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天地の極のうらに吾がごとく…

思ふにし死にするものに・・・」(side R)、「忘るやと物語してこころやり・・・」(side K)、「下野の安蘇の河原よ石踏まず・・・」(side R)の続きになります。

途中、絵本『100万回/生き/たねこ』(検索避けを入れさせて頂きます)についての記述があります。
いわゆるネタバレに近い形になりますので、予めご了承くださいませ。


ただ君だけを想い、夜が明けていく
――ただ貴方だけを想い、日が暮れていく

伝えたいのに伝わらない
――伝えられないのに止まらない

誰よりも
――何よりも

大切なのは、ただ一人。

君だけなのに
――貴方だけなのに


地の極のうらに吾がごとく 君に恋ふらむ人は実にあらじ
(万葉集 狹野弟娘子)


一瞬の硬直。
震える身体。

何とか振り払おうともがかれて、それでもなお、どうしようもなく愛しくて、蓮は味わうようにキスを続けた。
堰を切ったようにとめどなく。

「はあ・・・・はあ・・・はあ・・・」
キスの合間ごと、失った酸素をかき集めようと必死になるキョーコをみるたび、心の片隅が意地悪くほくそ笑む。

(そうやって気が付けば、俺のことばかり心に刻みつけてしまえばいい。俺の心に、君だけが刻みこまれているように。)

その一方で、
(すみません。あなたが言ったように、包み込むようにやさしく彼女を愛することは・・・やっぱり俺にはできそうにありません。)
蓮は心の中でそっと社に頭を下げた。
(それでも・・・。)

(もうこの気持ちは・・・抑えようがない。)
希っていた感触を心ゆくまで堪能し、ようやく蓮が余韻を噛みしめるように唇を離すと、キョーコは飛び跳ねるように頭を反らせた。


「はぁ、はぁ・・・・・・・・・ひ・・・ひどい。」
息を切らし唇を噛みながら、キョーコはようやくといった様子で口を開いた。

(私が敦賀さんを好きだって気付かれたせい?だからこんなことをされるの?)
蓮の行為に、キョーコの心は混乱の一途をたどる。
(こうやって男の怖さを見せつけて、恐れさせて、逃げ出させて、そうしてさっさとあきらめさせようとしてる?それとも・・・好きな気持ちを剥き出しに、のこのこ後をついて回るから、都合のいい女だとでも思われた?)

それならさっさと、この場から逃げ出してしまいたかった。
これ以上ここにいれば、不様に自分を晒すことになるだけだから。
好きになってはいけない人に抱いてしまった不遜な気持ちが、ますますあからさまになるだけだから。

・・・でも、長く強い2本の腕が、それを許そうとしなかった。


「ひどくていい。」
キョーコが何を考えているかなど夢にも思わぬまま、蓮は答えた。

「何と言われようとかまわない。でも、それくらい・・・。もう我慢できないくらい・・・」


君の一番そばにいるのは、俺
君が一番みつめるのは、俺。
君を一番愛しているのは、俺。
とにかく・・・君の一番は俺じゃなきゃ嫌なんだ。


「好きなんだ。君を」


「ぇ・・・?」

何を言ってるんだ、この人は。
そんな驚愕の顔で見上げるキョーコの視線を、蓮はまっすぐ見返した。

「わかった?」
「わかりません。」
「愛してるんだよ。心の底から。」

わかってもらうには、直球でいくしかないと思った。
だからこそ、口にした愛のことば。

投げつけられた言葉に虚を突かれたように、キョーコは瞳を大きく見開いた。
その表情が、みるみるうちに硬くなる。

「・・・です。」
「え?」
「・・・えないです。」

唇先だけを動かしながら、キョーコがぽつぽつと呟く。
よく聞こえなくて、もう一度間近に顔を寄せれば、小さな唇が吐き出す甘い吐息が頬を掠め、蓮は息がとまりそうになる。

「敦賀さんが私を好きだなんて、そんなこと・・・ありえないです。」
けれど耳に届いたのは、吐息の欠片とは裏腹に甘さのかけらもない言葉。

「どうして?なんでそんなこと言いきれるの?」
蓮の口から、乾いた感情のない声が零れた。


ただよう沈黙。
その沈黙に耐えきれなくなったように、キョーコはすうーっと大きく息を吸った。

「だって敦賀さんは、この世界でトップに君臨する人なんですよ。ゴージャスターなんです。信じられないくらいきれいで素敵な女性が周りにたくさんいらして、よりどりみどりで・・・。そんな人が私なんかのことを好きになるはずないじゃないですか。からかっているんじゃなきゃ、きっと何かの間違いか勘違いです。」

迸る感情を思いのままに吐き出せば、
「意味が分からない。間違えようがない。俺は最上キョーコさん。君が好きなんだ。どうしようもないくらい好きなんだ。」
即座に返す蓮に、いやいやと首を振った。

「ありえないって言ってるじゃないですか。私には敦賀さんのおっしゃってることが理解できません。」
「俺には君の言うことのほうが理解できないよ。どうして、俺が君を好きになるはずがないって、そう言いきれるんだ。」
「どうしてですか?世の中の誰だって思うことです。あなたみたいな人が、私みたいなちんくしゃを好きになるはずがない。それが世間の道理です。敦賀さんが私を好き?そんなの・・・そんなの・・・、そんなの敦賀さんらしくありません!」

断言するキョーコに、蓮の身体から力が抜けた。
困ったように大きく何度も首を振り、ため息を漏らす。
その隙に、キョーコは蓮の腕の中からするりと身体を抜け出した。

けれど、すかさず蓮の両腕がキョーコの動きを遮り、壁際に追い詰める。

「ねえ、最上さん。俺らしくないって何?じゃあ、俺らしいってどういうこと?こんなに真剣に人を好きになって、こんなにどうしようもないほど恋しくて、でもどうしたらいいか分からない。その気持ちを素直に、正直に、君にぶつけてるだけなんだ。これが、俺なんだよ。これが、素のままの俺なんだ。これ以上、俺らしい俺がどこにいる?教えてくれ。それなのに、俺らしくないってどういうこと?」

怒涛のようにぶつけられる言葉の数々に、キョーコの顔が、身体が、固まる。
怯えたようなその様子に気付き、蓮の口からぷつんと言葉が途切れた。

「・・・ごめん。俺、自分の気持ちばっかり押しつけたね。でも・・・わかってほしい。俺は本当に君が、君だけが好きなんだ。」

寂しげに微笑む蓮の瞳から、キョーコはどうしても視線を逸らせなかった。
たとえ、それが嘘だとしても、からかわれているのだとしても、囁かれる甘い言葉に、今だけでもその身を浸していたくなったから。

「だから、いつだって、君の一番近くにいたい。君が、笑っているときも、喜んでいるときも、泣いているときも、苦しんでいるときも、怒っているときだって。どんなときも俺は君の一番近くにいたいんだよ。そばに、いたいんだ。」

「そばに?私の?」

思わず言葉が漏れた。

(嘘・・・じゃないの?)

キョーコの胸にじわじわと込み上げるまさかという思い。
まっすぐに自分を見つめる蓮の瞳の色の強さに、微かな期待が心を揺らす。
その期待を後押しするように、蓮の言葉が綴られた。

「そう、きみの・・・そばにいさせてほしい。」

「・・・う・・・そ・・「うそじゃない。」」
「冗談・・「冗談じゃない。」」

キョーコの瞳の中で揺らぐ光に力を得て、蓮は言葉を、気持ちを重ねていく。

(気付かないふりなんて、もうさせないよ。)

お願いだから、俺をみて。
ただ、俺だけを、みて。

言葉の端々に迸る蓮の心の叫びは、キョーコを大きく揺るがせた。

(信じても・・・いいの?)

もしかしたらの想いが、キョーコの中でどんどん強くなっていく。

「好きだからそばにいたい。ただ、そばにいるだけでいいんだ。それだけで、俺は幸せになれる。それくらい・・・好きだから。お願いだから、どんなときも、誰よりも、一番君のそばにいる権利を、俺にちょうだい。君の・・・一番近くに・・・ずっといさせてくれると、そう約束して。」

たじろぐ心を、幾重にも連なる蓮の言葉がやさしく包み込んでいった。
と同時に、キョーコの脳裏にふと昔読んだ絵本のセリフがふわりと浮かび、蓮の言葉に重なった。

“そばにいてもいいかい?”

それは、絵本を読むたびにキョーコが、心の中で何度も反芻したセリフ。
母に言いたくて、ショータローに言いたくて、言えずに呑みこんでいたセリフ。
誰かに言ってもらいたくて、誰からももらえなかったセリフ。


ぼんやりと思いを馳せるキョーコに向け、蓮は言葉を続けた。

「何度言えば分かってくれる?俺が君を心から、本当に好きだっていうこと。100回?1000回?1万回?それとも、もっと?」

そう問われ、キョーコは脳裏に浮かんでいた絵本のタイトルをつい漏らした。

「100万、回・・・。」

「100万回?100万回言ったら、君は信じてくれるの?俺を受け入れてくれるの?それなら、一晩中でも俺は君に言い続けるよ。愛していると、そばにいてほしいと。声が枯れても、喉が腫れても、かまわない。君がそれで信じてくれるというなら。」

蓮は、全身で、全力で伝えようとしていた。

目を閉じてもムダだよ。
耳を塞いでもダメだよ。
この気持ちがちゃんと伝わるまで、俺は一歩も動かさない。
君をここから、逃がさない。

だって、何よりも、誰よりも、君を愛しているから。


・・・やがて、キョーコの大きな瞳から一筋の涙が零れ落ちた。


「おいで。」

蓮はそっと手を伸ばす。
「いいから、ほら。手を出して。」

有無を言わさぬ口ぶりに、躊躇うように震えながら、キョーコはその手に指先を小さく伸ばした。
触れそうで触れない距離で立ち止まるその指を、蓮の大きな手ががしりと掴みとる。
そして掴んだ瞬間、勢いよくぐいと自分に引き寄せた。

とすん

倒れ込む痩躯をそのままギュッと抱き締める。

「いつだって、こうして俺が君のそばにいてあげる。ううん、いさせてほしい。だから、辛いことも、悲しいことも。苦しいことも寂しいことも、どんな気持ちもぜんぶぶつけて。君のことならどんなことでも知りたい。わかりたい。分かちあいたい。そうできることが俺の幸せなんだ。」

「幸せ・・・?」

「そう、幸せ。」

もしも・・・君が何もかも失って壊れてしまったとしても、それでも俺は君の隣にいる。
君のことが必要だから。
そう思える存在は、君1人しかいない。
だから、大切に愛していきたい。
ずっと。
ずっと。

もしも・・・この先君が、俺でない誰かに惹かれて愛したとしても、それでも俺は君を愛し続ける。
君は俺にとって唯一無二の存在だから。
そんな存在は君しかいないから。
この先何が起きようと、俺の気持ちはずっと君とともにある。
いつだって。
いつだって、君を愛してる。

だから・・・

「そばにいさせて?」

「そばに・・・?」

「そう。100万回でも、200万回でも、言い続けるから。だから俺を信じて。そしてずっと、この腕の中にいて。」

「100万回・・・」

腕の中から小さな囁きが聞こえる。

「そう。100万回。だから・・・だから、ずっと・・・ずっと、そばにいてくれる?」

囁き返した腕の中で、ひとりごとのように呟く声がした。

「小さい頃読んだ絵本みたい。」

「絵本?」

「ええ。・・・100万回死んで、100万回生き返った、とらねこのお話。」

(この子は突然何を言い出すんだろう?)

唐突すぎて理解できない。
けれど、その口調があまりにも真剣で、蓮は黙って耳を傾けた。


「主人公のとらねこは、100万回生きても、生きることに何の意味も価値も見いだせなかった。でも、最後に生き返ったとき、一匹の白猫と出会い、恋に落ちるんです。大好きな白猫の気を引きたくて、とらねこはいろんなことをしてみせる。でも、白猫は見向きもしない。どんなに自分がすごいのかを語っても、関心を示してもらえない。けれどある日・・・いつものように“俺はすごいんだぜ”と言いかけたとらねこは、それをやめ、ふっと正直な気持ちを言葉にするんです。自分を繕う言葉でも自分を飾る行為でもなく、心の底から感じた、正直な願いをただひとこと口にする・・・。」

キョーコはそこで口をつぐんだ。
躊躇うように瞼を伏せれば、そこから溜まっていた滴がひとつふたつと零れ落ちる。

「やがて2匹はいっしょになり、とらねこは白猫とともに生きることで、初めて生きる喜びを知る。自分が誰かに必要とされることの幸せを、自分が必要とする誰かと生きることの幸せを、ようやく得るんです。そうしてとらねこは本当の意味での自分の“生”を手に入れ、そして死んでいく・・・そんなお話。」

「ねえ、そのとらねこが口にした言葉って何?」

キョーコがわざと飛ばした言葉を蓮はあえて訊ねた。
そうすることを、キョーコが求めているように感じたから。

「・・・・・・“そばにいてもいいかい?”」

小さな小さな呟きが蓮の耳を掠めて消える。

「そばにいても・・・。」

教えられた言葉を繰り返しかけた蓮の唇に、か細い指がそっと触れ、動きを止めた。
ゆっくりと見上げる大きな榛色の瞳が、蓮をひたすらにじっと見つめる。
逸らしようのない心の色をその瞳に込めて。

「そばにいても・・・いい・・・ですか?敦賀さん。」

大きく息を呑み、震えながら、けれどはっきりと蓮は答えた。

「それは、俺のセリフ。」

向けられた言葉に、たおやかに笑みを零すキョーコ。
その眩しさに蓮の心が、熱く震えた。


「ねえ、最上さん。・・・そばにいても、いいかい?」

「ええ。」
大粒の涙を零しながら、キョーコはにっこりと微笑み、そして噛みしめるように囁いた。


「ようやく、みつけたんですね・・・私。
私だけの居場所、を。私が、私として必要としてもらえる場所を。信じても・・・いいんですね。」

蓮はそっとキョーコの眦に唇を寄せ、止まらない涙の粒をやさしく吸い取ると、震える身体を強く、強く抱き締めた。


いつまでもそばにいると、そう誓うように。







天地の極のうらに吾がごとく 君に恋ふらむ人は実にあらじ 
(空の果てにも地の果てにも私くらい貴方のことを愛している人はどこにもいはしないよ。)



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