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Bouquet Toss 前編

窓から差し込んでくる穏やかな陽光。
2月初旬とは思えぬほど暖かいその日差しに反射し、クラシカルなロングベールの随所に施された繊細な刺繍の銀糸がキラキラと輝く。
胸元から袖にかけて品よくあしらわれたミニパールの輝きを引き立てる、やさしくしなやかな光沢。
上質なシルクサテンを惜しげもなく使った純白のウエディングドレスに包まれ、花嫁が静かにその“時”を待っている。
その腰から下にかけては、足元をすっかり覆い隠すほどにたっぷりとしたドレープが美しい陰影を作り出していた。

まだ年若い花嫁の、可憐な美しさを一層際立たせるデザイン。

「本当に、びっくりするほどキレイな花嫁さんね。」

次から次へと控室に挨拶に訪れる人々から、口々に賞賛の声が漏れる。
そんな賛辞を、笑顔で受けとめながら、花嫁は大事な2人の親友の到着を今か今かと待っていた。


「「遅くなってごめんなさい!」」
やがて控室に、待ち望んでいた2つの声が響きわたった。

「2人とも忙しいのに来てくれてほんとにありがとう。」

嬉しそうに声を上げる花嫁。
到着した2人はその傍に近づきながら、それぞれに美しい微笑みを返した。

「そんな、当たり前だわ。だって私たちラブミー部員としていっしょにがんばってきた仲間じゃない!」

到着したのは、花嫁同様、若手とはいえすでにこの世界では押しも押されもせぬだけの実力と地位を得ている2人の女優。
周囲がそろってほうーっとため息をつくほど、その姿は、飾られた花もすっかり霞んでしまうほどの美しさと華やかさに満ち溢れていた。

この3人が「ラブミー部」という何やら怪しげな部のメンバーだったことは、業界では知る人がいないほど有名な話だ。
ど派手なピンクのつなぎを着て、“愛を探し、愛を学ぶ修行”をしてきた3人。
最近はほとんどみられることのないその姿は、今も人々の記憶にはっきりと焼きついている。


「うわあ!なんてキレイなの!」
「もともとあなたが美人なのはわかっていたことだけど、今日はやっぱり格別、ね。」

羨むように見つめる周囲の視線などまったく気にもせず、花嫁に向かい言葉をかける2人。
そんな2人を見て、薄いベールの向こうにのぞく薔薇色の唇が、小さく綻んだ。

「ありがとう。・・・にしても、まさか私が一番に結婚することになるなんてね。自分でもびっくり。あ、そうだ。」
小さく手を振って2人を間近に呼び、そっと耳打ちする。

「ねえ?京子さんはいつ?」


* * *


今日、千織さんが式をあげる相手は、数年前社長に言われた『楽しいお仕事』で知り合った人だという。

そういえば私が恋を自覚したのも、あのとき与えられた『危ないお仕事』がきっかけだった。
ちょっとアブナイ兄妹を演じた、その出来事を思い返しながら、隣に立つ人をみる。

出会った頃より一層艶やかな色気と、どきりとするような美しさを湛えているその人。
今日の主役は彼じゃないから精一杯目立たないように会場の隅で身を小さくしているけれど、彼が放つ華やかなオーラは隠しようがない。
本当に・・・神に祝福された、というのは彼のような美しさをいうのだろう。

この世の人とは思えぬほど端正で繊細で・・・。
ため息が出るほど瑞々しく整ったその姿は、まるでそこだけライトが当たっているかのように光り輝いてみえる。

それなのに、懸命に気配を消そうとしている様子に、思わずくすりと笑った私をまっすぐみつめ、彼は穏やかに微笑んだ。
つられるように私も微笑み返す。

すっと通った鼻筋にはらりとかかる漆黒の髪。
それが本当の色ではないことを、私は知っている。
やわらかな光を放つ黒壇の瞳が、本当は濁りのない吸い込まれるような碧青色だということも。


そう・・・公表こそしていないけれど、敦賀さんと交際しはじめてもう3年になる。


誰にも知られないようにと思っていたのに、なぜか社長だけはすぐ気がついて、交際することになって1週間もしないうちに呼び出された。
敦賀さんとともに。

「おお!最上君っ、君もついにラブミー部を卒業だな!いやあ、ほんとに一時はどうなることかと思っていたが・・・。蓮、お前にしては上出来だ。よくやった!それにしてもめでたい!めでたいぞ!さあー、交際宣言は派手にいくぞ!」

うきうきと、それはそれは嬉しそうにそう叫んだ社長に、慌てて卒業はまだ先に延ばしてほしいと頼み込んだ。
もう少し敦賀さんに近づけるまで、肩を並べるまでとはいかなくとも、せめて上着の裾を掴めるくらいの位置まで、たどりつけてから。
公表はそれからにしてほしい、と。

よほど必死な形相だったのだろう。
さすがの社長も、「ううむ。しかたない。君の気の済むようにしたまえ。」と顔を顰めながら、手にしていた企画書らしき書類をぽおんと放り投げた。

気がつけば、あれからもう3年・・・。
時折思い出したようにせっつく社長をかわしていたら、瞬く間にこんなに時間が経ってしまっていた。


つきあいはじめてちょうど1年めの夜、私は彼と結ばれた。
初めての経験。
怖い気持ちも大きかったけれど、なにより彼に私のすべてを捧げたかった。
そして彼のすべてを・・・ほしかった。
その願いが叶ったという、ただそれだけで。
嬉しくて、嬉しくて涙が止まらなくなった。
「愛してるよ」
視界を掠める水滴をその温かい唇で吸い取りながら、囁いてくれた彼の温もりを私はきっと一生忘れない。
翌朝、逞しい腕に包まれ幸せに目を覚ました私に、彼はいきなりプロポーズの言葉を告げた。

「今日だけじゃ嫌なんだ。これから毎日、永遠にこんな朝を俺といっしょに迎えてほしい。すぐでなくてもいいから。どうか俺と結婚してほしい。」と。
嬉しいはずなのに、すぐにもその腕に飛び込みたいくらいなのに、なぜかできなかった。
勢い?責任感?気の迷い・・・そんなさまざまなネガティブな言葉が頭に渦巻いて。
「返事はゆっくりでいいから」という彼のやさしさに甘え、はっきりした返事をしないまま、時間だけが過ぎていった。


2回目はその半年後。
「そろそろ答えは出た?」
そう聞かれ、言葉を失った私に、やわらかな笑顔とともに彼は言った。
「気持ちはずっと変わっていない。これからも絶対に変わらない。イエスと言ってくれるまで、何度断られてもあきらめるつもりはないよ。」

この人といつまでもいっしょにいたい。
この人のそばでずっと笑っていたい。
この人の温もりを永遠に自分のものにしたい。

確かにそう思っているのに、約束を求める言葉に素直にうなずけない自分がもどかしかった。
あの言葉は、一時の気の迷いではなかったのだと、安心する気持ちの陰で、
(まだ・・・早い)
そんな思いが、答えを躊躇わせていた。

心も体も寄り添っていても、現実には2人の間にはまだまだ大きな距離がある。
芸能界トップの俳優である彼と、ようやく名前のではじめた駆け出し女優。
早すぎる、そして格差のある結婚は、彼の名前を傷つけるだけだと、そう思ったから。

本当は私だって、すぐにも大きな声でみんなに言いたい。
この人は私の一番大切な人、一番愛する人なんです、と。
でも・・・できない。

「もう少し、もう少しだけ待ってもらえますか?」
「もう少し・・・か。そうだよね。考えてみたら結婚なんて君にはまだ早すぎるよね。ごめん。急いた真似して。あの・・・ね。そうしたら公表するだけでも、だめかな?俺たちのこと。」

困ったように、そして少し悲しそうに言葉を選びながら話す彼に申し訳ないと思いつつ、俯いてしまう私。
そんな私の頭を、大きな手のひらでぽんぽんとやさしく叩き、
「気にしなくていいよ。俺はいくらでも待てるから。」
やさしくくしゃりと髪をかき回す彼。
私はまた、その手の温かさに甘えてしまった。


その後も、折に触れては何度も何度もプロポーズの言葉を聞かされている。
2人のことを公表したいという願いも。
でも何度言われても、どうしてもイエスのひとことがいえない。

どうして・・・なんだろう。

時を重ねるなかで、私は何度も何度も考えた。
反芻して、反芻して、訳が分からなくなるほど、考えた。

若すぎるから・・・じゃない。
まだ早いと思ったから・・・でもない。
立場が追い付いていないから・・・というのもただの言い訳。

本当は・・・ただ、怖いだけ。
今はこんなに愛してくれていても、もしかしたらいつか私から離れていってしまうのかもしれない。
そんな思いだけが、いつまでもどうしてもぬけなくて。
怖くかった。

好きだから。
どうしようもないほど好きだから。

だから、怖くてならなかった。

でも、今は・・・。



「どうしたの?ぼんやりした顔をして。」

小さく話しかけられたかと思うと、不意に彼の指先が私の手の甲に触れた。
触れるか触れない、かぎりぎりの位置。
そのまま指先が、愛おしそうに何度もその場所を行き来する。
誰にも気づかれないように、そっと。

ただそれだけで・・・。
瞬く間にその場所が熱を帯びていく。
感覚の全てがそこに集中し、とくとくと心音が早くなっていく。
同時に思い出される夕べのこと。
彼の温もりに包まれて過ごす何よりも幸せな・・・夜。

思わず息を吸い込み、黙って彼を見上げると、それはそれは優しい眸が、私を包んでいることに気付いた。
この上なく温かく優しいモノが瞳を通じて、全身にじわじわと伝わっていく。

ああ、そうだ。

こんな風にこの人は、いつだって私に無上の愛を注いでくれてきた。
ゆっくりと時間をかけて余すところなく注いでくれた愛情は、私の中のがらんどうだった部分を確実に埋めてくれた。

そして今も・・・。
あふれるほどの愛が、私のすべてを満たしている・・・。

この人は・・・。
誰よりも私を心の底から愛してくれている。


不思議なほどはっきり、そう感じた。






(後編へ続く)

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