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2500万円の価値

『イギリスのある専門家が、日常的な出来事や経験にどれくらいの金銭的価値があるのかを算出し、ランキングしたところ、“愛していると言われること”には、第二位にあたる約2500万円もの価値があるという結果がでました。たった一言「愛している」と言われただけで、人は約2500万円を手にしたのと同じ喜びを感じているというのです。』

(へえ・・・そうなんだ・・・。たしかに言われると・・・嬉しい、ケド。)
置いてあった雑誌を手に取ったキョーコは、たまたま目にしたその記事を読んで少し顔を赤らめた。

『あなたは、あなたの大切な人に愛情表現をしていますか?あなたのその一言には、大きな価値があります。相手を幸せな気分にしてあげられる”力”があるのです。』

(そういえば、私・・・。“愛してる”なんてちゃんと言ったことないかも。だって、いつだって・・・)
楽屋で1人、思いにふける。

(蓮さんが先にたくさんくれるから・・・。その言葉に、“私も”って答えるのがせいぜいなんだもの。)

いつでも、どんなときも、ちょっとした拍子に“愛している”と最上の笑顔とともに囁きかける蓮。
その顔がふっと浮かび、赤らんでいた頬がますますその色を濃くする。

嬉しいけど恥ずかしい。
恥ずかしいけど嬉しい。

(約2500万円の価値、か・・・。)

きゅっと小さく手を握る。

(やっぱりちゃんと・・・言うべき、なのかな。)

そう思っただけで、全身がカッと熱くなって。
キョーコはもじもじと身体を揺らした。


*


―――その夜のリビング。

「キョーコ、まだ寝ないの?」

読んでいた台本からふと目を上げ、蓮はすぐ横で古い映画のDVDを観ていたキョーコに言った。
画面は、ちょうどエンディングロールが流れはじめたところ。

「蓮さんは?」
小首を傾げ、キョーコが答える。

「ん~、この台本に最後まで目を通してからにする。キョーコは、明日早いんだろう?もうずいぶん遅いし、すぐに行くから先に休んでいて。」
やさしく微笑みながらそう言うと、蓮はキョーコの身体をそっと引き寄せ、その額と、それから唇に軽くキスをした。
ふわりと立ち上った蓮の香りと、ゆるやかな温もりが心地よくキョーコを満たす。

「は、い。じゃあ、お言葉に・・甘えて。・・・・・。」
そう言っておきながら、いつもと違いなぜかその場で躊躇うように動かないキョーコに、蓮は不思議そうな目を向けた。

「どうしたの?なにか言いたそうだけど。」
「えっと・・・あの・・・あの・・・。」
「仕事で何かあった?」

心配そうに重ねて問いかけてくる蓮に、ちょっと困った顔をして。
心なしか頬を赤らめながら。
何度も何度も瞬きを繰り返し。

キョーコはようやく口を開いた。

「あの、です・・・ね・・・・。」
「ん?」
やさしく瞳を覗き込まれ、キョーコの胸がキュンと高鳴る。
近づく吐息にぎゅっと目をつぶり、必死の思いで頭に浮かんだ文字を音に変えた。

「あ・・・、あ・・・アイシテ・・・マス!」
まるでロボットみたいにカチカチの言い方。
それでも精一杯言い切り、それからぐいっと押し付けるように唇を重ねると、キョーコは飛び退くように蓮から身体を離した。

「じゃあ、おやすみなさいっ!」

叫ぶように言いながらすぐ飛び出そうとした身体を・・・蓮が、ぱっと捕らえた。

驚いた顔をしてキョーコの顔をまじまじと見つめながら、捕らえた身体をすっぽりと抱きしめ、両腕に力を込める。
その腕から逃れようと、キョーコはじたばたもがいた。

「な、な、なんでもないですっ!ちょ、ちょっと言ってみただけですっ!!も、もう、寝ます!寝ますから、だから離してくださいっ!」

「・・・もう一回言って。」
暴れるキョーコの手が頭にぶつかっても、顔に当たっても、気にもせず、蓮はキョーコの口許に自分の耳を近づける。

「え?」
「もう一回。」

どう足掻いても逃れられない雰囲気を感じとり、キョーコは観念したように暴れるのをやめた。
思い切り顔を背け、必死の思いで同じ言葉を口にする。

「・・・×××・・・マス」
「聞こえない。」
「・・・×××・・・マス」
「聞こえない。」
「アイ・・・アイヒテマフッ!」

ぷっ!

勢い余ってもつれた言葉に、しまったという顔をして視線を戻したキョーコがみたのは、それはそれは幸せ
そうに、そして心から可笑しそうにくすくすと笑う蓮。

「キョーコは、噛み方まで可愛いな。」

(も、も、もう―っ!)

「わ、笑うなんてひどいです!もう、もう、もう言いません!もう一回って言われたって、もうぜったい言いませんからっ」
叫ぶキョーコに蓮は困ったように眉をハの字に下げた。

「ごめん、ごめん。悪かったよ。反省する。だから、ね。もう一回。」
「いやですっ!」
「お願いだから。」
「いやですったら、いやです!」

ぷいと口をとがらせて、そっぽを向くキョーコを蓮が困ったように覗き込み、そして少し悲しそうに見つめる。
キョーコが弱いはずのその表情。
「ね。お願い。」

けれど、キョーコの機嫌は直らない。
もっとも今蓮の目の前にあるその耳先は、ゆでダコのように赤く染まったままだったけれど。

「し、知らないっ。もう、寝るんですっ。」
蓮の身体を無理やり押しのけると、キョーコは困り切って緩んだ腕の中からするりと抜け出した。

「・・・・・・・・キョーコ・・・。」

縋るような声を振り払い、すたすたと扉へ向かう。
そのあとを、蓮は慌てて追った。


「ま、待って。お願い、待って!ごめん。ごめんったらごめん。」
「今さら謝ったって許してあげませんっ!」
「ごめん。本当に悪かった。この通り、謝る。・・・だから・・・」
「だから?」
「・・・お願い。もう一回、聞かせて?」

「・・・・・・・・・おやすみなさい。」

にっこりと、丁寧なお辞儀をしてみせたかと思うと、キョーコは蓮の目の前でぱたんと寝室の扉を閉めた。


*


―――5分後。

広げていた台本を慌てて片づけて、支度を終えた蓮が寝室に行くと、そこはもう真っ暗。
しかたなく、そうっとそうっとベッドにもぐりこむ。
後からベッドに入るとき、いつも隣から聞こえてくる、すうすうという穏やかな寝息は今は聞こえない。
蓮はそっとキョーコに手を伸ばし、僅かにその髪に触れた。

「ねえ・・・もう言ってくれないの?」
けれども、キョーコは身動ぎひとつしなかった。
「ね?キョーコ・・・起きてるんでしょ?」

(もうっ!清水の舞台から飛び降りる気持ちで言ったのに、蓮さんったら思いっきり吹き出すんだもの。ひどいわ!)

がんとして動かぬキョーコの様子に、やがてあきらめたように蓮の動きも止まった。


―――そして、さらに10分。

キョーコの背中をツンツンと人差し指がつつく。

「ほんとにもう・・・言ってくれないの?」

(ふふ。まだ言ってる。)

その声があまりに淋しげで、しかもあまりに情けなく聞こえて。
音を立てずにくすりと笑い、キョーコはぱたりと寝返りを打った。

「愛してます。蓮さん。」

暗闇の中で、そうっと大好きな逞しい胸に寄り添い、小さく囁く。
とたんにぎゅっと抱きしめてくる両腕。
同時に心臓のばくんばくんという音が、キョーコの耳に大きく響いてきた。

「俺も・・・。愛してる。キョーコ」

安心したように、ふうーっと吐かれた息とともに、囁き返された言葉。

わかってます、心の中でそう答えながら、頬に伝わる温もりに黙って身を寄せ、キョーコはゆっくりと目を閉じた。
その髪を蓮の指先がやさしく梳きほぐす。

それはそれは愛しげに。

何度も。
何度も。

触れられた箇所から全身に染みわたっていく心地よさ。
キョーコがそれをじっと噛みしめているうちに、その動きはだんだんと鈍くなり、やがてぱたりと動かなくなった。


気が付けば、すうすうと届く規則正しい寝息。
そのことに細く微笑むと、キョーコはもう一度蓮の胸元で音に出さずに囁いた。


「ずっとずっと・・・。あなただけを、愛してます。」



やがて、真っ暗な室内に2つの穏やかな寝息が重なるようにひっそりと響きはじめた。





Fin

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