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Stepwise

※『蓮キョ☆メロキュン推進!ラブコラボ研究所』参加作品です。


20歳を迎え、一人暮らしを始めた君。
わずか数年の間に、少女だった君は咲き誇る花のように美しくなり、才能を一気に開花させた。
馬の骨はうんざりするほど次から次へと留まることを知らず、俺は必死の思いで君を追いかけ、追いかけ、追いかけ、そしてようやく捕まえた。
それなのに・・・。
すべてが不安でたまらない。
君のことが大事すぎて。愛おしすぎて。
そっと抱き締めるだけで胸が痛くなり、全身が震える。
やわらかな髪に、艶やかな頬に、可愛らしい額に、唇を落とすのが精いっぱいで、信じられないことにこの俺が、キスひとつまともにできずにいる、

もっと先に進みたいという疾しい気持ちはそれこそ山ほどあるけれど。
君との関係は、まだまだ完成しきれないガラス細工のように、もろく壊れやすいものに思えて・・・。
頭がどんなに沸騰しても、身体が動かない。
・・・動かせない。


*


その日―――。
突然降り始めた季節外れの雪は、時間を追うごとに激しさを増してきて。
明日は早朝から仕事だという君を、夕刻送り届ける頃には、ワイパーをかけないと前がよく見えないほどになっていた。


「あ・・・。」
助手席から小さな声が聞こえる。
見れば、脇道に華やかな袴姿の女性たちが数人。
降りしきる雪を困った顔で避けながら小走りに駆け抜けていくところだった。

「大変そう・・・。そっか。そういう時期なんですね。卒業・・・か。」
その言葉に、楽屋で見た雑誌に載っていたフレーズがふっと頭をよぎる。

「大人への新たな一歩、だね。」
何気なく口にした言葉。

「ですね・・・。」
ゆっくりとうなずく君の口調がいかにも感慨深げで、ほんの少しだけ気になった。

「あんな風に過ごしたかった?」

恐る恐る尋ねてみる。
世間一般の1人の女の子として当たり前の毎日。
それを彼女が今求めているとしたら、そこにきっと俺の居場所はない。
そんな気がして、それだけで怖くなった。

つい右手を伸ばし、そっと頬に触れる。
指先にこもる寄る辺のない想い。
最近はいつもそうだ。
何でもない君の仕草に、言葉に、急に不安に襲われる。
ちょっとのことで心が傾いで、俺の手の届く場所から君が消えてしまわないかと怖くてたまらなくなる。
君はたしかにこうして、手を伸ばせばちゃんと届く場所にいてくれるのに。

それなのに俺ときたら、以前よりずっと弱気で、意気地無しで、心配症で、身動きひとつできやしない。
だって・・・。
ようやく手に入れたガラス細工がもしこの手の中で壊れたら、その破片に傷つきとめどなく溢れる血を抑える方法を俺は知らないから。


「いいえ。」
震える指先に気付いたのか、そう言ってやわらかく微笑む君。
その視線をひとりじめするだけで心が一気に和らいでいく。

「そんなこと、ないです。」
頬に触れた俺の手に、君の掌がそっと重なる。
それだけで、心の全てが満たされていく。

「こうして敦賀さんといられるのが、一番幸せ、だもの。」
何よりもほしい言葉を、君はそうやっていとも簡単に紡いでみせるから。
俺は何があっても君を離せない。


・・・愛してる。
心の底から君だけを愛してる。
君を失ったら、俺はきっと正気ではいられない。
だからきっと・・・こんなに怖くてたまらないんだろう。


*


いつも車を停めるのは、君が住むマンションのすぐ前のひと気のない細い路地。
ここから先はお姫様のお城。
俺はまだ、ここから先に立ち入ることを許されない。
だからせめて、停めた車の中でそっと君の体を抱き締め、額に小さなキスを落とす。
これが今の俺に許された限界。
今の俺が・・・できる限界。


「早く行って。雪がひどくなってきたから。風邪をひかないよう、あったかくして眠るんだよ。」
そういうと、君は少し口を尖らせて言う。
「いつまでも、子供扱いしないでください!もう、成人したオトナなんですよ。」
そんな表情(かお)も愛しくて。
ふっと気持ちをもっていかれ、そのままふらふらと唇を奪いそうになる。

だめだ。
今唇を奪えば、きっと止まらなくなる。

伸ばしかけた手をぐっと握りしめれば、逸る心を恐怖が宥める。
止まらない欲望をぶつけて、君を失いたくない。

だから、
「じゃあ、また。」
振り絞るように、声をかけた。

「気をつけて帰って下さいね。雪道は危ないから。」
あっさりと言い残し、傘を片手に君は車を出る。

吹き込んでくる雪風が車内を駆け回り、心の底までも冷やしていく。
さっきまで隣にあった君の温もりがあっという間に消えてしまう。
ただ、それだけのことがこんなにも辛く淋しい。

立ち去る君に目を向ければ、降る雪に霞み、次第に薄れていく真っ赤な傘が一輪の薔薇のように思えた。
手折ってはいけない一輪の薔薇のように。

こうして君の背中を見送るのは、もう何度目だろう。
そしてこれから、何度見送ることになるのだろう。

なによりも、誰よりも、強く強く抱き締めたい。
壊れるほど抱き締め、君のすべてを確かめたい。
そう願うこの気持ちを、いつまで俺は抑えられるだろう。
いつか・・・。
この不埒な欲望を解き放してしまったとき、果たして君はそれでも俺を受け入れてくれるのだろうか。
今のようにまっすぐな瞳で、俺を見続けてくれるのだろうか。


ぼんやりと眺めていた赤い傘が不意に大きく揺れた。
(・・・え?)
窓を開ける間も、ドアを開ける間もなく、勢いよく駆け戻ってきた君。

コツコツ
叩かれて慌てて窓を開ける。

「あの・・・。忘れ物です」
運転席を覗きこまれ
(忘れ物?)
首を傾げた次の瞬間、唇の端にひんやりと冷たい何かが触れた。

「・・・あ。」

降りしきる雪を前髪に受け止めながら、君は驚く俺に小さな声で囁いた。
「私も・・・卒業したいと思って。」

そう言うと君は、はにかんだ笑顔を残しさっと踵を返した。
離れた唇の温もりを追って、俺は慌ててエンジンを切る。

待って!

瞬く間にマンションへと駆け戻っていく君を追いかけ、車から急いで飛び降りたけれど。
そのときにはもう、もう玄関の自動ドアは閉まっていて。
君の背がエレベータのドアの向こうに吸い込まれようとしているのが見えた。

あのドアの向こうへは君の許可なく入れない。
多分君は・・・俺を入れてはくれないだろう。

~~~♪~♪♪~~

それでも追いかけようとした俺を引き止めるように、鳴り響いた曲にどきりとする。
それは君からのメールを知らせる特別の着信音。
慌てて車内に置きっぱなしにしていた携帯を取り上げた。

『いつまでも子供扱いは淋しいです。』

画面に浮かびあがった言葉。
何度も何度も、その文字を辿る。
何度も何度も、そこに込められた君の気持ちを探る。


ふと、去り際に君が落としていったもう一つの言葉が脳裏を駆け抜けていった。

「大人への階段は、敦賀さんと一緒に上りたいんです。」


携帯を握り締め、俺は目の前のマンションに向かって駆け出した。





Fin

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