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雨が雪に変わるまで (16)

あの日見た煌めきをなんとしても捉えたくて、俺は彼女を追い続けた。

来る日も、来る日も。
あらゆる手を使い、忙しいスケジュールの合間を縫って。

けれど、驚くほど見事に彼女はその姿を俺の前から隠し続けた。
「蓮、お前・・・痩せただろ。キョーコちゃんに会えなくて辛いのは分かるけど、外から見てわかるほどやせるのはプロ失格だぞ。とにかく、ちゃんと食べろ。」
社さんに怒られ、自分がどれだけ追い詰められているか気が付いた。


どうすればいいか分からない。
どうすれば・・・彼女を捕まえられるんだ。

24日に出発する気なら、23日は確実に自宅に戻るはず。
いっそ、家の前で待ち伏せでもしようか。


できるはずもないそんなことを蓮が真剣にそう考えはじめた・・・12月23日。



* * *



その日キョーコは、年内最後となる仕事、「やっぱきまぐれロック」の公開生特番の現場に来ていた。
坊の出番は、今日で最後。
デビュー前から続けていた仕事だから、もうこれで終わりだと思うとひどく淋しい気持ちでいっぱいになる。
しかし・・・一方でほっとする気持ちもほんの少しだけあった。

(これで最後。これでもう、坊になることはない。だから、そう・・・敦賀さんから、辛い相談をされることも二度とない。)

けれど、最後に辛い試練が待っていた。

「あ。坊。今日のシークレットゲストは、敦賀蓮くんと深見恭子くんの2人だから。沈静化したとはいえ、例の熱愛報道の件があったから、相当注目されてると思うんだよね。だから、彼らのインタビューを中心に構成を変えさせてもらったよ。ほら、そのほうが視聴率UPにつながるからさ。ま、デリケートな面もあるんで、やばそうだったらフォローよろしく。」

ディレクターは気軽に面倒事を放り投げてくる。

そもそも本来なら、坊の最後の出演ということでそれらしき演出があってもおかしくない。
けれど、もともと“京子”にあまりいい感情をもっていないプロデューサーは、話題の2人の出演にころりと方針を変えたらしい。
当初予定されていた坊の正体を明かすコーナーなどはすべて飛ばされ、番組は2人のインタビューコーナーを中心とした構成に変わっていた。

「そういうわけで、今日で最後だっていうのにいろいろ企画変更になっちゃって申し訳ないけど、すべては視聴率のためってことで協力してくれ。あ、今までおつかれさま。」

しかし、そんな心ないプロデューサーの言葉もろくに耳に入らないほど、キョーコの頭はひとつのことで占められていた。

(ゲストが・・・あの2人だなんて。今、あの2人に会わなければならないなんて。)
それでも・・・、坊という仮面をかぶっていられるだけまだマシよね、とキョーコは思う。



「それじゃあ、今日のゲストをお迎えしましょう!今日はすごいですよ~。」
「ほんま、ものすごう豪華やな。リーダー。」
「俺たちの番組じゃありえへん豪華さや。」
「うんうん。これも番組編成のおかげだね。じゃなきゃ、年末特番なんておいしい話、気まぐれにくるはずないよ。」
「あははっ。そやなー。」「なー。」
「それじゃ、坊、ゲストのお迎え、よろしく!」

*

「敦賀さんと深見さんは、それぞれ楽屋で待機していただきます。まず深見さん、続いて敦賀さんの順番で坊が呼びに行きますので、よろしくお願いします。」

スタッフが手順を説明するその最中にも、深見恭子は蓮にさりげなく寄り添おうとする。
その態度に、蓮の眉がぐっとしかめられ、嫌悪の表情がぱっと浮かんだが、当の本人は気付いていない。
そして、スタッフが機材の確認に現場を離れた瞬間。
すぐにその身を翻そうとした蓮に、
「敦賀さん。今回の写真の件ではご迷惑をおかけしてしまい、ごめんなさい。スタッフが勝手にしたことで・・・。でも私、敦賀さんとなら噂が本当になってもいいって、本気でそう思ってるんです。
もしよかったら、今夜とか・・・いかがですか。」
意味ありげに笑うと、恭子は強引に腕をとり、その身体を押し付けてきた。

その姿に、正直蓮は嫌悪感しか抱けない。
だからといって女性を力任せに振り払うこともできず、やんわり払いのけようとした蓮の口元に、深見恭子の顔がすっと寄せられる。


その時――――坊が現場入りした。
中継開始まであと5分。


(・・・!)


スタッフが現れたことに気付いた深見恭子がすっと蓮から身体を離す。
しかし、先頭を歩いていたキョーコははっきりとその様子を見てしまっていた。

(キス・・・してた?)

その光景に、“坊”の中で固まってしまうキョーコ。
耐えきれずふらついた身体を、とっさに支えたのは蓮だった。

「鶏くん。大丈夫?」
着ぐるみを着ているというのに、触れた場所から蓮の温もりが伝わってくるようで、全身に震えが走る。
(敦賀さん・・・。)
ふらふらとそのまま身体を寄せそうになり、キョーコは慌てて自分を立て直した。


「す、すまない。敦賀君。ちょっと寝不足でね。あ、そうそう。言い忘れてたけど、僕今日が最後の出演なんだ。今までいろいろありがとう。」
早口にそう言うと、蓮から身体を離す。
「え?ちょ、ちょっと鶏くん・・・」


「それじゃ、そろそろ本番はじまります。スタンバイよろしく!」

掛けかけた声を飲みこみながら、蓮は不思議な感覚に襲われていた。
(今の、あの抱きとめたときの感覚・・・女性?それに・・・たしかにどこかで覚えがある・・・。)



* * *



「それでは次の質問です!」

同じLMEのタレントだけに、ブリッジロックの3人も熱愛報道には触れることなく、慣れた調子で滞りなく番組を進めていく。
「坊、よろしく!」

『初恋はいつ?どんなものでしたか?』
“坊”が持っていたボードにすらすらと質問を書き込み、両手で掲げた。
それは、2人が出演したドラマが「初恋」がキーワードになっているのを受けて、このぐらいなら問題ないだろうと用意された質問だった。

「じゃあ、敦賀さんからお願いします!」
その質問に蓮はしばらく小首をかしげていたかが、やがてにっこり微笑み口を開いた。

「僕の初恋は・・・10歳のときかな。」
これまで恋の話はもちろん、自身の過去の話など一度もしたことのない蓮が突然話しはじめたことに、会場が一瞬シーンと静まりかえる。

「そ、そ、そのお相手は?」
「小さな川のほとりで偶然出会った女の子。その子とはたった数日間しか会ってないのに、いまだに強く覚えているんですだから、。もしかしたら、あれが初恋・・・だったのかなって。」
そういって浮かべた微笑みのやさしさに、会場から悲鳴があがる。

「な、な、なんと敦賀さんの貴重なコイバナが語られました!みなさん、これは衝撃発言ですよ。」

「あはは。まあ、でも、10歳のときのことですから。もうずいぶん前の話ですよ。
それに・・・。相手の女の子はどうやら僕のことを妖精だと思い込んでたみたいなんです。だから、きっといっしょに遊んだことも夢の中の出来事だって思ってるんじゃないかな。覚えていてくれたら、それはもう嬉しいですけどね。」



(どうして話してしまったのだろう。)

いつもなら適当に受け流す、このテの話題になぜ本当のことを話してしまったのか。
しかも、直接彼女に伝えると、そう決めていた昔の思い出をなぜ話してしまったのか、蓮は自分でもよくわかっていなかった。

(それも、こんなとき、こんな場所で、こんな風に。)

それはごく衝動的な行動だった。
何をしてもキョーコに会えない。
そして自分には時間がない。
焦る気持ちが、蓮をしゃべらせた。
何よりも・・・これを聞けば彼女は避けるのをやめ、自分の前に現れてくれるはずだと、そう思ったから。

今の自分を確かにキョーコがどこかで見ている気がしてならなかった。
だから・・・この状況を打開できるならどんなことでもしようと思った。
あるいは、なんとかして想いの欠片だけでも伝えたかったのかもしれない。



蓮の話を目の前で聞きながら、キョーコはひとり茫然と立ち尽くしていた。
どんな表情をしていても、坊の姿ならだれも気づかない。
それが今のキョーコには救いだった。


13年前。川のほとり。妖精・・・コーン?

ううん。まさか。そんなはずない。
だって、髪の色も違うし、目の色も違うもの。

敦賀さんがコーンだなんて・・・そんなことぜったいない。
でも・・・。
なぜだろう。私の心の中に、それを否定しきれない自分がいる。
だけど、それならどうして敦賀さんは何も言ってくれないの?
私とコーンのこと、あの人はもう知っているはずなのに。

それに・・・初恋って・・・恋?どういうこと?

『恋』、その言葉を思い浮かべるだけで、心臓がバクバクして、息が苦しくなる。

もしかしたら、自分は大きな思い込みと小さな勘違いに惑わされているのかもしれない。もしかしたら・・・でも・・・。


厚い雲に覆われた夜空をみても、確かにそこにあるはずの星はなにひとつ見えないように、真実がどこにあるのか見えない。
ただ、今のキョーコにはっきり分かっているのは・・・蓮しか見えない自分の気持ちだけ。
それだけだった。



ぼんやりと考え事をしていても、進行に馴染んだ身体はしっかりと仕事をこなす。
そして、気が付けば番組は滞りなく終わっていた。

レギュラー陣でゲストの退場を見送る。

纏わりつくように話しかける恭子を無視し、足早にその場を立ち去ろうとする蓮に、恭子が追いすがる。
「いいかげんにしてくれないか。」
蓮は恭子だけに聞こえる大きさで冷徹に囁いた。
抑えた声にこめられた凍るような冷たさに、恭子はその身を竦ませる。
「あなた・・・もしかして女性に興味がないの?」
負け惜しみのように言い捨てると、恭子はさっと蓮を追い越しスタジオを出て行った。

しかし・・・遠い背後から見れば、それは恭子が蓮にじゃれついているようにも見える。そんな2人の背を、坊の姿のままキョーコは黙って見つめていた。



「キョーコちゃん!」

ゲストに続いて観客も去り、スタッフがばたばたと片づけを始めたスタジオ内。その隅で挨拶に回っていたキョーコに、明るい声が掛かった。

振り向いたキョーコの目の前に、いきなり大きな花束が差し出される。

「あ、光さん。それに、雄生さんと慎一さんも。どうしたんですか?この花束!」
「坊役、今まで本当にお疲れさまでした。これは俺たちから感謝の気持ちをこめて。共演できて今までほんとに楽しかったよ。」
「そんな・・・、私なんていっつもご迷惑ばかりおかけしてたのに。」
「いやいや、キョーコちゃん、そんな謙遜な。」
「ほんま、坊にはむちゃくちゃ助けてもらったわ。」
「な。番組がここまで続いたのも坊ががんばってくれたや。ほんまありがとな。」



(キョーコちゃん・・・?)
帰り支度を終えスタジオの前を通りかかった蓮が一瞬足を止めた。

(キョーコちゃんってまさか・・・彼女がここに?)

訝しく思いながら開け放された扉の奥を覗き見て、そんなはずないと首を振る。
(なんでも彼女に結び付けようとしているな・・・俺。)
苦笑を漏らす蓮の目に映ったのは、司会を務めた3人から大きな花束を差し出される“鶏”の姿だった。

(そうか。彼、最後って言ってたな。結局、正体もわからないままだし、ひとことだけでも挨拶しておこう。)
そう思い、足を向けかけた蓮だったが
「蓮、おつかれ!悪いけど、これから事務所で急ぎの打ち合わせがあるんだ。すぐ出れるか?それが終わったら今日はもう上がりだから。」
後ろから社に声をかけられ、はっと我に返る。

(もう・・・会えないんだろうか。)
最後にきちんと挨拶もできなかったことを悔やみながら、蓮は早足でTBMを後にした。



「ほら、リーダー、はよ言いな。」
「そや、今日逃したらあとはないで。」
花束をうけとった坊姿のキョーコの前で、もじもじと落ち着かない光を2人が左右から急かす。
「あ、あ、あの・・・キ、キョーコちゃん。あとでちょっとだけ時間いいかな?」
光の言葉に、坊が首をかしげる。
「・・・はい?」
「帰り支度を済ませてからでいいから、ちょっとだけ時間がほしいんだ。ほら、今日で坊も最後だから・・・。」
なんだかよくわからないけれど、光さんの頼みなら・・・とキョーコはうなずいた。

「よ、よかった。じゃあ、あとで楽屋におじゃまするね。」





(続く)

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