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Dolce Mattino (甘い朝) side蓮

君の香りに包まれて目覚める・・・ずっと夢見ていた朝。
ぼんやりとした視界が像を結び、意識が覚醒への道を辿る、それよりも早く俺は君を抱き締める。

鼻先をくすぐる柔らかい髪も。
手のひらに感じる滑らかな素肌も。
子猫のような息遣いも。

目覚める前から眠りについた後まで、いつだってそのすべては、俺だけのものだと実感していたいから―――。


捉えた腕に力をこめるたび、小さく身じろぐ君。
そのたびに、小さな身体から甘い香りがふわりと舞い立ち、俺の心を鷲掴みにする。

君がどれほど愛おしい存在か、どれほど手を尽くしても言葉を尽くしても、きっと君には半分も伝わらない。
それがもどかしくて、時折苦しくて、気持ちの全てを君にぶつけたくなる。

君はちゃんと、懸命に応えてくれているというのに。


*


激しい雨音が窓越しに聞こえてくる。
2人で迎える休日は、天候が悪ければ悪いほど、正直嬉しい。

働き者の君も、さすがにそんな日ばかりは家でのんびり何もせずに過ごそうと思ってくれるから。
そのおかげで、ただ2人きりの世界を心ゆくまで堪能できる。
君を、誰にも見せずに独り占めできる。
そんな休日が・・・本当は何よりも嬉しい。


『・・・んぅ・・・ん・・・』

漏れた吐息と微かな気配が、君の目覚めを教えてくれる。
俺を起こさないよう、気を使っているのだろう。
小さく頭を上げ、外の様子を確かめているらしい君。
少し軽くなった腕に、冷気が微かに吹き寄せる。
その僅かな隙間すら許せない気がする自分に、心の内で苦笑した。
まだ君の肩にかかっているもう一方の腕には、首を傾げる動きが伝わってくる。


うん。
今日の天気は最悪だよ。
だから、このままずっとこうしていようよ。


寝たフリをしたまま、心の中でそう話しかける。
・・・次の瞬間、まるでその声が聞こえたかのように温もりが増し、君の身体がすり寄ってきた。
心地よい重みが腕に戻り、ほっと息をつく。


でもまだ、重みが足りない。
少し頭を離したままでいる君が気になって、薄眼でそっと様子を伺ってみた。
起きていることがばれないよう、充分気を使いながら。

すると・・・。
驚くほど間近で、俺を見つめる君がいた。

口許に微かに緩ませながら、微笑む君。
その表情に心揺さぶられ、堪え切れぬほどの愛しさがこみ上げる。

(ああ、本当に君は・・・。今すぐどうにかしてあげようか・・・?)

いっそこのまま君を押し倒してしまおうかと、手を上げかけたそのとき。
恐る恐るといった様子で君の手が俺の髪に触れた。

うっ

触れるか触れないかの微妙な加減で額をすりぬけていく指先。
掻きあげられた髪が額に掠り、ただそれだけで心臓がキュッとなる。

こうして、一緒にひとつのベッドに眠るようになってもうずいぶん経つというのに、こんな小さなことにさえ落ち着いていられない。
そういう何気ない君の挙動のひとつひとつに、俺はいつだって心踊らされてばかりいるんだ。

きっと俺は・・・。
君に手錠をかけて、この部屋に閉じ込めて、ドアに施錠して、それでもまだ不安に駆られることだろう。
ちょっと目を離した隙に、君が消えてしまいやしないかと。

それほどに君を・・・愛している。


君に触れていない指先を、俺は痛いほどにぐっと握り締めた。


*


「・・・・・しなくちゃ。」

小さく呟く声が耳に入る。
同時に、静かに外される俺の腕。

(いやだ。)

ただ、それだけの想いが俺の中心を矢のように貫く。

(離れるのは・・・嫌なんだ。)

だから、起きかけた君の身体を力いっぱい引き寄せた。
勢いよく倒れ込む君。
その身体を受けとめるのは、いつだって俺のこの胸。

「だーめ。逃がさないよ。」

言い聞かせるように、そう言った。

「起きてた・・・んで・・・うぐっ」

余計なことは言わせない。
君は、ずっとここにいればいいんだ。
俺の腕の中に。
・・・そうだろ?


思いながら、細い身体をぎゅうぎゅうと締めつけた。
君が決して逃げ出さないように。
ここから何処にも行けないように。
両腕も両足も、使えるものはすべて使って君を引き留める。

だってほら、いつも言ってるだろう?
『俺はぜったいに君を離さない』って。

抱き締めた腕の中で、じたばたともがく君の上がったり下がったりする眉毛を見ていたら、なんだかおかしくなってきて、ついくすくすと笑ってしまった。
ますます怒る君。
しょうがないじゃないか。
そうやって怒る姿も可愛いすぎる君がいけないんだ。

いつも、いつまでも、こうしていようよ。

暴れて立てられる爪の痛ささえ、君がここにいる現実を教えてくれるようで、嬉しくてならない。
そう思って調子に乗っていたら・・・いきなり腕をカプリと噛まれた。

「いたっ!」

驚いて思わず腕が緩む。
その隙に、君との距離が少し生まれた。
それが悔しくて、淋しくて、心の中で舌打ちする。

「ねえ、どうして、離れようとするの?」

俺は、ほんの1mmだって離れていたくないのに。

「掃除とか洗濯とかしようと思っただけです。・・・って、そうじゃなくて!くっつくにしても、この距離でいいじゃないですかー!なんでそんなに抱え込もうとするんですかー。」

ごめん。
よく聞こえないな。

「さっきみたいにされたら、顔も見えないし、声だってよく聞こえませんっ。
ううん。それどころか、息も出来なくて、私、し、死んじゃいますぅ~!!」

・・・ああ、大丈夫。
もし君が先に死ぬようなことがあったら、俺も生きてられないから。
だから、ぜったいに君を先に死なせるようなことはしないよ。

細くしなやかな肩に首に腕を回し、もう一度ぐっと引き寄せる。
両足も使って押さえこめば、ほらもう君は俺から離れられない。
ね。
今日はもう、このままで・・・

「いいから、いいから。」

このままでいようよ。

「いくないですっ!」

どうして離れようとするの?

「へいき、へいき。」

どうせ外は嵐だよ。今日は何もしなくていい。

「へいきじゃないですっ!」

掃除も洗濯もどうでもいい。お願いだから、俺のことだけ考えて。

「もうっ!ほんとに、ダ!メ!ですったら!」

『ちっ』

相変わらず真面目すぎる君に、思わず舌打ちが出た。
途端に君の頬がぷうーっと大きく膨らんでいく。

「あーーーーっ、今、舌打ちしましたね。ちゃんと聞こえたんですからっ!もーうっ!」

怒らせるつもりはなかったんだ。

「俺はただ、キョーコをずっと抱き締めていたいだけなのに・・・。」

怒った顔も嫌いじゃないけど、やっぱり今は仲良くしたい。
てろんと光る可愛いおでこに、そっと額をすり寄せた。

「外は雨がひどそうだし、まだしばらくこうしていてもいいでしょ?」

俺の“お願い”に君が弱いのは、分かってる。
だから、できるだけ懇願の色を込めて、・・・そう、昔飼っていた大型犬が餌をほしがるときに見せていたような甘える動作を頭に浮かべながら、俺は君に囁いた。
その陰で、君を抱えた両手をさりげなくしっかり組み直しつつ。

「だって・・・。キョーコの身体をこうして抱き締めてるだけで、俺は幸せな気持ちになれるんだよ。
こうして一緒にいられるときくらい、抱き締めて、抱き締めて、君がちゃんと俺の腕の中にいるって実感していたいんだ。
ただ、それだけなのに・・・。なんで、わかってくれないかなあ・・・。」

畳みかければ、君の表情がどんどん困ったように緩んでくる。
よし、もう少し。
もう少しで、君は落ちる。

「それとも・・・キョーコは俺に抱き締められたくないの?」

大好きな君の耳朶をかぷっと噛んだ。


俺は君の耳朶を噛むのが好き。
君は俺に噛まれるのが好き。


真っ赤に染まった君を見ながら、思う。

うん。
やっぱり相性抜群だ。

何だか嬉しくなって、その気持ちを伝えたくて、つい顎を頬にごしごしと擦りつけてしまった。
さっき大型犬をイメージしていたせいだろうか。
喜んだときに犬が顔を懸命に擦りつけてくる、アレによく似た動き。

「痛いっ、痛いですったらっ。」

だめだよ、キョーコ。
声が怒ってない。

「痛くないよ。昨日ちゃんと剃ってるし。それに俺のヒゲ、やわらかいでしょ?」
「顔の皮膚は敏感なんですっ!」

そう言う割には、本気で逃げ出そうとしてないよね。

「でも、キョーコはその痛みがうれしいんだよね?ね?」

ああ、今この瞬間も、どんなに君が愛おしくてならないか、わかるかい?

力の抜けた身体をもう一度ぎゅっと抱き締めれば、ようやく君の方から身を寄せてきてくれた。
そのまま何か言いたげに、胸元にぐいぐいと押し付けられる顔。
少しためらったあと、背に回された手にぎゅっとしがみつくように力が込められる。


その動作に・・・震えた。
君の気持ちが伝わってくるようで。

でも・・・。
それだけじゃ嫌なんだ。
やっぱり、言葉も欲しくなる。

こうして共に暮らすようになっても、やっぱり以前と変わらず“歩く純情さん”な君は、なかなか言葉をくれない。
今みたいに、態度で推し量ることはもちろんできるけど、それだけじゃ不安にかられる俺の気持ちがわかるかい?

「ねえ、キョーコ。俺のこと・・・好き?」

だからこうして、言葉が欲しくなる。

胸元で、こくこくと首が動く。
背中に回された両手にはますます力が込められ、抱き締められる快感が俺を襲う。
それでもまだ・・・足りない。

「俺のこと・・・愛してる?」

口にした瞬間、君の身体が大きく震えた。
その震えは、いったいどういう意味?
気にする必要はどこにもないはずなのに、小さな疑問が頭に浮かぶ。
それと同時に、木枯らしが砂を散らすように、心の底の不安が吹き上げられた。

「ね。俺のことだけを好きだと言って。」

君の声を、君の言葉を、どうしても欲しいと思うのはわがままだろうか。



いつも。
いつも。
この腕の中にいて。

そして、ずっと愛を囁いていてほしい。


やさしい微睡の中で・・・
蓮は、キョーコだけに意識を集中させる。


キョーコもそうであることを願いながら。


「ねえ・・・キョーコ・・・俺のことだけが必要だと言って。」


ずっと。
ずっと。


傍にいて。
感じさせて。

君を。
君のすべてを。


ずっと。
ずっと。

いつまでも・・・。





Fin

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