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忘るやと物語してこころやり…

思ふにし死にするものに・・・」のキョコsideになります。


貴方の姿を想うだけで、
貴方の声を想うだけで
貴方のやさしさを想うだけで

苦しくて
切なくて
しんどくて
胸が痛くて
それでいて・・・心がぽっと温かくなる。


本当は、捨てなくちゃいけないのに。
忘れなくちゃいけないのに。
そう思えば思うほど
募る気持ちに流されそうになる自分がいる。


アナタガ・・・ダレヨリモスキ


るやと物語してこころやり 過ぐせど過ぎずなほ恋ひにけり
(万葉集 詠み人知らず)


―――不思議。

相手が敦賀さんじゃないというだけで、こんなに素直に笑える。
こんなに気持ちがラクになる。

どうして・・・。
どうして、敦賀さんを前にすると、あんなに心がフリーズしてしまうんだろう。


好きという気持ちに縛り付けられて、笑顔すら強張ってしまう。
バカみたいに、あの人の言葉ひとつに、視線ひとつに振り回されて。

ううん。
理由なんて痛いほど分かってる。

哀しいくらい・・・あの人が好き、だから。


*


「キョーコちゃん!」

朝から続いた収録を終え、テレビ局から出た私を呼びとめたのは、聞き覚えのあるやさしい声。
くしゃりと笑う、少年のような屈託ない表情に、ふっと心が緩む。

「こんにちは。光さんも今日こちらでお仕事だったんですか?」
「うん、そうなんだ。キョーコちゃんも?」
「ええ。」
「そっかあ。偶然だね。ちょうど玄関ホールに下りてきたら、キョーコちゃんらしき後ろ姿がみえたからさ。もしかしてって思って、俺思わず追いかけちゃった。」

そう言って、えへへと笑う。
よく世間では、敦賀さんの笑顔が「春の陽だまりのよう」と称されるけれど、本当に陽だまりみたいなのは、光さんの笑顔のほうじゃないだろうか。
やさしくて、穏やかで、そばにいると温かくて・・・押し潰されるような想いに駆られることはない。

だから―――、光さんと話すのは楽しい。


「こんなところで会えるなんてびっくりだよ!でも、うれしいな。」
「私も、お会いできて、うれしいです。」

こうして誰かと、他愛ない会話を続けていれば、敦賀さんのことを考えずに済むから。

「にしても・・・キョーコちゃん。今日は、いつもとちょっと雰囲気が違うよね。」

え?と思ってすぐ気がついた。
たしかに、今日の私は普段はなかなか着ることのない、女の子らしいワンピースを着ていた。
淡いピンク色でハイウエストになったAラインの裾が、歩くたびにふわふわと舞い上がるのが可愛くて、ひと目見たときから気に入ってしまったソレ。

「ああ、これですね、今日の収録用の衣装なんです。じつは収録のときに袖口をひっかけて、少し破いてしまって・・・。それで、買い取らせていただいたんです。でも、初めて見たときから可愛くて気に入っていたので、ラッキーって思って。ふふっ。思わず楽屋で簡単に引っかけた場所を繕って、そのまま着てきちゃいました。」

ほつれた袖口を差し出せば、へえ、全然わからないよとのぞきこむ光さん。
差し出した手を取りかけてハッと気付いたように上げた顔は、びっくりするほど真っ赤でこちらのほうが驚いてしまった。

「あの・・・さ。今日のキョーコちゃん、女の子らしくてすっごく可愛いね。・・・あっ!いや、いつもが女の子らしくないって言ってるわけじゃなくて、その・・・。」

とってつけたようにそう言うから、ついくすくすと笑ってしまう。

「いいんですよ。そんなに気を使っていただかなくても。女の子らしい恰好なんて、役のときくらいしかしてないですもんね。」

本当に何ていい人なんだろう。
それなのに、そう思うそばから私の心の片隅は『この言葉をくれたのがあの人なら・・・』と囁き始める。


この言葉をくれたのがあの人なら・・・。
こうして話をしてくれるのがあの人なら・・・。

そうして、つい視線があの人を探してしまう。
つい耳があの人の声を求めてしまう。

いつも―――、そう。

事務所にいるとき。
テレビ局にいるとき。
スタジオにいるとき。
もしかしたら、会えるんじゃないかと。
あの声がどこからともなく聞こえるんじゃないかと、期待してしまう自分がいる。

今だって、見覚えのある長身がふいに現れるような気がして。
入口横の植え込みの前で、光さんと立ち話をしながらも、視線は何度も入口を出入りする人を追っていた。

そんな自分がイヤで、さりげなく入口に背を向ける。

とたんに「本当にいいの?」とでも言うように、サアーっと風が走り抜けた。
伸ばしかけの髪まで、問いかけるようにまとわりついてきて、慌てて両手でおさえこむ。



「あ・・・。キョーコちゃん、髪になにかついてる。ちょっとじっとしてて。」

言いながら、ふわりと髪に触れた光さんの指先。
その感触は、あの人の触れかたに似ているようで・・・でも、全然違っていた。


ドキドキもしない。
息も止まらない。
ギュッと心臓を掴まれるような痛さも感じない。

なにも・・・感じない。


「ほんと、キレイな髪だよね。」

照れくさそうに掛けられた言葉に微笑み返しながら、あの人だったら・・・と、ついまた思ってしまう自分に腹を立てていた。


どうして、あの人じゃなきゃダメなんだろう。
私なんかに手の届く人じゃないのに。
ただ、好きという気持ちを抱えるだけで、満足できないのはなぜだろう。

何度も諦めようとしたけれど駄目だった。

いっそ・・・。

恋なんて
愛なんて
信じないと言っていたあの頃に戻りたい。

それなのに。
神様はそれを許してくれない。


「ありがとうございます!」

心の中は、嵐のように荒れ果てているのに、ちゃんと笑顔を浮かべられる自分が不思議だった。
それとも、こんなことを繰り返していれば、いつか表面だけじゃなく、心の底から何気ない笑顔を浮かべられるようになるんだろうか。


たとえ・・・敦賀さんを前にしても。




「あ、あのさ・・・キョーコちゃん。もし、このあと時間があるなら・・・あの・・・。」


光さんの声が、さらりと耳をすり抜けていく。






忘るやと物語してこころやり 過ぐせど過ぎずなほ恋ひにけり 
(あなたのことを忘れられるかと人と世間話などをして気を紛らせ、物思いを消してしまおうとしたけれど、恋心はいっそう募るばかり。)




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