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箚青淋漓 1

※続きを書いてみたら、第一話内に少し(だいぶ?)挿入する箇所がでてきたので、分割再UPしました。

とある深夜のおしゃべりから生まれた黒桃物語~彫師敦賀さんと没落武家の娘キョコちゃんのパラレル~を、すこーし文章に落としてみました。

タイトルは、泉鏡花の小説『義血侠血』内の一文、「渠(かれ)が雪の如き膚(はだ)には、箚青淋漓として(彼女の雪のように白い肌には、刺青が瑞々しく描かれ)」よりとっています。

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―――――――
箚青淋漓 1
―――――――

しとどに振り落ちる雨音を追い立てるように、軒先から滴る雨音が一段と大きく、そして規則正しい響きを奏でる。
訥々と連なるその音を背に、九尺二間の裏長屋で男は愛用の刳り小刀を研いでいた。

―――しゃりり しゃりり

人目を引くほどの長身を持て余すように背を丸め、男は手にした小刀をあら砥の上で引いては押し、押しては引くを繰り返す。
刀先に光が戻り、刃が砥石の上を滑らなくなるまで続くその動き。
つど邪魔くさそうにかきあげられる黒髪が、ゆらゆらと蠢くさまは鍛え上げられた後ろ姿と相反するようにどこか艶めかしい。
結うでもなく、総髪にするでもなく、中途半端に断髪された髪。
手入れもされぬまま無造作に伸びきったその髪の奥に、通りすがる誰もが振り向かずにいられぬほどの美貌が隠されていることを、知る者は少ない。

―――しゃりり しゃりり

作業に集中しているせいなのか。
くたびれた長作務衣の襟は無防備に広げられ、肌蹴た胸元から、これでもかと雄々しく張り出た胸筋が覗く。
その逞しい肌面を、うっすらと滲む汗滴が時折つうと這い伝えば、その度ぞくりとするほど露わな男の色気が横溢し、辺りに拡散した。



男の名は蓮。
この世界に入って幾許もないにもかかわらず、その筋では既に有名な彫師である。
だが、表の世界にその名が知られることはなく、たまに訪ねてくる客を除く一切の人との関わりを放棄し、ひっそりとこの裏長屋に暮らしていた。

客のないこんな日、蓮はいつもこうして無為な一日を過ごしている。
やることといえば小刀を研ぎ、あるいは彫りに欠かせない“針”を作り・・・。
今日も今日とて、「道具は自分で作るもの」、師匠から教えられたその言葉を頑なに守り、息を潜めるようにただ黙々と机に向かっていた。

ぼかしの針は12本で一段。それを三段に重ね、竹で作った柄の部分に木綿糸できつく結びつければ完成となる。
口でいうのはたやすいが、作るのはそう簡単ではない。
締め具合も柄の太さも、使う針の釣り合いも、すべては指先の感覚ひとつ。
「刺さるように作れ」
教え込まれたとおりの道具を作れるようになるまで、3年を費やした。それでも常人に比べれば、何倍もの早さだという。そんな才があったのは、彼にとって幸運だったのか、それとも不運だったのか。いずれにせよ、蓮はその腕ひとつで、いつしか密かに名を知られるようになっていた。


ゴーン ゴーン ゴーン

捨て鐘の後、薄い鐘の音が6度続く。
(もう、暮れ六つを過ぎたか。)
気がつけば日はすっかり翳り、先だって交換したばかりの青臭い畳の匂いに混じり、どこからともなく夕餉の香りが漂い始めていた。

・・・と。

蓮は軒先から滴る音が僅かにぶれていることに気付いた。
顔を上げた蓮の鼻腔を、鬢付け油の甘い香りが微かに抜けていく。
(客・・・か。)



「おはいり。」
そっと声を掛ければ、破れ障子の向こうにふわりと女の影が浮かびあがった。






(続く)
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コメント

  • 2013/10/23 (Wed)
    00:19
    文芸の香りが...

    つ、つづき... ぜひぜひお願いいたしますー

    彫り師の蓮さんの色気が壮絶すぎて卒倒してしまいそうです
    こんな蓮さんがキョーコさんとどう絡んでいくのか
    とても楽しみです。

    ゆるゆるとお待ちしております^^


    ねこ #- | URL | 編集
  • 2013/10/25 (Fri)
    14:37
    Re: 文芸の香りが...

    コメントありがとうございます♪
    こんなところまで足を運んでいただきありがとうございました!

    続き…、頭の中ではラストまでほぼ出来上がってるんですけど、文章に起こすのがこんなに大変だとは^^;
    ゆるゆるの超気が乗った時更新になると思いますが、よかったらまた読んでくださいませ~!

    ちなぞ #- | URL | 編集
  • 2013/10/27 (Sun)
    18:48
    No title

    続き!!!
    お待ちしております~~~!

    ホントちなぞさんの文章は情景や色気がすごい素敵です~
    武家のお嬢様のキョコさんは廓に売られちゃうの?そしてどうやって蓮さんにつながっていくのか…ドキドキして待ってます~

    霜月さうら #- | URL | 編集
  • 2013/10/29 (Tue)
    15:42
    Re: No title

    ありがとうございます。
    褒め殺しされて、そのまま地に埋もれ土塊と化しそうです~。

    えっとこれ、頭の中ではものすごーく黒桃なんですけど、それを文章に起こす能力がないという…。
    続けられるのか、自分で自分が心配です^^;

    ちなぞ #- | URL | 編集

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