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聖夜 (後編) ~キョコ誕&クリスマス記念フリー~

「メリークリスマス。そして・・・誕生日おめでとう。」


(今年も一番に言ってもらえた。)
それだけで、嬉しさと愛しさがじわじわと込み上げ、逞しい胸に顔を埋めたまま涙を零しそうになった。

そう―――。
こうしているだけで、私の心はあなたからもたらされる歓びで埋め尽くされる。
かつて、愛されることを求めて飢え渇き干からびていたこの心が、今は溢れんばかりの愛で埋め尽くされる。

*


17歳の誕生日を迎えたあの日以来ずっと、毎年あなたは誰よりも早く私にその言葉をくれる。

新しくはじまる私の1年が、あなたから受け取る言葉をきっかけに、美しく彩られていくようで。
いつだって嬉しくてならない。


年を重ねるごとに、どんどん距離を縮めてきたその声。
そう・・・それは2人の間の距離の変化そのものだった。

どんなに手を伸ばして届かないほど遠くにいたはずなのに、気がつけば指先が触れるほど近くにいたあなた。
それでも、心はずっとずっと遠くて。
私はただ、その触れられない指先の行方を黙って見続けるしかなかった。
恋という気持ちを尊敬という名にすり替えて、自分自身を偽りながら。
あなたを見つめるしか出来なかった。
日ごとにふくらむ行き場のない想いを、苦しいほど胸に抱えて。

けれどその手が、ある日突然ギュッと掴まれた。
それはもう、本当に突然に。

掴まれて、握られて、引き寄せられて、抱き締められて。
そうしてあるとき、あなたから届けられる言葉にもう一つの言葉が加わった。

「・・・愛してる。」

新しく加わったその言葉だけは、1年に1度でなく、1日に何度も告げられる。
まるで私が、その言葉をほんのひとかけらも信じていないかのように。
聞いてもすぐに、忘れてしまうかのように。
あなたは何度も何度もそれを私に告げる。

信じてる。
もう、充分に信じてる。

でも・・・足りないの。
もっとほしい。
言葉じゃなくて。
もっと、もっと、あなたがほしい。

煌めく瞳に映るのが私だけだとわかっていても。
燻ぶるような囁きが私だけに向けられたものだと知っていても。
熱く抱き締めるその腕が私だけのものだと信じていても。

それでも私は、もっともっととあなたを求めてしまう。
乾いた大地が降る雨をとめどなく吸いこんでしまうように。
私は、あなたが注いでくれる愛という名の雨水をひたすらに咀嚼し続ける。
まだ足りない、もっとほしいと。
自分がこれほど貪欲で我儘で自分勝手だなんて、思ってもみなかった。


今も・・・そう。


どうすることもできないほど欲深な想いに操られるように、私は両手を伸ばしあなたの身体を捕まえる。
離したくないすべてをこの腕で捕まえる。

・・・ごめんなさい。

言葉では伝えきれない、言葉では伝えたくないこのエゴの塊を、今日だけは素直にぶつけさせて。
そんなことをしてもきっと許してくれると、そう思えるくらい、もうあなたを信じているから。

「これからもずっと傍にいて。」

2人の間に揺蕩ったその言葉は、私が発したものだろうか。それともあなたが発してくれたものだろうか。
そんな疑問が浮かぶのは、それでもまだ心のどこかに不安を抱えているから?
微かな戸惑いを心に宿しながら、そっとあなたを仰ぎ見た。

「また、ばかなことを考えていたね。」

大好きな笑顔が間近に向けられ、少し硬くなっていた心がふわりと緩む。
いつだって、私に不安をもたらすのも、その不安を解かしてくれるのも、それができるのはあなただけ。

「ううん。そんなこと・・・ないです。」

「うそ。」

小さく噛まれた耳朶の痛さが、この幸せは現実だと実感させてくれた。
温かくてやわらかい、あなたの唇の感触が、私の全身を幸福でくゆらせる。

「俺が君から、離れられるわけがないのに。」

そう言ってあなたはその指で私の額をはじいて見せる。

「何度でも言うよ。俺は絶対に君を離さない。誰が何と言おうと、・・・たとえそれが君からだろうと、俺は絶対に君を離さない。」

囁かれた言葉に、ただこくんとうなずいた。
心の奥の、ずっと奥から、締め付けられるような歓びと愛しさがじわじわと溢れ出す。
けれど、返す言葉が思いつかない。

だから・・・。

―――身体の奥から溶かされていくような、痺れるほど甘いキス。

そんなキスをあなたに捧げよう。

私のほうこそ、目の前にいるあなたをどうしてももっと強く捉えておきたいのだと。
そう伝えるキスを。
私に出来るありったけの想いで返そう。
本当は・・・そんなことすれば、自分のほうが今よりもっとずっと彼に捉われてしまうのはわかりきっているけれど。



「それは・・・、反則だよ・・・。」

細めた瞳の奥にぞっとするほどの色気と隠しきれない欲望を湛えながら、あなたが囁く。
甘さを含んだ端正な顔立ちに、驚くほどの野生的な光が差し、やがてそれが近づいて口づけされた。

「私だって、学習するイキモノなんですよ。」

精一杯の虚勢を張った。

そんな行為はもちろん、そういうことを望む気持ちも、あなたに出会ってから知った初めての経験。
抑えきれないこんな気持ちを、あなたはどれだけ私に味わせてくれるのだろう。

どれだけ学習・・・させる気だろう。


それが怖くて・・・そして嬉しい。



* * *



不意に返された彼女らしからぬキスに、全身が硬直した。

どこで覚えたの?そんなキス。
そう口走りそうになってはっとする。
それは俺が彼女によくするキス。
彼女を俺に縛り付けたくてする・・・官能の・・・キス?

ああ、そうだ。
たしかに君はとても勉強熱心で、学習能力の高い子だった。
でも・・・。

「嬉しいけど・・・、すごく嬉しいけど、もっとゆっくり覚えてくれてもいいよ。時間はいくらでもあるんだから。」
囁きながらキスを返す。
いつもと同じ、君のすべてを俺の虜にしたくて捧げる全力のキスを。

ああ、でも虜になるのはいつだって俺のほうなんだ。
それが悔しくて・・・たまらない。


もう彼女のことなんて、知らないことはないくらい貪りつくしたつもりでいた。
それでもこうやって・・・君はいとも簡単に、俺の知らない新しい君を見せつける。
そのたびに、どれだけ俺が君に惹きつけられ、そしてどれだけの嫉妬心と独占欲に煽られるか、無邪気な君は気づいてもいない。

「ただし教えるのは俺限定だからね。分かってるだろうけど、ほかのオトコにそんな顔みせたら・・・許さないよ。たとえ演技でも。」

この恋を自覚したときから、俺がずっと君に感じている想い。
好きな気持ちと、それに比例して高まる、独占欲。
これほど強い気持ちを他人に抱いたのは初めてだ。

そもそも好きという感情が、これほど強く激しく、自分を揺るがすものだなんて、思ってもみなかった。
戸惑いながら、抗いながら、それでも抑えきれず、俺は結局初めての感情に身を委ね、強く深く君を求めた。
君が受け入れてくれるまで、ずっと求め続けた。

そうして一度ラインを越えてしまった感情は、いままで押さえていた分だけ加速度を増して、どんどんどんどん溢れ出る。
いくら触れても足りなくて、むしろもっと触れたくて、欲しい気持ちを抑えきれない。
貪欲で飽くことを知らない、君への渇望。

こうして君と暮らせるようになった今も、その気持ちは変わらない。
いや、それどころかますます大きくなっていく。

今日も・・・そうだ。


結局溢れ出す感情に耐えきれず、俺は彼女をそのまま抱え上げた。
離さないようにしっかりと抱き上げ、点けていたキャンドルを吹き消していく。

どうしたの?と戸惑ったような驚いた瞳を向ける彼女があまりに愛しくて、抱き上げたまま何度も何度もキスをした。
そして、俺はまっすぐ彼女を寝室へと連れ込んだ。


どうせテーブルの上に食べずに残されているのは、俺が作ったオムライス、だしね。



* * *



「蓮さんったら・・・ほんとに・・・ひどい・・・。」


キョーコはけだるさの残る身体を、ベッドから引き摺るように起こした。
ひどいという呟きとは裏腹に、口許には柔らかな笑みが浮かんでいる。

(あんなにロマンチックにリビングを飾ってくれたのに、結局ゆっくり楽しむこともできなかったし。それに、せっかく作ってくれたオムライスも食べずに、朝を迎えてしまうなんて・・・。いくら今日がお休みだからって・・・ひどい。)

もう!と口を尖らせながら、隣で眠る蓮を起こさぬようするりとベッドを抜け出し、ガウンを羽織ってリビングへ向かう。
オムライスはそのまま乾いているだろうし、雪だるまももう溶けかけていることだろう。

せっかくだったのに・・・。
残念だけど仕方ない。
蓮さんが起きるまでに片付けて、今度は私が彼に昨日の分も素敵なクリスマスを届けよう。

冷蔵庫の中を想い浮かべながら、そんな気持ちでキョーコはリビングのドアを開けた。
途端に流れ出る温かい空気。

(あのときつけた暖房・・・そのままだったのね。)
まったく、ともう一度唇を尖らせる。

おそらくもう姿を消した雪だるまを残念に思いながら、テーブルに目を向けたキョーコは、
「う・・・そ・・・。」
思わず言葉を漏らした。


―――そこにはキスをする交わす二人の天使がいた。

(・・・天使?)

雪だるまの名残の氷片を体のあちこちにつけ、キラキラと輝く透明の天使。
氷の彫像のようにも見えるそれは、だが決して溶けることがない何かで出来ている。

(・・・どうして?)
おそらく、もともとこの天使を隠すようにあの雪だるまは作られていたのだろう。
けれど、いるはずのない天使がそこに現れた様は、キョーコの目にまるで魔法の出来事のように映った。
光を浴びて、そこだけが明るさを増して見える天使たち。
あまりのことに、視界が滲んできてしまう。

そのとき―――。
片方の天使の翼で、キラリと何かが光った。

(・・・!?)

ある予感を胸に、キョーコはテーブルへと駆け寄った。
その瞳に飛び込んできたのは、透き通る天使の翼にかけられ、ひと際強い白銀の輝きを放つソリテールリング。

「これって、まさか・・・。」
思わず呟いたキョーコの耳にギギッと床が軋む音が届き、慌てて振り返る。

「昨夜、君は受け取ってくれるって言ったよね?嬉しいって・・・確かに、そう言ってた。」

悪戯っぽく微笑む蓮が、そこに立っていた。
キョーコが隠しきれない驚きを向けても、その顔は変わらず涼しげに微笑んでいる。

「たしかに言いました・・・けれど・・・。」

「もう、待ちきれないんだ。もう、限界。年を追うごとに、君はどんどんきれいになって、どんどん魅力を増していく。このまま2人の関係を隠していたら、どんな奴が君をさらいにくるかわからない。」

それまでの笑顔が不意に姿を消し、蓮の眉間に深い皺が寄る。

「そんな不安と嫉妬が日に日に増して、俺はもう耐えられない。このままじゃ新しい年を笑顔で迎えることすらできないよ。」
一度軽く伏せた視線をキョーコに向けると、蓮は瞬きもせず緩やかに微笑んだ。

「どうか今すぐ、俺だけのものになって。そして、俺を君だけのものにして。」
希うように、逞しい両腕が差し出される。

「ね?キョーコ。もう、いいだろう?」
向けられた微笑みが輝きと艶めきを増していく。
真っ直ぐな瞳には有無を言わさぬ強制力が宿っていた。

「・・・愛してる。・・・永遠に。」

キョーコはこくりと唾を飲み、躊躇いの色を一瞬瞳に走らせた。
けれどその色はすぐに消え、蓮からの視線を、しっかりと見つめ返す。
大きく息を吸い、大輪の花のように綻んだ笑顔を見せると、キョーコは出された腕の中へ勢いよく飛び込んでいった。

その身体を、その心を、すべてを蓮に委ねるように。



キラリ

射し込む朝陽の中、ひしと抱き合う二人を見守るように、二体の天使がいつまでもやさしく輝いていた。







fin

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