スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

アマレット・フィズ ~振り向いてほしい~

※『蓮キョ☆メロキュン推進!ラブコラボ研究所』参加作品です。


「しかし、驚いたよ。」
自宅のカウンターキッチンで、カウンター越しに立つキョーコを見つめながら、蓮は言った。

「最上さんにもこんな役が回ってくるようになったんだね。バーテンドレス、か。たしか女性のバーテンダーはそう呼ぶんだったよね?」

肩の下まで伸びた髪をひとつにまとめ、清潔感あふれる白シャツにロングの黒タブリエを着こなしたキョーコが、その言葉にふふっと笑い返す。

「よくご存じですね。そう、バーテンドレスです。私にそんな役がくるなんて、自分でもびっくりです。でも・・・私ももう、お酒が飲める年になったんですよ。」
だからおかしくはないんですよね、と言いたげなその顔。

「そうか・・・。20歳になったものね。」
「ええ、もうオ、ト、ナ、です。」

茶目っ気たっぷりにウインクするキョーコから、大人びた色香が漂って、ドキリと胸が高鳴る。
けれどそんな動揺などおくびにも出さず、蓮は言葉を続けた。

「そんなオトナの君、それもすっかり売れっ子女優になった君を、今だにこうして呼びつけて、そのうえ食事を作ってもらってるなんて、ばれたら君の熱烈なファンに袋叩きに遭いそうだな。」

(・・・そう、ただのファンだけじゃない。あの憎むべき馬の骨どもも。)

思い当たる顔ぶれが次々と頭に浮かび、蓮は思わず眉をひそめた。

「とんでもない。私にファンなんて、そんなにいませんよ。それよりきっと、星の数ほどいる敦賀さんのファンに、私のほうが恨まれちゃいます。」

困ったように口を挟んだキョーコに、蓮は急いでしかめつらを隠し、笑みを向けた。

「それにしても、相変わらず君の料理は最高だね。この味にすっかり慣らされてしまったから、俺の舌はそこいらの料理を受け付けやしない。ホントは毎日、君の料理を食べさせてもらいたいくらいだよ。」

さりげなく漏らした本音も、キョーコはくすりと聞き流す。

「また、そんなことおっしゃって。褒めていただいてももうお食事はおしまいです。
でも・・・、こうしてまた敦賀さんのお食事を作らせて頂けて、ほんとに光栄です。昔みたいにちょくちょくお邪魔する時間はとれませんけど、私なんかの料理でご満足いただけるなら、いつでもよびつけてくださいね。私、敦賀さんの一番弟子を自認してるんですから。いつだって、一目散に駆けつけちゃいます。」

嬉しく思う反面、何気なくキョーコが口にした言葉に、つい苛立ちも湧く。

「一番弟子・・・ね。」

「あ、ご不満ですか?やっぱり私じゃ、まだまだ弟子の域にも達してないかしら・・・。」

しょぼんとしてみせるキョーコに、蓮は慌てて手を振った。

「いや、そうじゃない。そうじゃないよ。そういう意味じゃないんだ。・・・それより、その格好、よく似合ってるね。すごくカッコいい。」

その言葉に、ぱっと顔を上げると、キョーコは花のように微笑んだ。

「そうですか?敦賀さんにそうおっしゃっていただけるなんて、嬉しいです。」
そうして小首を傾げ、ぺろりと舌を出す。

「まだ恰好だけなんですけどね。」

出会ったころの愛らしい姿から僅か数年で、すっかり大人の落ち着きを備えた美しい女性に成長したキョーコ。
その彼女が見せる少女じみた仕草とのギャップに、目も心も釘づけになり、蓮は溢れる想いを噛み締めながら、愛おしげに目を細めた。

「そんなことないだろう?君のことだ。話がきたときから相当練習しただろうしね。
・・・しかし、ホワイトデイのお返しは何がいい?と尋ねて、まさか“自分の作ったカクテルを飲んでほしい”といわれるなんて思ってもみなかったよ。」

カウンターに軽く肘をつき、蓮はキョーコの顔をまぶしそうに見上げた。

「これでも一応いろいろ考えてたんだよ。アルコールも解禁されたことだし、今年はお酒のレッスンも兼ねて、ちょっと大人なバーにでもお姫様をお連れしようかな、なんてね。まさか、君にもてなされることになるとは、予想外だったな。」

「なんだか実験台みたいになってしまってごめんなさい。でも私、身近にお酒に詳しい、舌の肥えた男性なんて、敦賀さん以外に思い浮かばなくて。」

キョーコの言葉が嬉しくて、蓮の頬が大きく緩んだ。
久し振りに間近にみた、神々しいその笑顔に、キョーコの胸がきゅんと痛む。

「いや、嬉しいよ。真っ先に思い浮かべてくれたのが俺で。それに・・・いつだってどんなことだって、君の助けになるなら大歓迎だ。なにより、こうして二人で過ごせるのは俺にとっては最高に幸せなひとときだからね。」

「ふふっ、相変わらずお上手ですね。」

痛む胸に目を瞑り、かけられた言葉をさらりとかわしながら、キョーコは静かに目を伏せる。

時折ちらつく蓮からの好意。
彼に恋したと自覚したときから、こんな風に不意に示される好意の欠片に気付くたび苦しくなる。

何度も勘違いだと首を振った。
勘違いして、調子にのって、その気になったらバカをみる。
そう何度も自分を戒めた。
でもどんなに努力しても、キョーコの心に宿った感情は、蓮が見せる小さな好意にすぐ飛びついて、舞い上がる。

(いつまでたっても自立できない後輩への、やさしい思いやりに過ぎないのに・・・。)

微笑みかけられるたび、やさしく声をかけられるたび、ふとした拍子に体が触れるたび、そのたびに強さを増していく切ない想い。
互いに忙しさが増し、以前のように会えなくなればなるほど、会えたときの喜びと胸の高鳴りは、限りなく。
そんな時間を重ねるうちに降り積もった想いは、もう自分でもどうしようもないところまできていた。

(きっともう・・・限界。)

蓮に気付かれぬようさりげなく顔を背けると、キョーコは唇を噛みしめ、ポケットの中の小さなカードにそっと触れた。



「本気で言ってるんだけどな。」

視線を外したキョーコにかけられたのは、先ほどまでとは少し違う、トーンの落ちた声色。
独特の艶めいたその声に、キョーコは顔を上げられない。
今、蓮の顔を見ればこの想いがすぐばれてしまう。
そう思うと、視線を合わせられなかった。

「冗談ばっかり。」

俯いたまま、手元のシェイカーをくるりと回す。

「冗談、だと思う?」

すぐかぶせるように問いかけてくる艶やかな声。

「冗談以外の、なんですか?さ、はじめますよ。」

ようやく気持ちを立て直し、蓮の言葉をさらりと受け流すと、キョーコは腰にしめていた黒いタブリエの紐をきゅっと締め直した。
揺れ動く心もいっしょにきゅっと締め直す。

「あの・・・今日は、いくつかカクテルの材料をご用意しました。作れるものはまだ限られてますけど。メニューを用意したので、選んでいただけますか?」

言いながら、ポケットに入れていた小さな手作りのカードを差し出した。


「甘めのカクテルが多くてごめんなさい。敦賀さんには合わないとは思ったんですが、自分で味を確かめるとき、強いのはまだちょっと飲みにくくて・・・。」

申し訳なさそうな声を聞きながら、蓮は渡されたカードに目を通した。

(・・・え?)


●コンフェッション 
●コペンハーゲン
●スクリュードライバー
●XYZ
●アプリコット・フィズ
●ブルームーン


蓮の瞳が、カードの上を何度も、何度も往復する。

「あの・・・。」

黙ったままの蓮に、キョーコが震え声で小さく声をかけた。
その声に蓮がさっと顔を上げる。

「これが・・・メニュー?」

瞳の奥に煌めくのは、さきほどまでは見えなかった強い光。
その光に気付き、キョーコの視線が大きく揺れた。

「・・・はい。そ、それがなにか?」


カタリ。

微かな音を立ててカードが蓮の指先から落ちた。
次の瞬間、引かれかけたキョーコの袖口を、蓮の手がすっと捕らえる。

「ひとつ聞いてもいい?」

キョーコは凍りついたように動かない。
いや、動けなかった。

まさか、という想いにとらわれて。


だって、並べられたカクテルには本当はちゃんと意味があったから。

バーテンドレスという役をもらって、カクテルについて勉強したとき、花言葉のようにカクテル言葉というものがあるのを知った。
だから・・・、どうしたって口にできるはずのない想いをこっそりカクテルにのせた。
そうやって吐き出せば、ともすれば溢れ出てしまいそうになるこの気持ちも、少しはおさまるような気がして。


まさか・・・。
そんなこと。
敦賀さんが知っているはずがない。

やさしい敦賀さんのために用意した、さりげない拒絶を意味する、たった一つを除いて。



「さっき、お酒の準備はぜんぶしてきたって言ったよね。」

止まらない震えを僅かに触れた蓮の指先が感じとる。

「これは全部・・・君が今日作りたいと思ったメニュー?」

「・・・え?」

「つまり・・・、君が俺のために選んだカクテルって・・・そう考えてもいいのかな?」

「あ、あの・・・は、はい。」

蓮は掴んだ袖口を離さない。
離さないまま、じっとキョーコを見つめた。

「じゃあ、ブルームーン以外を全部。」

びくんという大きな震えが、蓮の手のひらにはっきりと伝わってきた。
その振動が、蓮にキョーコの心をつぶさに伝える。


「ブルームーンは必要ない。それ以外のカクテルを・・・君の気持ごと頂戴。」

言うなり蓮は、キョーコの腕をぐいと引き寄せた。
バランスを崩したキョーコの上半身がカウンター越しに蓮に倒れかかる。
同時にさっと立ち上がった蓮が、その肩を、頭をやさしく抱きとめた。
驚きに慌ててもがき、その腕から逃れようとするキョーコを、蓮はそのままギュッと抱き締める。

「逃げようとしても無駄だよ。ちゃんと君の口から真実を聞くまで、俺はこの腕を緩めない。
ねえ、最上さん。
勉強熱心で、それに相変わらずロマンチストな君のことだ。バーテンドレスの役をすると決まって、カクテルのことをいろいろ調べただろう?当然、カクテル言葉についても。」

その言葉に思わず上げたキョーコのはっとした表情が、蓮の言葉は正しいと明確に告げていた。

「ほかのカクテルが持つ意味も、そしてブルームーンの意味も、もちろんわかって用意したんだよね?」


コンフェッションは、『告白』。 
コペンハーゲンは、『秘密の愛』。
スクリュードライバーは、『貴方に心を奪われた』。
XYZは、『永遠に貴方のもの』。
アプリコット・フィズは、『振り向いて下さい』。


そして、ブルームーンがもつ隠れた意味は・・・『できない相談』。
一緒にいる相手がブルームーンをオーダーしたら、それは「貴方は対象外だからお断り」のサインだという。


「ブルームーンの隠れた意味は意外と有名だからね。それは俺が知っているだろうと踏んだんだろうけれど・・・。」

いやいやをするように左右に揺れるキョーコの頭を、蓮はやさしく何度も撫でた。

「残念。全部、知ってる。」

真っ赤に染まった耳元に、そっと唇を近づける。

「最上さん・・・。本当は今日、俺のほうから言うつもりだったんだ。同じように、カクテルに想いを寄せて、ね。まさか・・・君が同じことを考えてるなんて思ってもみなかった。」

揺れていた頭がぴくんと一度跳ね上がる。
そして、すぐに細い肩が小刻みに震えはじめた。

「ずっとはっきり言えずにいてごめん。はっきり口に出して、君から拒絶されるのが怖くて、それでずっと動けずにいたんだ。この気持ちを隠すつもりはなかったけれど、君が気付かないふりをしているのはよく分かっていたから。」

震えの止まらないキョーコの背をやさしく擦りながら、蓮は小さな頭にそっと口づけを落とす。
そして、空いていた手で、髪をまとめていたゴムをするりと外した。
さらさらと黒髪が、流れるように零れ落ち、蓮の鼻先を掠めていく。

とたんにキョーコの甘くやわらかな香りがふわりと舞い立ち、蓮はその開花直前のふくらんだ蕾を思わせるやさしげな香りに、ゆっくりと身を沈めた。


「ずっと前から、君が好きだ。もう何年も、何年も、君だけを見ていた。」

「う・・・そ。」

掠れた声が僅かに漏れた。

「嘘じゃない。君だって本当はわかってたんだろう?俺の気持ちを。」

「でもあれは、敦賀さんの冗談で・・・。」

「冗談じゃない。」

「きっと誰に対しても・・・。」

「君にしか言わない。」

「私をからかって・・・。」

「本気だ。」

「先輩が後輩に・・・。」

「君をただの後輩だなんて一度も思ったことはない。いつだって君は、俺にとって愛しくてたまらない、何よりも大切な、この世でたったひとりの人なんだ。」

一言、一言、噛み締めるように蓮は言う。

「でも・・・。」

「それ以上続けたら、無理やり黙らせるよ。」

「だって・・・んぐ。」

それでも何か言いかけた言葉を、重ねられた唇が塞いだ。




カラン。

溶けかけた氷が、ミキシンググラスの中で乾いた音を立てる。



「好きなんだ。どうしようもなく。」

ようやく離れた唇が吐息のような言葉を漏らす。
同時にキョーコの頭が、蓮の厚い胸に再びぐいと押しつけられた。
その耳に信じられないほど、早く脈打つ心音が響いてくる。

「敦賀・・・さん・・・。」

「ブルームーンはいらない。いいかい?君にもぜったい・・・飲ませない。」

鋭い口調でそれだけ言うと、蓮は思い出したように軽やかな声で言った。

「ディサローノ・アマレットを買ってたんだ。」

ディサローノ・アマレットは『愛のリキュール』といわれるお酒。

「それで、アマレット・フィズを作ってもらうつもりだった。」

蓮の細く骨ばった指が、胸元に埋まる髪をひと房掬い上げ、くるくると愛おしげに弄ぶ。

「まさか先を越されるとはね。しかも、こんな形で。」

テーブルの上のカードに目を遣りながら呟くと、蓮は再びその唇を目の前で震える柔らかな髪に埋めた。

「君は本当に・・・。」



ゆっくりと溶けていく氷が、時の流れを指し示す。
静まりかえった室内で、今響くのは2つの鼓動と吐息だけ。
それが重なって、どちらのものかが分からなくなるくらい寄り添って、溢れる想いを伝え合い・・・。

そうして、ようやく互いの心がひとつになったとき――。



2人はもう一度唇を合わせた。

・・・確かめ合うように、そっと。






Fin


*** おまけ ***


「さっき君は自分はもうオトナだって言ってたよね。じゃあ、今夜はポートワインを飲んでみる?それとも・・・シェリーがいい?」

「敦賀さん、それ・・・意味わかっておっしゃってますよね。」

「ん?なにか言ったかな?」



※男性が女性にポートワインを勧めるのは、愛の告白。女性が受けたら「今夜はお任せするわ」の意味になります。また、女性が「シェリー酒を飲みたいわ」といえば、それは「今夜は帰りたくない」という意味。男性が「どうぞ」とおごると、「今夜は離さないぞ」と返したことになります。


スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。