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ホワイトレディ ~ひとり占めしたいのは?~ 前編

※『蓮キョ☆メロキュン推進!ラブコラボ研究所』参加作品です。


「え?敦賀さんがゲスト、ですか?」

『やっぱ気まぐれロック』の特番について、ディレクターから話を聞かされたキョーコは、戸惑ったように言った。
「そう。大物ゲストだから、坊らしさは大事にしてほしいけど、くれぐれも失礼のないようにね。ほら、不破尚がきたときみたいなことはぜったいに起こさないように、頼むよ。」

ディレクターは早口に答える。

「・・・ああ、でもたしか君、同じ事務所で彼とはわりと親しかったんだっけ?なら、安心だな。」

「あ、あの、親しいっていっても・・・。っと、いえ、それよりまたどうして敦賀さんがこの番組に?」

「ああ、ほら、うちの番組のスポンサーの飲料メーカー。あそこがスポンサーになった映画があるじゃないか。昔あったトム・クルーズの『カクテル』みたいなやつ。あれの番宣と、ホワイトデーの商品売り込みを兼ねて、特別企画をしたいって話でさ。」

それは、沖縄を舞台にした南国リゾートラブコメディ。
蓮が演じているのは、ひょんなことから会社を追われ、自暴自棄になった一流企業のエリート“前嶋章弘”。なげやりな気持ちを持て余し、一時の休息を求めて訪れた南の島で、前嶋は1人のバーテンダーと知り合う。彼のフレアバーテンディング技に魅せられ、テクニックを学ぶうちに、気がつくと2人はタンデムフレアのコンビを組むようになっていた。やがて、すっかり人気になった2人の前に1人の女性が現れたことから、男たちの間に恋のさや当てが始まる・・・。

蓮にしては珍しくナンパな役。そして、この映画のために学んだという、ボトルやシェイカーをジャグリングしながらカクテルを作るフレアバーテンディングの華麗なテクニックが話題となり、何かと注目されている映画だ。
この映画がきっかけで、敦賀ファンを中心に女性たちの間にちょっとしたカクテルブームも起き、ホワイトデーにかけて「彼女にオリジナルカクテルをふるまおう」などという企画がテレビや雑誌で組まれたりもしている。


「というわけで、特番のゲストとして、主役を演じた敦賀君に白羽の矢が立ったというわけ。
今回は、最後に“好きな子にカクテルを作るとしたら?”ってことで、あのボトルやシェイカーをぽんぽん投げる技を実際に演じてもらう予定なんだ。なんてったって、テレビ映えしてかっこいいからね。あの技も。もちろん敦賀君も。」

(た、たしかにかっこいいかもしれないけど。でも・・・。)

まさか敦賀さんがゲストでくるなんて・・・。
私が坊だって、何かの拍子にもしばれたらどうしよう。

頭を抱えるキョーコの耳に、ディレクターの声が追い打ちをかける。

「あ、そのコーナーのアシスタントというか、にぎやかしとして坊にもからんでもらう予定だから。そのつもりでよろしくね。」


*


「それではこれから敦賀さんに、ホワイトデーらしく、たった一人の大好きな女性のために作るなら、というテーマでカクテルを作っていただきます!もちろん、噂のフレアバーテンディングの技もがっつり披露していただくので、みなさんCM後をお楽しみに!」

光のMCにあわせ蓮がソファでにこやかに微笑むと、観客席から黄色い歓声と拍手が鳴り響いた。


「はい、ここでいったん休憩です。セットの入れ替えが終了次第、敦賀さんのアクション入りま~す。セットのスタンバイ宜しくお願いしま~す!」

ADの声がかかり、スタジオからすぅーっと緊張感が抜ける。
ばたばたと番組セットの入れ替えが始まり、辺りが一気に騒然としはじめた。

その中を、プキュプキュと足音を響かせながら進み、キョーコは回転セットの内側に設えられた、バーカウンター風のセットへと移動した。
今のところ、蓮に自分の正体が気付かれた様子はない。

(あとちょっとで出番はおしまい。なんとか無事に終わりますように・・・。)

祈るような気持ちで、カウンターの端に腰かける。


「さあ、みなさんおまたせしました!いよいよ本日のメインイベントですよ~。それでは敦賀さん、セット回転のかけ声をお願いします!」
「わかりました。」
にっこりと微笑み、ソファから、蓮がすっと立ち上がった。

「セット回転、お願いします!」
蓮の掛け声とともにセットがゆっくりと回転していく。

と、同時に蓮は着ていたスーツの上着をぱさりと脱ぎ捨てた。
ネクタイの根元に指先を捩じ込み、ぐいっと緩め外すと、軽く首を振り、流れるような動作で首元の第一ボタンを外す。
そのまま、シャツの袖を無造作にまくり上げれば、逞しく日焼けした腕がシャツからのぞき、男性をもハッとさせるほどの色艶が零れ出た。
その様子に、観客席のあちこちから、ほおぅーっとため息が聞こえてくる。

「うはあ・・・。敦賀さん、かっこよすぎだよー。」

光の口から、思わずという調子で言葉が飛び出した。
ほかのふたりも、照れたような顔つきで、うんうんと頷いている。

「ありがとうございます。同性から褒められるのは、何だか面映ゆいですね。」

穏やかにそう返すと、蓮は新たに現れたセットにすたすたと歩み寄った。
そこに坊がいるのをみつけ、一瞬「おや?」という表情をしてみせる。
けれどすぐにその表情は姿を消し、軽い笑顔で頷くと、カウンターに置かれていた黒のタブリエを手に取って、さっと腰に巻き付けた。

(ほんとに、何を着ても、何をしても、いちいちかっこいいんだもの・・・。反則だわ。)

蓮の表情の変化に気づくことなく、スタンバイしたセットの隅から、キョーコはぼんやりと考えていた。

(こんな人が存在するなんて、神様ってほんとに不公平よね。)

蓮の一挙一動から目を離せない。
まるでそこだけ、スポットライトが当たったかのように、輝いて見える。
ラブミー部室で楽しく会話を交わしたり、自宅に行って食事を作らせてもらったりするときとはまた全然違う、スターの顔がそこにあった。

(ときどきこうやって、本当は私なんかにはぜったい手の届かない人なんだって、無理やり自覚させられるんだもん・・・。)

思った途端、氷に触れたかのように、体の芯を震えが走った。
と同時に、なんだか急に視界が滲みぼやけたような気がして、キョーコは着ぐるみの中で、ぱちぱちと何度も目を瞬かせた。


*


「やあ、坊。今日は現れないと思ったら、こんなところで登場かい。」

光が坊に声をかける。
その言葉をうけて、
『主役は遅れて登場するものさ。』
キョーコは、そう書かれたボードを掲げてみせた。

「何言ってるんや。この番組の主役は坊やない。俺たちや!」
「いやいや、今日は敦賀さんだろっ!」
「あああ・・・そうやった・・・。たしかに今日は完敗や・・・。」
「今日は?じゃあ、いつもは勝ってるっちゅうのかー!?」
すかさず雄生と慎一の軽快なやりとりが入り、客席からくすくすと笑いが起きる。
キョーコは2人に近づくと、その肩をぽんぽんと叩き、ボードを見せる。

『夫婦漫才はそれくらいにして、そろそろ敦賀くんの華麗な技とやらをみせてもらおうじゃないか。』
それをうけて、光が頭をかきながら蓮に言う。
「うちの坊が偉そうに、すみません。えっと、それではさっそく噂のフレアバーテンディングテクニックをみせていただけますか?」

『がんばってくれたまえ。敦賀君。』
そんなボードを掲げ、片手をあげてみせた。

(中にいるのが私だって、ばれるようなことがおきませんように。)
心の片隅でそう思いながら。


「それでは、鶏くんの期待に応えられるようがんばりますね。といっても、映画のために身に付けた付け焼刃のような技なので、失敗しても笑って許して下さい。」

そんなことを言いながら、バーカウンターの内側に歩みを進める。
その場所におさまったとたん、蓮の雰囲気がさっと変わり、少しナンパな“元エリートのバーテンダー・前嶋章弘”が現れた。
知的な顔つきに、らしからぬ悪戯っぽい笑顔を浮かべ、小さくウインクしながら微笑む一人のバーテンダー。

「さて、お客様。ご注文は?」
カメラに向かい、ウインクをしながらひとこと。

「大好きな女性のために、あなたが作りたい一杯を!」
光の声が響いた。


蓮がスタンバイすると、ポップなメロディが流れ始めた。
客席から自然に手拍子が起き、リズミカルなその音に合わせ、蓮がシェイカーとボトルを優雅な仕草で手に取る。
カメラに向かい軽く一礼し、華やかな笑みを向けた次の瞬間、それは始まった。

まるで空のペットボトルかなにかのように、ふわりと軽やかに舞い上がるボトル。
回転しながら落ちてきたそれを、シェイカーのかたわれで、スポンと見事にキャッチする。
それだけで大きな歓声が湧き上がった。

そのまま勢いよく、ふたつのシェイカーとボトルでのジャグリングが始まった。
目にも止まらぬ早さでくるくると回りながらボトルが宙を舞う。
右から左へ、上から下へ。
時には背中の後ろを通り、軽業師のように飛び回り続けるソレ。
しっかりお酒の入ったボトルは、それだけ持ってもかなり重いだろうに、その重さをちっとも感じさせない。
ダンスのような軽やかな動きで次々とパフォーマンスしてみせる。
合間合間には、ウインクをしたり、ポーズを決めてみたり、舌をぺろりと出して見せたり。
それまでの、“敦賀蓮”とはまったく違う雰囲気の“前嶋章弘”の姿に、客席の興奮がどんどん高まっていく。

キョーコもその動きに釘づけになっていた。
(やっぱり、敦賀さんってすごい・・・。演技だけじゃなくて、本当になんでも出来ちゃうんだ・・・。)


やがて出来あがったカクテルを、グラスになみなみと注ぎ入れ、少しおどけた様子で優雅にお辞儀してみせると、蓮はようやく口を開いた。

「完成です。ホワイトレディ。」

「ホワイトレディ?」

「イギリスのヴィクトリア女王をイメージして考案されたというカクテルです。ヴィクトリア女王はウェディングドレスに白を用いた最初の人でもあるんですが、そのイメージから“白い貴婦人”という意味を持たせたこのカクテルが誕生したそうなんです。」

「へえ~。女王さまのカクテル、ですか?」

「ええ。愛する人は、自分にとって唯一絶対のかけがえのない存在ですからね。もしそんな女性ができたら、俺は彼女を守る、たった一人の騎士でありつづけたいって思うんです。その気持ちをこめて、このカクテルを選んでみました。」

「おおおお!さすが、敦賀さん、理由もいちいちかっこよすぎる!それではそのカクテルは、やはりこの方に召し上がっていただきましょう。本日のシークレットゲスト、今回の映画でヒロインを演じられた、篠本瞳さんです!」

ふわりと揺れる長い黒髪。
バランスのとれた女性らしい肢体。
清潔感あふれる色香と、漂う品のよさ。

(敦賀さんにお似合いなのは、こういう人よね・・・。)

シークレットゲストのエスコートをしながら、キョーコは思う。

(敦賀さんが守りたいと思うたったひとりの女性、か・・・。)

席についたあともまだ、キョーコの頭はそんな思いに支配されていた。
ふと、自分と同じ“キョーコちゃん”の名前をもつ女性のシルエットが浮かぶ。

(きっと、彼女もこんな人・・・。)

そのシルエットの足元に、うやうやしく膝をつく蓮の姿が現れた。

(・・・イヤ。)

怖いくらいドロドロした感情が込み上げ、いやな鼓動が脈打つのを感じ、キョーコは思わず目を背けた。
と、その先にADからのカンペが映る。

【坊、カクテルを横取りし、一気に飲んでひとこと】

最初に作られるグラスの中身は、ノンアルコールの材料になっていると聞いている。
はっとして慌てて手を伸ばし、キョーコはテーブルの上に置かれたグラスの中身を一気に飲み干した。


「あー、坊ったらだめじゃないか。せっかく敦賀さんが作ってくれたカクテルを勝手に飲んじゃ!」

『最高に美味しいよ!さすが敦賀くん。バーテンダーとしても一流だ!』

「まったく、何を偉そうに言ってるんだか・・・。敦賀さん、うちの坊が勝手をしまして、ホントに済みません。申し訳ありませんが、もう一度、篠本さんのためにぜひ華麗なフレアバーテンディングの技をみせていただけますか?」

「ええ。もちろん。鶏くん、今度したらお仕置き、だよ。」

笑顔を浮かべ、冗談めかしてそういうと、蓮は再びボトルを手に取った。

右へ左へくるくると回転するシェイカー。
上下に飛び跳ねるボトル。

何度繰り返しても、安定感のあるそのテクニックは、映画のためにほんの付け焼刃で身に付けたものにはとても見えない。
あまりにも華麗すぎて、目の前で飛び交うボトルの動きをついじっと目で追ってしまう。
そして・・・
キョーコは、次第に自分の視界がぐらぐらと歪み始めたのを感じた。

(あれ?わたし・・・どうし・・・たんだ・・・ろう?)

「もうっ、坊がいるとまた勝手に呑みかねないからね!飲兵衛なニワトリは、大人しく家に帰ってなさーい!」

次のコーナーの準備があるため、適当なところで光の言葉を合図に坊はここで退場する。
その予定だった。

(いけない。舞台裏に引っ込むまでは、しっかりしなく・・・ちゃ。)

ふらふらと揺れる足取りをなんとか保ち、手を振りながらキョーコは舞台袖に引っ込んだ。
・・・途端、その場にへなへなと倒れ込んでしまう。


座り込んだまま動かない坊の異変に、たちまち周囲から人が集まってくる。

「どうしたの?」
「なにかあった?」
「大丈夫?」

口ぐちにかかる声に、必死の思いで返事した。

「だ、だいじょうぶれす・・・なんかめまいがしらみらいれ・・・」

『大丈夫です。なんだか眩暈がしたみたいで・・・』そう喋っているつもりが、なぜかろれつが回らない。

ぐらぐらと定まらない視界。
チカチカと点滅するようにちらつく灯り。

頭がカーッと熱くなり、朦朧としてくる意識に、キョーコは焦った。

(もしかして熱中症?)

季節柄、着ぐるみの中もそれほど暑いわけではないが、スタジオライトの下に何時間もいたのだから、もしかしたら気がつかないうちに体力を消耗していたのかもしれない。

どうすることもできない勢いで、意識が遠のいていく。
ふわふわと雲の上を歩くような感覚に襲われながら、キョーコはゆっくりと目を瞑った。

「す、すみません!俺のミスで、敦賀さんに渡したボトルに入っていたのが本当のジンだったみたいで、京子さん、それを一気飲みしちゃったんです。」

焦ったようなADの言葉がその場に響くのをぼんやりと耳にしながら・・・。






(後編に続く)

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