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旅立ち

※『蓮キョ☆メロキュン推進!ラブコラボ研究所』参加作品です。


「最上さん・・・実は俺に・・・ハリウッドからオファーがきたんだ。」

いつものように食事を作りに行った日の帰り際、突然敦賀さんはそう言った。
「え?あ・・・、おめでとうございます。ずっと目標にしてらしたハリウッド進出が、ついに叶うんですね。」

祝福の言葉を伝える、この声は震えていないだろうか。
祝福の笑顔を浮かべる、この瞳に涙は滲んでいないだろうか。

幾度も自分に訊ねながら、必死の想いで微笑んだ。

「よかったですね。本当に。さすが・・・です。ご出発は・・・いつ、ですか?」

敦賀さんがいなくなる?
私の傍から消えてしまう?

「いや、正確にはまだオファーを受けてはいないんだけど・・・。もし受ければ出発は2ヶ月後、になると思う。主要キャスト以外のオーディションが、まだこれからだからね。撮影が始まるのはその後なんだ。」

心の奥にしまいこんでいた箱の、何重にも締めていた鍵がすべて壊れてしまったことを、自覚したのはいつだろう。
気がつけばいつも、目は日本人らしからぬ均整のとれた後ろ姿を、耳は艶やかに響くその声を、ただひたすらに追っていた。

追いかけるだけで、よかった。
それだけで満足できると思っていた。
満足しなければならないと、思っていた。

それなのに・・・。

それすら、できなくなってしまうなんて。
私はそれに・・・耐えられるの?

「まだ、知っている人は僅かだけど。最上さんには俺の口からちゃんと言っておきたくて・・・。」

立ち尽くす私に、信じられない告白はまだ続いた。
ハリウッド進出がもし成功したら、拠点をそちらに移すつもりであること。

なぜなら―――。

敦賀さんは純粋な日本人ではない、という。
本名は、久遠・ヒズリで、実は、クーパパの息子である、と。
そして・・・じつは、敦賀さんがコーンだったのだと・・・。

「ずっと、君を想ってきた。君だけを想ってきた。愛してるんだ。最上さん。・・・いや、キョーコちゃん。」

ありえない・・・。
敦賀さんが、私を・・・好き?

この人は・・・いったい何を言っているのだろう?

言葉が出ない。
何も考えられない。
喜びよりも戸惑いが、心の中を占拠する。

茫然と身動ぎもしない私に、敦賀さんは少し困ったように眉を下げ、言葉を漏らした。

「急に言われても、困るよね。でも、君には真実をすべて話しておきたかった。どうしても俺の口から言っておきたかったんだ。もし・・・もし君が・・・。」

俺と生きる道を選んでくれるなら、ハリウッドなんてどうでもいいくらい君が好きなんだ、と彼は言った。
君と一緒にいられるなら、日本にいるほうがいい、とさえ。

この上ないやさしさに満ちた、けれど本気の笑顔で、何でもないことのようにそう言った。

そんなこと・・・できるはずないのに。
そんなこと・・・させられるわけないのに。

笑顔で彼は、恐ろしい選択を私に迫る。

できない、させられない。


送り届けてもらう間も、ただそれだけが頭を渦巻き、何も言えないまま車から降りた私を追いかけるようにして、敦賀さんはふわりと私を抱き締めた。

「・・・君を愛してる。君がいなければ、俺は自分を保つことすらできない。だから・・・。」

背中に回された手が震えているのが分かった。
押しつけられた胸元から、ばくばくと激しい心音が響いてくるのが分かった。

「お願いだから、ずっと傍にいると言ってほしい。」

囁かれた言葉に湧き立つような喜びを感じながら、なぜか素直にその気持ちを伝えられずにいた。
何かがそうすることを押しとどめていた。


「返事は今すぐでなくていいから。でも・・・俺は本気だから。」

車のエンジン音が闇に吸い込まれて消えるまで、私はその場にぼんやりと立ち尽くしていた。


私がいれば、ハリウッドなんてどうでもいい?
あの人は、いったい何を言っているのだろう。

混乱する頭の中で、ひとつだけはっきりとわかっていることがあった。


―――敦賀さんの夢を壊しちゃいけない。彼が、ハリウッドで成功するために、私が足枷になるようなことがあっちゃいけない。


・・・たとえ私も、他に代え難いほど、彼を愛しているとしても。



* * *



その後まもなく、敦賀さんのハリウッド進出は、社内でも公然の事実として語られるようになった。
彼の周辺は俄かに慌しくなり、事務所に顔を出すこともぐんと減った。
一方私も片付けなければならない仕事が急に増えていて、そのせいで敦賀さんとは顔を合わせることすらなかった。
ときおり、携帯に着信があったのはわかっていたけれど。
それに折り返すこともできず、あの日の答えは保留したままになっていた。


ぽっかりと予定が空いたその日、久し振りに訪れたラブミー部室で私はぐったりと机に伏していた。
ばたばたと通り過ぎたこの数週間。
疲れ切った身体を横たえ、ふと目をつぶれば、数週間前に交わした社長との会話が蘇る。


「・・・いいんだな。」
「はい。お願いします。」
「イチから出直し、のようなもんかもしれんぞ。」
「覚悟の上、です。」


踏み出した一歩の、本当の結論は、まだ出ていない。
もしかしたら私は、とんでもない賭けに出てしまったのかもしれない。
それがよかったのか、悪かったのか、正しい選択だったのか自分でもよくわからないけれど。

でも・・・選んだ道に悔いはない。
そうしたいと、そうするしかないと、信じて選んだ道だから。

だから、この先どんな結果が待っていようと、きっと後悔はしない。


*


「・・・最上さん、最上さん。」

掛けられた声にはっとして、慌てて顔を上げた。

(やっぱり・・・。)

1ヶ月以上会えなかったその人にようやく会えた喜びが、全身を支配する。
ただ、微笑みかけられただけで、やわらかな春の日差しのような温もりが、身体中を包み込む。
好きすぎて、大好きすぎて、名前を呼ばれただけで涙が零れそうになった。


「休んでたのに・・・お邪魔してごめんね。」
「いえ、お忙しいのは敦賀さんのほうです。大丈夫、なんですか?」
「ああ、ようやくちょっと時間がとれてね。今日は最上さんが事務所にいるって聞いたから・・・。」

ためらうような口ぶりに、その先に続く言葉を予感した。

「あまり時間はないけれど、でもどうしても旅立つ前に君と話がしたくて・・・」


その言葉に、どうすることもできず目を伏せた。


*


「ごめんなさい。たぶんお見送りには行けません。」


「せめて・・・見送りに来てくれる?」
小さな声でそう呟いた敦賀さんに、私は俯いたまま答えた。

「そう・・・か。仕方、ないよね。」

聞いているこちらが苦しくて耐えきれなくなりそうなほど、感情を押し殺した声が聞こえたけれど、私は何も言えなかった。

「ごめん・・・なさい・・・。」

もう一度そう重ねた。
だって、今はそれしか言えなかったから。

好きですという気持ちを押さえこみ、ぐっと唇を噛みながら精一杯の演技力で、敦賀さんを見上げる。

「ハリウッドでも、がんばってくださいね。敦賀さんなら、きっと成功する。そう信じていますから。」

瞬きもせずじっとこちらを見つめる敦賀さんから、視線を逸らしたい気持ちをこらえるのに必死だった。
そんな私の気持ちを察したかのように、敦賀さんは淋しげに微笑んだ。

「ずるいな。君は。こんなときですら可愛くて。別れの言葉さえ、愛おしく思わせる。」

そして、言葉の出ない私をもう一度確かめるようにじっとみつめると、長い睫毛を緩やかに伏せ、そっと立ち上がった。

「そんな言葉、本当は聞きたくもないのに。」

誰ともなくぽつりと呟くと、音もなく背を向け、敦賀さんは静かに部屋を出て行った。


その背に向かい、思い切り心の丈を叫びかけたかったけれど、何も言葉が出なかった。
出せなかった・・・。



* * *



「行ってらっしゃい!」
「がんばってこいよ。」
「お前ならきっと成功する。」


送別の言葉がこだまする、早朝の成田空港。
人影もまばらな片隅で、幾人かの人の群れが蓮を取り囲む。

知られればパニックになる恐れがあったから、その出立は厳重に伏せられていた。
だからだろうか。
送る人は少なく、ごく親しい人ばかりに限られている。


「あら?お姉さまは?」

無邪気に問いかけてくるマリアに、蓮は寂しげに微笑みかける。

「最上さんは・・・来れないって。」
「え?でも、たしか・・・。」

言いかけたマリアに、ローリィが声を掛ける。
「マリア、おいで。蓮に渡すものがあるんだろう。」
「そうだったわ。おじいさま!」
手を叩きローリィのもとに駆け戻るマリアを見送り、さりげなく視線を奥へと流した蓮は目を瞠った。


「も・・・がみ・・・さん?」

ゆっくりと、彼の元へ近づいてくる人影。


嘘だ。
ありえない。
彼女がくるはずが・・・ない。


思わず瞬きを繰り返し、それでも足りずに目を何度も擦る。
けれど、その姿は消えることなく、むしろどんどんはっきりと大きくなっていった。

そんな蓮に気付いたのか、視線の先を追ったマリアが声を上げた。

「おねえさまったら遅い!乗り遅れたら大変なのに。」

飛びついてきたマリアを、キョーコがぎゅっと抱き締める。
その足元に置かれた、大きな四角い箱のようなもの。

(あれは・・・スーツケース?)


『見送りにはいけません』

ついこの間、聞かされたばかりのキョーコの言葉が脳裏に蘇る。

(たしかに君は、見送りには行けないと、そう言っていた。なのに、どうして・・・?)

何度も何度も心の中で反芻し続けた、あの日のキョーコを思い出す。

(“見送り”・・・には・・・?)


もしかして、いや、まさか。
思い至ったひとつの答えに、空港のざわめきが一気に消える。
静まり返った視界に映るのは、ただひとつ。
まっすぐこちらを見据え、近づいてくる最愛の人の笑顔だけ。

(最上・・・さん・・・、まさか、君は・・・。)


一歩、また一歩。


スーツケースを引きながら、愛しい笑顔が確かに近づいてくる。
まるで大きな賭けに挑戦し見事勝利したかのような、自信にあふれた満面の笑顔。
晴れやかなその笑顔が、蓮の心を期待に震わせる。


一歩、また一歩。


2人の距離がゼロになるまで、あとわずか。





Fin

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