さん、だめですよ。ちゃんと食べなきゃ。)

腕の中にいたセツカが掻き消え、今度はキョーコが現れた。
はにかんだ笑みが、間近から蓮の瞳を捉える。

(最上さん!)

一瞬目を見開き、すぐ我に返った。

「shit!」

軽く舌打ちすれば、タバコ独特の辛さがちくりと口内を刺し、苛立つ心を嘲笑うように鼻孔を抜けていく。
鈍く頭を振ると、蓮はふうと大きく息を吐き、煙を一気に蹴散らした。
そうして咥えていた赤い火種を、吸い殻の積み重なった灰皿にぐりぐりと押し付ける。
まるで火種とともに、心の中で燻り続ける想いまでも押し潰そうとするかのように。


わかっていた。

名前を呟いても、応える声は吐息すら聞こえない。
辺りを見回しても、求める姿は欠片すら見えない。

それでいて。
腰かけたソファのやわらかさにすら、キョーコの肌を感じた。

何を見ても。
何に触れても。

あらゆるものがキョーコを思い起こさせる。
そのたびに、全身を苛むやるせないいら立ちと焦燥、そして強烈な渇望。

それでも、どうすることもできない。
キョーコ・・・いやセツカがこの部屋から姿を消して以来、ずっとそうだった。


―――まさか、こんなことになるなんて。


正直思ってもみなかった。



社長から、セツカはしばらく国に帰ったことにする、と聞かされても、それほど気にはしていなかった。
共に暮らすホテルから彼女の姿が消えたとしても、別に一生会えないわけじゃない。
それも、カインとセツカとしては会えない、というだけだ。
むしろ中途半端に近づきすぎた2人の複雑な今を思えば、少し距離をおくほうが互いの気持ちも落ち着いていいんじゃないか。
そのほうがきっと彼女のためだ、と。
そう、自分に言い聞かせていた。

ほんの少しの別離くらい、今の俺ならもう大丈夫だ、と。

そう、たかをくくっていた。


―――それなのに。


(くそっ)


今もこうして、この手にたしかに感じるキョーコの温もりと重み。
いとも簡単に再現されるその感触が、現実にはここにない。
その事実が、心に強くのしかかる。

手を伸ばせばすぐ届く場所にいた時間があまりにも長すぎて。
その時間があまりにも濃密すぎて。
もはやそれが当たり前のように自分を支配していたことに気付けなかった。

二人きりの世界を作り上げていたこの場所にいると、なお身に迫る。
一度手にしたものだからこそ一層―――。
その喪失感は震えるほどに強く、はかりしれない勢いで、蓮を襲っていた。


(セツ・・・、もがみ・・・さん・・・。)


苦しい。
息の仕方も忘れるほどに。





キラッ

そのとき、焦点の合わない視界の奥で、テーブルに置かれた一台の携帯が誘うように反射光を煌めかせた。




* * *




キョーコがそれに気付いたのは、深夜に至る収録を終えてすぐのことだった。

『留守番電話あり』

画面に示されたマークをみて、慌てて留守番センターに電話をつなげる。
収録が終わり次第、いつも事務所には連絡を入れているというのに、わざわざ入れられた留守番電話。
少し嫌な予感がした。

(急ぎの件?それとも・・・)

脳裏に浮かんだのは、獰猛な瞳を光らせるカインと吊るされた村雨の記憶。

(まさか、また・・。)

そんなはずはないと思いつつ、ぶるりと身体が震えた。


「留守番電話センターにおつなぎします。」

受話器の向こうで機械的な女性の声が響く。
が、続いてはじまるはずの相手の声が聴こえなかった。

続く沈黙。
空白の時間。

(え?なにこれ。間違い電話?)

首を傾げながら受話器を耳から離しかけたそのとき―――。



「・・・・・・・・I MISS YOU.」



絞り出すように掠れた声がした。
呻きにも似た、その声。


どんなに微かでも。
どんなに掠れていても。

この声を間違えるはずがない。


(つる・・・・・・、ううん・・・・・・にい・・・さん・・・。)


突き刺すような痛みが胸を貫く。
どうすることもできない震えが全身を襲う。
込み上げる想いに耐え切れなくなり。


―――キョーコの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。




* * *




重く厚い扉を前にして、何度も息を整える。

大きく息を吸って。
ゆっくり吐いて。

けれど心臓の音はますます大きくなるばかりで。
ずきずきと、貧血を起こしているように周囲の光が滲んでちらつくのが分かった。

こくん

唾を呑みこめば、その音が耳の中で響きわたる。
その音に後押しされるように、キョーコは手にしたカードキーをみつめると、唇を噛み締め、扉に向き直った。


カチャリ

生じた隙間に仔猫のようにそっと身体を滑らせる。
密やかに部屋の奥へと足を向ければ、視線の先に窓の外を眺める逞しい背中が見えた。


無駄のない張り詰めた筋肉のライン。
しなやかさと強靭さを併せ持つそれが、何にも遮られることなく無防備に晒されている。

ただそれだけで。
ずきりとひと際強い痛みが胸を刺し、キョーコはその場に立ち尽くした。

瞬きすらできない。
胸が、苦しい。

(敦賀さん・・・。)

ちがう。この人はカイン。
カイン兄さん。
そして私は・・・

(私はセツカ。雪花・ヒール。)


不意に目の前の両腕が上がり、濡れそぼった黒髪を持っていたタオルでばさばさと荒く拭きはじめた。
カインらしい雑な動きに、ふっと笑みが漏れる。

そのことに気づくと、小さく首を振り、キョーコは歩みを進めた。
一歩ごとに、“キョーコ”を“セツカ”という鎧で固く包み隠していきながら。



「・・・・・・ I'm home, Cain.(ただいま。カイン)」


ばさり


背を向けたままの蓮の手からタオルが落ちる。
その肩が、少し離れた場所からもわかるほど大きく震えた。

戸惑いながら、ゆっくりと振り向く顔に浮かぶ驚愕と喜悦。
だが、キョーコはそれを目にすることなく、一気に蓮の首元へと飛びついた。


―――“セツカ”として。


まだどこかにキョーコの残る、
自分の表情を
自分の目の色を
ほんのわずかも見られぬように。


今見られれば、気づかれてしまうかもしれない。
何か悟られてしまうかもしれない。

それだけは絶対、避けたかった。
欠片ほどの想いさえ、見せるわけにはいかなかった。


だから・・・。
吸い込まれるようにその胸に身を寄せた。


すっぽりと収まる身体を、当たり前のように抱き締める両腕。
触れた身体から小さな震えがさざ波のように伝わる。
その揺れに呼応するように、キョーコの身体が求めてやまない温もりで満たされていく。


(敦賀さん・・・。)


視界が薄くにじむのがわかった。
と、耳元に囁くように言葉が響く。


「I've missed you.」


電話と同じ掠れた声。

淋しかったと。
ただその想いだけが、まっすぐにキョーコの心を突き刺した。



その言葉を聞けただけでよかった
それだけで、すべてが報われる気がした。

何よりも愛しい温もり。
今だけは、自分のものと言い切れるその場所に顔を埋めながら、キョーコは想う。



大丈夫。
それが“最上キョーコ”に向けたものでないとわかっていても。
この言葉さえあれば、私はもう・・・。



「I've missed you , too」



もう、大丈夫。
だから――――帰ってきた。


「I am by your side.・・・forever.(そばにいるわ。・・・ずっと)」


本当に大事だから。
何よりも大切だから。

誰にも見せずに。
誰にも言わずに。
奥の奥にしまっておかなければいけないモノ。


・・・・それが私の“恋”。


わかっている。
ただ、それでも、今だけは・・・。




その刹那――――。
キョーコは愛しい気持ちを人知れず解放した。


(どんな罰でも受けてみせる。)

熱い抱擁に身を任せながら、キョーコは宙に浮かせた右掌をぎゅっと強く握り締める。

(だから今だけ・・・。)



・・・・この温もりを抱き締めさせて。




キョーコはそっと目を閉じ、そして小さく息を零した。
零した息の分だけ、愛おしさをなお強く重ねながら。






――――蓮は、まだ気づいていない。







Fin

EMIRI様、素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!


スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。

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