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ホワイトレディ ~ひとり占めしたいのは?~ 後編

(京子・・・?)

出番を終え、スタジオ裏に戻った蓮の耳に、その名前が確かに響いた。
(京子って、たしかにそう聞こえたけど。まさか、な・・・。)

思いながらも、その名が叫ばれたときの切迫感溢れる声色が気になり、蓮はそちらへ目を向けた。
なにやら慌てた様子で人が集まっていくのが見える。

(何か起きたのか?)

気になって足を運んだ蓮は、驚きに目を瞠った。
スタジオの端に、数人のスタッフに囲まれるようにして、首から下が鶏姿のキョーコがぐったりと横になっていたのだ。

(最上さん!)

声にならない叫びが漏れる。

(うそ、だろ・・・。どうして君がこんなところに・・・。鶏君が、最上さん・・・だって?いや、それよりも・・・。)

白い濡れタオルを額に置かれ、じっと目を閉じて横たわるキョーコ。
その様子が気になる。

(いったい何が・・・起きた?)

ADの叫んだ言葉がはっと頭に蘇る。

『敦賀さんに渡したボトルに入っていたのが本当のジンだったみたいで』

(アレを一気飲みしたせいか!?)

カクテルをつくるとき立ち上った香りで、蓮は手にしたボトルの中身がホンモノであることに気付いた。
あれ?と思ったものの、番組の進行を止めることは難しい。
それに、飲むのは共演した篠本瞳だと聞いていた。
篠本はすでに成人しているし、それもかなりの酒豪。
だから、事前に話がついているのだろうと思ったのだ。

ホワイトレディは、ベースにジンを使っているから、口当たりのよさにもかかわらずアルコール度はかなり高い。

(しまった・・・。)

坊が飲んだと聞き、あれ?とは思ったけれど、まさか着ぐるみという結構ハードな仕事に十代の若い女の子を使っているだなんて思ってもみなかった。
ましてやそれが最上さんだなんて・・・。


呆然とする蓮の背を誰かがぽんと叩く。
社だった。

「蓮、とりあえずキョーコちゃんをお前の楽屋につれていけ。未成年が事故とはいえ酒を飲んだとなったら、いろいろ困ったことになりかねない。お前の楽屋なら誰もこないだろうから、そこで少し休ませ用。後から俺もすぐ追いかける。」

そう囁くと社は周囲のスタッフに声をかけた。

「このままでは未成年の彼女に酒を飲ませたのは蓮、という形になってしまいますし、事故とはいえ、事が明らかになるのは彼女だけでなく、番組にとっても我々にとってもプラスになりません。
ちょうど同じ事務所でもありますし、彼女は我々のほうで引き取ります。今日はこのまま連れて帰りますが、よろしいですね。それと・・・事情が事情なので、この件はくれぐれも内密にお願いできますか?」

すかさずディレクターが頭を下げる。
「いや、それはもうこちらとしてもぜひ内密にお願いできれば・・・本当に申し訳なく・・・。」
くどくどと言い訳じみた謝罪を続けようとするのを社はさっと制した。

「ですよね。では、我々の今日の収録はこれで終了ということで、みなさんもよろしくお願いします。」



その頃、てきぱきと仕切る社に場をまかせ、蓮ははじけるようにキョーコのもとへと駆け寄っていた。

真っ赤な顔をして、気を失ったように動かないキョーコ。
けれどその口から、すうすうと規則正しい息が吐かれているのを確認し、蓮は安堵のため息をもらした。

(酔いつぶれて、寝ちゃってるみたいな感じだな。)

ほっと息をつき、顔を上げる。

「どなたか、この着ぐるみをお願いできますか。」

傍にいたスタッフに声をかけるや、蓮はキョーコをそっと抱き上げ、器用に着ぐるみを脱がせた。
中から現れたのは、Tシャツと短パン姿のキョーコ。
脱がせた着ぐるみをスタッフに渡すと、蓮は周囲の目を気にすることもなく、その身体をふわりと抱き上げる。

そのとき、背後から社の声がした。

「蓮、とりあえず彼女をお前の楽屋で休ませてやってくれ。あそこなら、誰の目にも触れず休ませることができるから。俺は事務所への連絡と車の手配をしたらすぐにいく。悪いけど、頼むよ。」

わざと周囲に聞こえるように指示を出す社に振り返りざまに神妙に頷くと、蓮はキョーコを抱え、すたすたとスタジオを後にした。


*


パタン。

キョーコを抱きあげたまま、楽屋の扉を閉める。
腕の中ですやすやと眠るキョーコを見つめ、蓮は心の中でそっと話しかけた。


(さて、と。鶏君の件もあるし、君にいろいろ聞きたいことはあるけれど・・・。今の君に何を聞いても無駄だよね。とはいえこのまま放っておくわけにもいかないし、かといって酔っ払いを下宿先に送り届けるわけにもいかないしな。
・・・本当は一度、目を覚ましてくれるとありがたいんだけど。)

寝かせておいてもいいが、できれば水でも飲ませて少しでも早く酒を抜かせたい。
そんなことを考えていたら、ふとキョーコが飲んでしまったカクテルのことが頭をよぎった。

――ホワイトレディ。

(君は、女王様っていうより・・・お姫様、かな。)

キョーコの少女趣味を思い出し、思わずくすりと笑ってしまう。

(そのほうが、きっと君も喜ぶよね?大事な俺のお姫様。)

心の中で話しかけたのに、答えるように、むにゃむにゃと唇を揺らすキョーコ。
その唇が誘うように艶めくのをみて、蓮の胸がどきんと跳ねる。

(そういえば・・・。眠り姫も白雪姫も目覚めたのは王子のキスがきっかけだっけ。)


ねえ、お姫様。
騎士は王子に昇格できるのかな?
俺は・・・、俺は君の王子さまにしてもらえるのかな?


そうしてふっと唇を近づけた・・・その瞬間、いきなりキョーコがぱちりと目を開けた。
慌てて顔を離す蓮。

「うわあ~、つるがしゃんだぁ~!」

ぽわんとした顔で、抱え込まれた腕の中からキョーコが蓮を見上げる。

「やあ、目が覚めた?」

ほんの少し残念そうな声。

「なんかぽよぽよして気持ちいいでしゅぅ~。まるで空に浮かんでるみたいでしゅね~。」

明らかにろれつの回っていないキョーコ。

(これはまだ相当・・・酔いが回ってるな。)
蓮は小さく苦笑いを浮かべた。

未成年で酒に慣れていないところにジンベースのカクテル。
それも一気に飲んだのだ。
ただでさえ、着ぐるみを着こんでいた状態では、熱がこもって酸欠状態になっていたとしてもおかしくない。
疲れもたまっていたとしたら、完全にノックアウトだろう。

(酔っ払いのお姫様・・・か。)
心の内でクスリと笑う。
(困ったお姫様だ。)

「たしかに宙に浮いているようなもんだからね。」

キョーコが不思議そうに頭を揺らすたび指先をすり抜ける髪の感触を確かめながら、蓮はやさしく答えた。
掛けられた言葉に、キョーコは少しぽかんとしていたけれど、すぐに自分が抱きあげられていることに気付いたらしい。
キョロキョロと辺りを見回し、
「ほんとだぁ~。つるがしゃん、力持ちでしゅね~。お姫様抱っこだ~!わ~い!」
はしゃいだ声をあげた。

「こらっ、そんなにばたばた暴れないっ。」
「は~い。」

子どもみたいに返事をしながら、キョーコはどこか焦点の合わないきょとんとした顔で蓮の顔を見ている。
はしゃいだ声をあげても、逃げ出そうとはしないのは、きっと酔っぱらっているせいだろう。
そんなキョーコが突然、には~と笑った。

「うふふ。そっかぁ~、わかった~!」
にこにこしながら、うんうんと頷いてみせる。

「ん?なにがわかったの?」
問いかけた蓮に、ふふんと得意げな顔を向けた。

「ふふふ~。これはきっと夢の中なんでしゅね~~。きっと・・・ちゅごうのいい夢なんでしゅ~。しょうじゃなければ、つるがしゃんがお姫様抱っこしてくれるわけないもの~。」

言いながら人差し指で蓮の頬をつんつんとつつく。

「うふふ~。夢ならいっかぁ~。」

「都合の・・・いい?」
キョーコが何気なく漏らした言葉に心が震える。

「夢なら、なんだってありなんでしゅ~。わたしがお姫さまになったっていいんでしゅよ~。キョーコ姫でしゅ~!」

頬を薄く紅色に染め、キョーコははしゃいだ口調でうれしそうに言った。

「俺からみたら、いつだって君はお姫様だけど。」
だからつい、そんなことを口にしてしまう。

「うふふふ~。そうでしゅよ。わたしはお姫しゃまなんでしゅ~。お姫しゃまはね~。いつだって、素敵な王子しゃまが迎えにくるんでしゅからね~。しょして、お姫様は王子しゃまをひとり占めできるんでしゅ~。」

ぐにゃりと緩んだ表情で、蓮の顔のあちこちに触れるキョーコ。

「だからね~。つるがしゃんをひとりじめでしゅ~~。このおでこも、このほっぺも、このたかーいお鼻も、み~んなひとりじめでしゅよ~!」

そうして突然据わった目つきになったかと思うと、キョーコは蓮の顔をじっとみつめた。
小さな手のひらが、蓮の頬にすっと伸びる。

「つるがしゃんは、わたしの王子しゃま、だから・・・」


(・・・え?)

キョーコの言葉が示す意味を、蓮は嫌というほど考える。
考えれば考えるほど、答えがひとつしか見つからなくて、ばくばくと心音が鳴り響いた。
かっと熱が頭にのぼり、くらくらしてくる。

(息が・・・止まりそうだ。)

勘違いしちゃいけない。
この子はいつだって、期待をさせておきながら、斜め上の論理で俺からあっさり逃げ出す子なんだから。

必死に自分を戒める蓮をよそに、キョーコは頬にあてていた手を離し、目の前の端正な顔をぺしぺしと叩きはじめた。
首をひねりながら何度も叩き、最後に鼻をぎゅっとつまんでみせる。

「夢なのに、なんだかすご~くホンモノみたいでしゅね~。」

きょとんと小首を傾げたキョーコに、蓮は微笑んだ。

「キョーコ姫、あなたのために参上いたしました。・・・なんなりとお申し付けを。」

「王子・・・しゃま?」

言われて花のように綻んだキョーコの瞳が、何かを思いついたように瞬く。

「ん~っと・・・そうでしゅね。頭をなでなでしてもらいたいでしゅね。」

精一杯姫らしく、つんと上を向き、リクエストするキョーコ。

「なでなで・・・?」

「なでなででしゅ。」

蓮の胸に体を預けたまま、無防備に頭を差し出すキョーコに、蓮は困ったような視線を向ける。
そんな視線などまったく気付かぬ様子で、キョーコはご機嫌で言葉を続けた。

「んっと、んっと・・・あと・・・・、あと、ぎゅうってしてもらいたいでしゅね。ぎゅうって。・・・きゃあー!////」

宣言したかと思うと、恥ずかしそうに両手で顔を隠してみせる。
そうして指の隙間から、そっと蓮の顔を仰ぐように見つめると、少し小さな声で言葉を続けた。

「つるがしゃんにぎゅうってね・・・されると・・・えへへ。すご~くしあわしぇな気持ちになれるんでしゅよ~。」


キョーコを抱き上げていなかったら、蓮は思い切り口許に手を当てていたことだろう。

(こ、この子はまったく・・・俺をどこまで追い詰めるんだ。)

ちょっと顔を寄せればすぐキスできそうな距離にある、真っ赤な頬と潤んだ瞳。
恥かしげな笑顔で上目遣いに見つめられれば、ふらふらと唇を奪いそうになり、蓮は必死に自分を食い止めた。
酔っぱらった彼女にそんなことをしたとばれれば、あとでどんなことになるか・・・想像に難くない。

(ウサギのように逃げ出して、きっとそのまま帰ってこない、だろう?)

理性と本能の狭間。
蓮は懸命にこらえ続ける。
無防備で無邪気で、どうしようもないほど傍若無人な小悪魔のお姫様を前にして。


「ほら、はやく~。くるしゅうない。わらわをぎゅっとしぇよ。」

(参ったな。抱き締める・・・のはまったくかまわないんだけど。そんなことをしたら、もう自分を止められそうにない・・・。)

けれど、そんな蓮の心の内などおかまいなしに、キョーコはその首に両手を回すと、あろうことか首元にその顔を自らぐいと埋めた。

「うわあ~、あったかくて、いい匂い!つるがしゃんの匂いだぁ~!つるがしぇらびーでしゅね~。」

(うわっ!あっ!)

硬直した蓮の戸惑いには、これっぽっちも気付かぬまま、キョーコは無邪気に顔を首筋に何度も擦り付ける。

「大好きでしゅ。」

そして、小さな声でそう呟いたかと思うと・・・再びことんと眠りについた。


「・・・え?」

耳元ですうすうと規則正しく響き出す寝息。

「最上さ・・・ん・・・。まさか、また・・・寝ちゃった・・・の?」

あとには、真っ赤な顔と激しく高鳴る鼓動、そして愛する彼女の温もりでいっぱいになったまま、不条理に取り残された男が一人。

「参ったな・・・。」

キョーコの身体を抱いたまま、蓮は困ったように天井を仰ぎ見る。

「ひとり占めしたいって、思っているのは俺だけだと思っていたのに。」

視線を下ろせば、誰よりも愛しい寝顔が間近に見える。


「ねえ、最上さん。俺・・・君に確かめたいことも、言いたいことも、ずいぶんたくさん出来ちゃったよ。とてもじゃないけど、今日はこのまま君を素直に家には帰せそうにない。
この後のことは、社さんにどうにかしてもらうから。だからやっぱり、今すぐうちへいこう。」

すやすやと眠るキョーコの瞼にそっと唇を寄せると、蓮はもう一度強くキョーコを抱き締めた。


「・・・目が覚めたら覚悟してね?俺だけのお姫様。」





Fin

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