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だから、お願い

「ただいま。」

このドアを開ければ君の笑顔に会える。
そう思えるから、毎日家に帰るのが本当に楽しい。

こんな日がくるなんて、少し前までは夢にも思わなかった。
そう、まさかこんな幸せをこの俺が得られるなんて。

今日も、ドキドキしながらドアに手をかけた。

君がもう家にいることは、さっきメールで確かめて分かっている。
それなのにこんなにドキドキするなんて。
不思議だね。
今では毎日同じ場所で同じ時を過ごしているのに、やっぱり顔を見るたび鼓動が高鳴る。
そのうえ少しでも離れれば、会いたくて切なくて、恋しい気持ちがどんどん募ってしまう。


カチャリ


そこに君がいると思えば、ドアを開ける音すら、俺には祝福の鐘に聞こえるよ。

「おかえりなさい。」
出迎えてくれたのは、少しはにかんだ笑顔。

でも・・・何かが少し引っ掛かる。

いつもなら、全開の笑顔で飛び出すように迎えてくれる君。
それなのに、なんだか今日は少し元気がない。
笑顔ではあるけれど、よく見ればほんの少し眉がハの字に下がっている。
それに目もなんだか赤い。

気のせいか?
・・・いや違う。
なにか・・・あったのか?

心配が一気に込み上げて、膝を屈めて彼女の顔を覗きこんだ。

いつだって君のことなら、ほんの僅かの曇りにもすぐに気がつく俺でいたい。
そして、誰よりも近くで、君の笑顔を守りたい。
そのためなら、きっと俺は何でもするだろう。
だから、お願いだ。
いつまでも俺を、君だけの騎士でいさせて。


「どうしたの?なにかあった?」

わざと軽やかに言いながら、右手を伸ばして彼女の頭をぽんぽんと叩く。
友人を元気づけたいときに背中を叩く、あんな調子で。
その途端、

とすんっ!

まるでタックルするみたいに茶色の頭が飛び付いてきた。
いきなりのことに傾いだ身体を慌てて立て直し、彼女の身体をしっかり抱きとめる。

心配な気持ちは相変わらずだけど、じんわりと身体に染み込むその温もりに、思わず口許が緩んでしまう俺。
もし社さんがここにいたら、この緩みきった顔を、きっと慌てて隠そうとするだろう。

え?

彼女の両腕が恐る恐る俺の腰に回るのを感じて、ドキリとする。
最初はそっと、それからぐっと、息が詰まるほどの締め付けが、俺の身体を包みこんだ。
それが苦しければ苦しいほど、なぜか幸せに身が震える。

そして俺は・・・。
僅かに震える左手をそっと彼女の背に回し、右手でやわらかな頭を支えて擦った。
髪に差し入れた指先から、彼女の香りがふわりと立ち上り、鼻腔を甘やかに刺激する。

そうやって何度も、何度も、君は無意識に俺を魅了するんだね。


でも・・・。
恥ずかしがり屋の君がこんなことするなんてよほどのこと。
だから――、

「話してごらん。何でも聞いてあげるから。」

懇願の色を込めて尋ねた。

君の言葉なら、どんなことでも聞きたい。
君のことなら、どんなことでも知りたい。

悲しいことも嬉しいことも、辛いことも楽しいことも、みんな俺に聞かせて。
どんな想いも、ぜんぶ俺に受けとめさせて。


「何があったの?」
抱き締めた腕は緩めずに、もう一度そう耳元で尋ねてみる。


すると、彼女はいやいやをするように首を振った。
その度に、彼女の香りが強く舞い立ち、俺の心を騒がせる。
ああ、どうして君はそんなに簡単に俺を揺さぶることができるんだ。

「仕方ないことだって分かってるんです。でも・・・。」

腕の中で、くぐもった声が俺を呼ぶ。
腰に回された手にびっくりするほどの力がこめられ、小さな顔がぎゅうぎゅうと押しつけられた。

「れん・・・さ・・ん。・・・・・てくだ・・さい。」
「え?なに?」

「セラピー・・・してください。」

ごしごしと、顔を左右に振ってこすりつけてくる頭を抱え、くしゃくしゃとかき混ぜる。
こんなに可愛い君を前にして、どうやって平常心を保てばいいかわからない。

「セラピーって・・・どうすればいい?」

「ぎゅって・・・。」

彼女が俺を見上げた。
涙がたまってキラキラと光る瞳で。

「ぎゅ?」

「ぎゅって、してください。」

たまらず力いっぱい抱き締めた。

トクトク響く心音も。
小さく震える細い肩も。
ふわふわ鼻をくすぐるネコッ毛も。
みんな、みんな、愛しくて可愛くて。

そのまま彼女を味わいながら、いったい何があったのかと思いを巡らせる。
ふと浮かんだ彼女のスケジュール。
そうか、そういえば今日は・・・。

「コーンとお別れ、してきたんだね。」

腕の中で彼女がこくんとうなずいた。

コーン。
それは、キョーコがとある動物番組の企画で育てていた赤ちゃんレッサーパンダ。
未熟児で生まれ、母親に育児拒否されたというその子レッサーパンダを、親代わりに面倒をみる、というのがその内容だった。
彼女が名づけたというその名前を聞いたときは、驚いて、それから何だか嬉しくなって、ついくすりと笑ってしまったっけ。

この数か月、彼女は本当に熱心にコーンの世話をしてきた。
それはもう、腹立たしいほどに。

「会うたびに、成長していくのがわかるんです。それに私のことを母親みたいに思っているのか、ずっと追いかけてきて・・・ほんとに可愛くてたまらないんですよ。」
家に帰るたび、君はそれはそれは楽しそうに幸せそうにコーンのことを話していたね。

そうか、今日が最後の収録だったのか・・・。

彼女の頭を抱え込んだまま、こっそりにやりとしてしまう俺。

だって、これでようやく君の愛情の矛先は俺だけに戻るだろう?
正直妬けてしまうほど、君はコーンに夢中だったからね。
でも・・・消えたライバルに対してなら、俺はいくらでもやさしくなれる。
まして、それが“コーン”なら。


「君がいたから、コーンはあんなに元気に、大きくなれたんだ。よくがんばったね。」
小さな耳にそっと囁いた。

「淋しいなら・・・今度、いっしょに会いに行こう。コーンのところへ。」
そう言えば、俺の胸に顔をこすりつけるようにして、こくこくとうなずく彼女。

君はそうやって、いつまでも変わらず無邪気で、素直で、やさしくて。
だから、俺は何度も恋に落ちてしまうんだ。

そう・・・、きっと毎日、俺は君に恋してる。



ああ、そうだ・・・。

「ねえ、キョーコ。」
逃げ出せないようしっかり身体を抱えこみ、それから君に話しかける。

「レッサーパンダよりもっと可愛くてもっと夢中になる"イキモノ"、いっしょに育ててみない?」

きょとんとして小首をかしげる君。
だから、重ねるように耳打ちした。

「君さえOKなら、俺はいつでもその覚悟が出来てるんだけど。」


微笑みかけた俺に、だいぶ遅れるようにして真っ赤になった君。
うん。
君にしてはめずらしく、ちゃんと意味を察してくれたみたいだね。

そんな君を俺はそっと抱き上げる。



そして・・・息が止まるほど甘く痺れるキスをした。

イエス以外の言葉を思い出せないように。



―――だから、ねえ、お願いだよ。






Fin

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