スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

Tira mi su ~伝えたい言葉のその意味は?~

※『蓮キョ☆メロキュン推進!ラブコラボ研究所』参加作品です。


「マスカルポーネチーズには、マルサラ酒をたっぷり入れた大人味のザバイオーネを加えて甘さはかなり控えめに。ビスコッティに染み込ませるエスプレッソは、苦みをしっかり利かせるようにして・・っと。ん、いい感じ。これなら、蓮さんも食べてくれる・・・わよね?」
淡いベイビーピンクに小さなローズが可愛く散った布地に、真っ白なレースのフリルがたっぷりついた女の子らしいエプロン。
この家で料理をするときは必ず着けるそのエプロンの腰リボンをきゅっと締め、キョーコはいつも通り手際よく作業を進めていく。

「あとは食べる直前にココアパウダーをかければ完成、と。」

出来上がったクリームと生地を、キャセロールに交互に重ね入れると、キョーコはふうっと小さく息をはいた。
ほんの僅かに眉を曇らせて。

「気付くかな・・・。気付かないよね・・・。」
音にならない程の小声で呟きながら、キョーコはキャセロールを冷蔵庫へしまった。


*


「あの・・・蓮さんが甘いモノ苦手なのは分かっているのですが、よかったらこのあとティラミス召し上がりませんか?」

食事の終わりに恐る恐ると言った様子で尋ねるキョーコを、蓮は不思議そうに見遣った。

「もちろん!甘いものは確かに苦手だけど、キョーコが作るものは別。もともとすごくおいしいうえに、ちゃんと俺のことを考えて、作ってくれてるでしょ?だから、格別。ティラミスなんて、ひさしぶりだから本当に楽しみだ。逆にこちらからお願いします。ぜひ食べさせてください。」

おどけたようにひょこんと頭を下げてみせると、蓮はキョーコをみつめにっこりと笑った。
テレビや映画でよく見せる艶めいた大人の微笑とはずいぶん違う、くしゃっと緩む満面の笑顔。
それは、蓮がキョーコと2人でいるときだけに見せる表情(かお)だ。

実際よりずっと年上に見られる彼の、年相応、いやむしろもっと幼い少年っぽさを残すその笑顔に、キョーコの胸はいつもきゅんとときめいてしまう。

「い、今、取ってきますね。ちょっと待っててください。」

ひと目でわかるくらい、ぱっと顔を赤らめてキッチンへと駆け出したキョーコの後姿を、蓮は口元を綻ばせながら見送った。
こうして、2人きりでゆっくりできる時間が、今の蓮には何よりも幸せなひとときだ。

(早く、誰にも遠慮することなくずっと2人で過ごせるようになるといいのに・・・。)

付き合い始めて数か月。
まだ公表もしていない2人の未来を、より明るくする算段を折に触れてはつい考えてしまう。

(いっそ今日にも籍を入れて、君を囲い込んでしまいたいよ。)

出会ったころは、何でもないどこにでもいそうな少女の姿をしていたのに、あっという間にそんな殻は捨て去り、日に日に輝きを増し、美しくなっていく彼女。
女優としての力もしっかりと蓄え、周囲の人間を男女問わず魅了し続けている今のキョーコを想い、蓮は微笑み、そして眉を顰めた。

(ちょっと目を離しただけで、どんどん嫌な虫どもが沸いてくるんだから、まいるよね。)


*


「あの・・・ですね。今日はどうしてもこれを蓮さんと食べたかったんです。」

そう言いながらキョーコが差し出したのは、きれいに皿に盛りつけたティラミスと薫り高いいつものコーヒー。
「これは・・・美味しそうだな。ありがとう。さっそくいただくね。」
さりげなくキョーコを自分の隣に座らせると、蓮はさっそくフォークを手にひと口分すくって、ぱくりと食べた。

ふわりと鼻を抜けるマルサラ酒の芳醇な香り。
舌の上でほろんと溶けていく、きめ細かく滑らかなチーズクリーム。
ビスコッティに染み込んだ、苦みの利いたエスプレッソとの味のバランスも抜群にいい。

(うん、いける。)

蓮向きに甘さをぐっと控え、お酒をしっかり利かせたその味わいに、思わずほおぅーと息が零れる。
するとそれをため息と勘違いしたのか、キョーコが慌てたように口を開いた。

「あ、あのっ、お口に合わなかったですか?甘さはできるだけ控えめにしたつもりなんですけど。あ、それともエスプレッソの苦みが強すぎましたか?」

ゆっくりと首を振り、蓮はやさしく微笑みかける。
「ううん。あまりにも美味しすぎて、言葉を失ってた。」

ほっとしたように肩を下げ、頬を赤らめたキョーコを見ると、蓮は徐にフォークを置き、その腰をぐっと引き寄せた。
その引き寄せ方が少し強引で、勢い余りすとんと膝に倒れ込んだキョーコをそのままひっしと抱きかかえる。

「君も食べる?」
そういうと、左手でキョーコを抱え込んだまま、器用に右手でフォークを操り、ティラミスを掬い取ってみせた。
そのまま、スプーンをキョーコの口許に運ぶ。

「すっごく美味しいよ。」
「あ、あの、私が作ったので、味はわ、わかってますっ!」

真っ赤に染まった顔を左右に大きく振りながら、慌てて答えるキョーコの頬に、蓮はくすくすと笑いながら唇を寄せた。

「そうだったね。ほっぺたにココアパウダーがついてる。」
そう言って、ぷるんとふくらんだてっぺんを、ぺろりと舐める。

「ん、ティラミスとおんなじくらい、キョーコもおいしい。」

にこにこと微笑みながらそんなことを言ってのける蓮に、キョーコはぷしゅーと顔から湯気を吹いた。
くたんと力を失い、腕にもたれてきた小さな耳に、蓮はそっと囁きかける。

「ねえ、キョーコ。・・・何かあった?」



ふいに投げられたその言葉に、キョーコの身体がびくんと跳ねた。

「何かあったんでしょ?」

「・・・どうして、ですか?」
やさしく尋ねられ、キョーコは腕の中からゆっくりと顔をあげた。

「キョーコのことなら何でもお見通しだから。・・・と言いたいところだけど。」
つるんと輝く額から指を差し込み、蓮はそうっとやわらかな髪を梳く。
ゆっくりと、やさしく。
キョーコの気持ちもいっしょに解きほぐすように。

「たしかキョーコは簡単なイタリア語会話ができたなって思って。」

「え?」

「ティラミスって、お菓子の名前だけど、イタリア語ではたしか、Tira- mi-su、・・・私を元気づけて、って意味だったよね。」

はっとしたようにキョーコの黒目が大きく広がった。

「バレンタインが過ぎたばかりの、何でもないこんな日に、キョーコがわざわざデザートを作るなんておかしいなって思って。それにどうしても俺と食べたかったって言ってた。だから、ね。」

ぱちぱちと瞬きを繰り返し、小さく唇を開く。
けれどそこから言葉は漏れることなく、代わりに瞳に小さな滴が盛り上がった。
ふるふるとゆれるその粒を、蓮は黙ってそっと吸い取ってみせる。

「話して・・・ごらん?」



「あの・・・ですね。ほんとにたいしたことじゃないんです。ただ、昨日のドラマ撮影がなかなかうまくいかなくて・・・。」

うんうんとうなずきながら、蓮はしっかりと抱きしめたキョーコの身体をあやすようにゆらゆらと揺らす。
その動きに安らいだ表情を浮かべ、キョーコはぽつぽつと話しはじめた。

「それが・・・、あるシーンで、私がセリフを言うと、相手役の方が固まってしまって次のセリフが出てこないんです。2人きりのシーンなのに、リテイクがそれこそ何十回も続いて・・・。」

しょんぼりとした声。

「相手の方は、私のセリフの間が悪いっておっしゃって。監督は苛立つし、現場の雰囲気も最悪で、どうしたらいいかわからなくなってしまって・・・。」

私の演技力が足りないからみなさんにご迷惑を・・・とキョーコは次第に声を小さくしていった。
その頭に蓮がそっと手をあてる。

「それって・・・どんなシーン?」

なんとなくピンとくるものを感じ、蓮の瞳がキュラリと歪んだ。

「えっと・・・、私がその人に好きだって告白して、断られるシーンです。自分では精一杯、気持ちを表現したつもりだったんですけど・・・、やっぱり、私なんかがそういうセリフを言っても、ふざけてるみたいで相手の方はうまく役に入れないんでしょうか?」

ふぅーっとさりげなく蓮がため息をつく。

(やっぱり、だ・・・。)

「ためしにそのセリフ言ってみてくれる?」

「はい・・・。」

腕の中から上目遣いに蓮を見上げると、一度くっと目を閉じるキョーコ。
たぶん役に入っているのだろう。
次に目を開いたときにはそこには、キョーコとは少し雰囲気の異なる、乙女チックな初々しさを備え、目を潤ませた女性がいた。

「あ、あの、私・・・ずっと前から・・・あなたのことが好・・・」
ぎゅっと腕を掴まれて、縋るように言うそのセリフ、その表情。
心臓がドキリと音を立てる。

・・・ちゅっ

蓮は思わずセリフを言いかけているキョーコの唇にキスをしてしまった。
とたんに

「な、なにするんですか!まだセリフを言ってる途中なのに!」
「ごめん、ごめん。キョーコがあんまり可愛くて、つい。」
「つい、じゃありません!」

さっきまでのしょぼんとした様子はどこへやら。
ぷんぷん怒り始めるキョーコ。
けれど、すねたように口を尖らせるその顔があんまり可愛くて、

ちゅっ

もう一度キスしてしまう。

「ほら、やっぱり反省してない。」
「ごめん。でも、キョーコが可愛すぎるのがいけないんだよ。今度こそちゃんとするから。だから、ね。もう一度。」

小首を傾げ、のぞきこむようにしてキョーコが弱いおねだり顔をしてみる。
案の定、困ったように眉をハの字に下げると、
「しょうがないですね。もう一度、だけですよ!」
キョーコが折れた。

「ずっと前から・・・あなたのことが・・・好きだったんです」

(ああ、なるほど・・・ね。)

眉間に皺を寄せながら、蓮は思う。

そいつはきっと、キョーコの演技にすっかり呑まれ、告白に本気でときめいてしまったんだろう。
それで、断る言葉を口にできなくなってしまったくせに・・・自分のミスを当のキョーコのせいにした。

(まったく君は本当に・・・。)

相変わらずヘンな虫を引き寄せる。


「やっぱり・・・私の演技、ダメですか?」

思いを巡らせていた蓮の耳に、キョーコの不安そうな声が飛び込んでくる。

(いったい誰だ?今度会ったら・・・。)

ただじゃおかないと心の隅で決意すると、気持ちを切り替え蓮はゆっくりとキョーコの頭を撫でた。

「いや、キョーコの演技はよかったよ。切ない気持ちが手に取るようにわかって・・・思わず俺がキスしちゃうくらいにね。それは・・・たぶん相手の調子が悪かったんだな。」

「そう・・・でしょうか?」

「ああ。でなければ、キョーコの演技に飲まれてしまっただけ。まあ、誰でもうまくセリフが出てこないことはあるから。もしかしたらプライベートで何かあったのかもしれないしね。そういう切り替えがうまくできない役者は案外多いから。気にしなくていいよ。それに・・・ミスるとなかなか元に戻れないものだし。」

適当な理由をつけ安心させるように笑ってみせれば、つられてキョーコも可愛らしい笑みを見せる。

「それなら・・・いいんです。何だかひどく凹んでしまって。でも、それこそそんな気持ちを引きずってちゃ、次にいい演技ができないですよね。明日そのシーンの再撮影があるから、またがんばります。」

「そうだね。こういうのは気持ちの切り替えが大事だから。」

「はい。」

ふぅっと小さく息を吐き、はにかんだ笑顔をみせたキョーコを見て、蓮の心に改めて嫉妬の火が灯る。

「・・・まあ、でも、あんな顔であんなセリフを言う相手は、正直俺だけにしてほしいけどね。」

さりげなく言う蓮の言葉に、

「で、でも、そういう役だから・・・」

戸惑ったようにキョーコは言った。

「わかってる。わかってるけど・・・嫌なんだ。」

「蓮・・・さん。」

小首を何度も傾げ困った様子をみせるキョーコをじっと見つめていたかと思うと、ふいに蓮が甘えるように言った。

「ねえ、キョーコ。“Tira mi su”って言ってみて。」


「Tira mi su、ですか?」

「そう。疑問形じゃなく普通に。」

「Tira mi su」

「そう。もっとイタリア語風に。」

「Tira mi su」

「さっきのセリフみたいに甘えた声で。」

「Tira mi su」

まるで演技指導のように畳み掛けられ、つい言われるがままキョーコは続けてしまった。
すると・・・。


「Si、Amo~。(かしこまりました。俺の恋人さん)」

突然、キョーコにちゅっとキスをすると、蓮はそのまま華奢な身体をお姫様抱っこのスタイルで抱え上げた。
あわあわとする彼女を大切そうに抱きかかえ、蓮はそのまま寝室へと足を向ける。

「ちょ、ちょ、ちょっと何するんですか!ど、何処へ行くんですか!蓮さん!」

焦った声で手足をばたばたさせながら叫ぶキョーコ。
けれど、それを気にもせず、蓮はしれっと返す。

「どこって寝室?」

「なんでいきなり寝室にいくんですかー!?」

「ん?だって今、“Tira mi su.”って言ったでしょ?」

「言いましたけど、でも、どうして寝室に!?」

一度足を止め、その端正な顔をキョーコにぐっと近づけると、蓮はそれはそれは楽しそうに言った。



「だって、Tira mi suにはもう一つの意味があるから。」

「もう一つの・・・意味?」

キョーコが疑問を投げかけたとたん、急に現れる夜の帝王の顔。
そして耳元に唇を寄せ、色香に満ちた艶やかな声で囁きかける。

「そう。天にも昇る気持ちにさせてっていう意味。」



「もちろん、そういう・・・意味でね。」






Fin

スキビ☆ランキング ←参加してみました。よろしくお願いします。
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。