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Bouquet Toss 後編

「キョーコ。千織じゃないけど、あんたたちどうなってるの?」

控室を出たとたん、奏江はキョーコの腕を引っ張り、廊下の突き当たりの片隅に足を向けた。
「どうって・・・おつきあいしてるけど・・・。」
「そんなのわかってるわよ。そうじゃなくて、プロポーズの件。あんたこの間も、またプロポーズされてたでしょ?返事はどうしたの?」
「うん・・・。」

困った顔をして目を逸らすキョーコに、奏江は大きくため息をついてみせる。

「彼のこと、好きなんでしょ?」
「もちろんよ。」

奏江が投げた質問に、心底驚いた顔をして、キョーコは言葉を返した。
けれど奏江の顔は少し曇ったままだ。

「まさかまだ、自分じゃ釣り合わないとか思ってるわけじゃないわよね?」
「そういうわけじゃ・・・ないけど・・・。」

いまひとつ歯切れの悪い返事。
奏江は怪しむように目を細めると、畳み掛けるように続けた。

「そうよね。あんたも今じゃすっかり人気女優になって、こないだは日本アカデミー賞の助演女優賞まで獲ったものね。」
「だ、だって去年はモー子さん、映画に出てなかったから。出てたらきっと私じゃなくて・・・」
「ああ、謙遜とかいらないから。」

キョーコの話を、奏江はどうでもいいとばかりにばっさり斬る。

「それはいいのよ。だってあんたはたしかにすごくいい演技をしてたもの。賞だって獲って当然。そうじゃなくて、今はプロポーズを断り続ける理由は何なのかって話。」
「理由・・・。」
「そう。だって、今や何の問題もないでしょ?あんたたち。」
「問題、はないけど・・・。」

たしかに今やキョーコも若手とはいえ大女優の一角を担う存在。
蓮と並んでも遜色はない。
そして、2人がそれぞれ抱えていた心の闇も、流れていく時間の中ですっかり過去のものとなっていた。

「もしかしてあんた、ただ素直になれなくなってるだけなんじゃないの?」

とくんっと心臓が跳ねる。
その表情をみて、奏江は納得したように頷いた。

「やっぱり。そうなのね。大方そんなことだろうと思ったわ。ほんとは心の中ではもうOKしてて、腕の中に飛び込んでいきたい気持ちのくせに、これまであまりにも断わりすぎたから、今さらイエスって言えなくなったんでしょ?」

ずばずばとしゃべり息をつき、あんた、本当にばかよね。と奏江はため息とともに呟いた。

「え?その・・そんな・・・」
「違うの?」
「違う・・・わけじゃ・・・ないけど・・・。」

わたわたと落ち着かない様子で視線を揺らすキョーコに、奏江ははあーっと大きく息をつく。

「あのね。そうやって、あんたがいつまでもあの人を焦らしてると、正直周りが迷惑なの。」
「じ、焦らしてるってわけじゃ・・・。」
「じゃあ、なによ。人の結婚式にこんな話をするのもなんだけど・・・。最近忙しくてお互いちっとも時間がとれないから、この際はっきり言わせてもらうわよ。」

言うなり、奏江は両手を腰にあて仁王立ちしてみせた。
ベージュサテンの地に、ビーズを散りばめた花模様の黒レースを組み合わせたロングドレスを着た奏江。
大人びたその姿で、そんな仕草をしてみせると、もともと持っている迫力がさらにぐんと増して見える。

「あんた、今私が敦賀さんと大河ドラマで共演してるのは知ってるわよね。」

もちろん知っている。1年がかりのそのドラマで、蓮は主役、奏江はヒロインを演じているのだ。
奏江にとっては、さらに大きなステップアップのチャンスであり、彼女が今、その役に全力を賭けているのをキョーコは以前聞かされていた。

「あのね。あんたがあの人からのプロポーズを断るたび、社さんが真っ青な顔で私のところに来て愚痴るのよ。まるで真っ暗な井戸に突き落とされて、その中で仕事してるみたいだって。空気が闇すぎて、胃が痛くなってしかたないって。」

奏江の眉間に軽くシワが寄る。

「そりゃね。俳優様本人はいたって完璧よ。演技にも影響なんてまったく感じさせない。そこはさすがだわ。でもね・・・、休憩に入った途端、ちょっとした拍子に、さりげなく隣でため息をつくのよ。しかも“君はいいよな・・・。彼女から手放しに愛されていて。”とか、ばかみたいに焼きもちめいたことをぶつくさつぶやきながら。
まったく、大の男が2人揃っていったいなにしてるんだって説教したくなるわよ。正直言って、大・迷・惑。」

再びため息をつく奏江。

「立ち直ったら立ち直ったで、今度はあんたの周りにたかる面倒な羽虫を退治するのに情けないくらいやっきになってるし。あのね、あのへたれ男がこれまでどれだけ必死にあんたの周りをうろつく害虫の処理をしてきたか、知ってる?もうね、涙ぐましいくらいよ。さすがの私も、同情するくらいにね。」

キョーコは思わず身を縮めたくなった。

「まったく、あんだけわかりやすいのも問題よね。まあ、あんたとのことが誰に知られてもかまわないと思ってるからなんでしょうけど。逆に今まで知られてないのが不思議なくらい。」

それは・・・困る。
キョーコがそう思ったのを見透かしたように、奏江は腰にあてていた両腕を、今度はしっかり前で組み直し、ぐっとキョーコの顔を覗き込んだ。

「もう、いいじゃないの。そりゃわたしだって、最初は結婚なんかして女優業に支障がでちゃいけないからって反対してたわよ。でも、そんな心配ももういらなそうだし。それにね・・・。」

不意に声の調子が少しやさしく、やわらかく変化した。

「考えてもみなさい。あの人が隣にいない人生なんて、あんたもう想像もできないでしょ?」

(たしかに・・・そう・・・だけど。)

「ずいぶん長いことあんたを見てきて、あんたの周りをうろつく男たちもさんざんみてきたけど、あの人ほど根気があって、めげなくて、あんたしか見えてなくて、そして何より、あんたをちゃんと分かってる人はいないわ。」

ふわっとやさしい笑みが奏江の顔に浮かびあがる。

「大事な親友のあんただけど、あの人になら託せる。」

その言葉に、キョーコの胸がどくんと大きく揺れた。

「私はね。あんたには誰よりも幸せになってもらいたいの。あの人なら・・・あんたを誰よりも幸せにできる。そしてあんたを、いつだって笑顔にしてくれる。ちょっと悔しいけど・・それは確かだって認めるわ。」

そういうと、奏江はキョーコの頭にそっと手のひらをのせた。

「いいかげん、あんたももう年貢の納め時ってヤツよ。いいから素直になんなさい。」

やさしく頭を擦りながら告げられたその言葉に、キョーコの瞳がみるみる潤み、一筋の涙がほろりと零れ落ちた。

「ばかね。何泣いてるの。まだなんにもしてないでしょ。」

きれいな指先を伸ばし、奏江はキョーコの涙をそっと拭う。

「せっかくきれいにメイクしてもらってるんだから、崩れるようなことするんじゃないの。曲がりなりにも女優でしょ。ほら、式がはじまるから、さっさと戻るわよ。」

「モー子さん!」

言うだけ言って立ち去りかけた奏江の袖をキョーコがぐいと掴んだ。

「なによ!」

口調こそ乱暴ながら、穏やかな笑顔とともに奏江が振り向く。

「ありがとう。私、敦賀さんに言ってみる。結婚してほしいって。ずっと待たせてごめんなさいって。」

その言葉に奏江は緩やかに微笑んだ。


「そう。それでいいわ。幸せになんなさい。・・・みんなで祝福するから。」



* * *



『それではこれより、花嫁からの幸せのおすそわけともいうべきブーケトスを行います。女性の皆様は、どうぞ中央にお集まりください。』


式の終了とともに、係の人の声が響く。


「ほら、いくわよ。」
アナウンスが流れると同時に、モー子さんが言った。


(え?モー子さん、こういうの絶対嫌がりそうなのに?)

疑問に思った私にモー子さんがこそっと囁いた。

「花嫁のブーケを受け取った人は、次の幸せな花嫁になれるんでしょ?千織が言ってたわよ。幸福のバトンタッチだから、何としてもあんたに受け取ってもらうんだって。」

それからぽんっと私の背中を叩いてみせる。

「ほら、年貢のお・さ・め・ど・き。」


「キョーコさんも、モー子さんもきて!」

花嫁のくせに、大きく手を振りながら千織さんが私たちを手招きする。、


(幸せのおすそわけ、か・・・。)


幸せに・・・なってもいいのかな・・・。
大好きな人と。


ちらりとモー子さんを見る。
するとまるで私の気持ちを察したかのように、モー子さんが微笑みながら小さく首を縦に振ってくれた。

『幸せになんなさい。』

さっき言われた言葉が頭の中に蘇る。

意を決して、私は一度振り向いた。
すぐ後ろで、私を守るように立っている人。
間近に輝く彼の瞳が、突然振り向いた私を見て不思議そうに瞬き、それから包むようにやさしく温かい笑みを浮かべた。

その温かさを、ようやく今何もかも素直に受けとめられるような気がする。
そして、私の中にあるこの想いのすべてを正直に返せそうな気がする。

「あの・・・、あのブーケを取れたら、次は私の番っていうことです。だから・・・よろしくお願いしますね!」

まっすぐ瞳をみつめ、紋切口調でそれだけ告げると、私はすぐに踵を返した。
視界の端に、驚いたように眼を見開く彼が見えたような気がする。

「待って!」

身体中が一気にカッと熱を持ち始めたのを感じながら、私はモー子さんの元へと駆け出した。

「ほら、前にでなさい。千織が投げやすいように。」
モー子さんが、私の手を引いてくれる。

そうして一歩前に踏み出した、そのとき、

「さあ、受け取って~!!」

やわらかな日差しを浴び、きらきらと輝きながらブーケが高く舞った。

きれいな放物線を描きながら、ピンク色のかたまりがリボンをはためかせ、私に向かってくる。
誰ともなく頷くと、私は思い切り手を広げた。


幸せのバトンを、しっかりこの手で受けとるために。
そこに託された輝くほどに温かい未来を、しっかりこの手に掴むために。


「キョーコ!ぜったいに受け取って!」

不意にどこからか声が聞こえた。

(・・・え?蓮さん?)

ドキリとした瞬間―――。

ばさりっ

まるで最初から決まっていたかのように私の手の中にブーケが飛び込んできた。


かわいらしい花嫁のブーケ。
それを見ていたら・・・。

花の中に、大好きなあの人の神々しいほどに眩しい笑顔が見えたような気がした。
真っ白のレースで彩られたふわふわのウエディングドレスを着て、あの人の隣に立つ未来の私が見えたような気がした。

幸せな・・・誰よりも幸せな笑顔を浮かべる自分を、見たような気がした。


いつか必ず叶う未来------。



さあ、戻ろう。
このブーケをもって。
大好きなあの人の傍らに。

きっと彼は、笑顔で私を抱き締めてくれるから。





Fin

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